本書では交通(鉄道の運行管理、航空機の管制など)や金融、原発、巨大プラントなどの巨大システムの組織的崩壊に至るトラブル全般を「メルトダウン」と呼び、それが起きやすい状況を整理して、どう防ぐのかを様々な事例を紹介しつつ説明しています。
例に挙げた巨大システムは、効率化を追求すればするほどより巨大に、複
...続きを読む雑、過密になっています。数多くの要素が複雑に関係しあう「複雑系」であり、かつそれぞれの要素間の繋がりに時間的余裕の少ない「密結合」である事が、メルトダウンを起こしやすいシステムの特徴であると述べています。
システムが巨大になってもオペレーター一人が把握できる視野、領域には上限があるためにシステムの運営に数多くの人が関与することになった結果、誰一人としてシステムの全体状況を正確に把握できないケースが最も危険であるとしています。
確かに航空機の管制では遥か数百㎞先の航空機の状況をモニターで監視しますが、巨大空港周辺の空域は管制官毎に細分化されていますし、管制官も自分の担当空域に関しても直接目視はできません。
原発の運転では高温・高圧・放射能で炉心の状況は各種センサーの数値を読み取ることでしか情報が得られません。この様なシステムの運営で、いかに「複雑系」をより「単純化」させ、「密結合」を「ゆるい結合」にするかというのが本書のテーマです。
「小さな兆候を見逃さない」、「多様性(ダイバーシティ)のある組織作り」、「円滑なコミュニケーション」等、システムが崩壊する前に必ず発する兆候を確実に掬い取るための組織作りの指針が具体的な例をもとに説明されています。
技術的な切り口というよりは、組織論に軸足を置いた内容です。著者の考えはオーソドックスで目新しい部分はありませんが、昨今の巨大システムのトラブルを目にして漠然と感じていた危なっかしさを的確に描き出している印象でした。