宮本雅史
1953年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、産経新聞社入社。1990年、ハーバード大学国際問題研究所に訪問研究員として留学。1993年、ゼネコン汚職事件のスクープで新聞協会賞を受賞。その後、書籍編集者、ジャーナリスト、産経新聞社那覇支局長を経て、現在、産経新聞東京本社編集委員。主な著書に『報道されない沖縄』『真実無罪』(共に角川学芸出版)、『「特攻」と遺族の戦後』『海の特攻「回天」』(共に角川ソフィア文庫)、『検察の疲労』『歪んだ正義』(共に角川文庫)、『電池が切れるまで』(角川つばさ文庫)などがある。
平野秀樹
1954年生まれ。九州大学卒業。国土庁防災企画官、大阪大学医学部講師、環境省環境影響評価課長、林野庁経営企画課長、農水省中部森林管理局長を歴任。博士(農学)。現在、東京財団上席研究員。日本ペンクラブ環境委員会委員。著書に『日本、買います』(新潮社)、『森林理想郷を求めて』(中公新書)、『森の巨人たち・巨木100選』(講談社)、『森林医学』『森林医学II』(共編著/朝倉書店)、『森林セラピー』(共編著/朝日新聞出版)、『宮本常一』(共著/河出書房新社)、『奪われる日本の森』(共著/新潮文庫)等がある。
「奄美の自然を中国人向けに売り出すことになります。リゾート施設もできるでしょうし、その結果、訪れるのは中国人ばかりになり、村はほとんど中国人によって占められるでしょう。環境に影響が出るのはもちろんですが、同時に、要衝だったこと、さらに今も要衝であることを考えると、安全保障上重要な地域に流入され、さらに、対馬や北海道のように不動産が買収される可能性も出てきています。外国資本の不動産買収に規制がない以上、北海道以上に問題が深刻になる可能性が高く、そうなると取り返しがつかなくなります」
「中国にとっても、奄美大島が軍事戦略上の要衝なのは分かっています。すでに身分を隠した工作員が便衣隊として情報収集のために入り込んでいるのです。便衣隊は身分は人民解放軍ですが、制服を着ないで一般人に交じって情報収集などを行います。中国は『一帯一路』構想の一環でミクロネシアの小さな島々を押えようとしているのですが、奄美もその一環です。何年も前から着手し、ここ2年ぐらいで顕著になっています」
「この地域はトレーラーも大型車も入って来られないような場所です。だから、自分だったら大金を払ってまでして買いません。最初の計画では農地を全部、買うという話だったのが、結局、買ったのは半分だけでした。でもなぜ、こんなところを、ほとんど村ごと買ったのか……おかしいとは思いました。買収に中国が関係しているという話は当時からあったんですが、高く売れればよかったから、だれも問題視しませんでした」 という声を複数聞いた。
「外国人観光客が増えて地域に活気が出るのは喜ばしいことです。でも 10 人に1人が外国人となると……。将来的に地方自治に影響が出て来るのではないか。そんな不安があります。そもそも、住民 10 人に1人が外国人という自治体ができていることが不安です」
「農地はかなり買収されていそうです。ただ、買われている事実は地元の人も分からないことが多いのです。あの農地は中国に買われていたんだ、と後になって気づいた……みたいな。たとえ売っても、農家の人は余り言わないから分かりません。登記しているかどうかも分からないから、一軒一軒、回って確認しないといけないんです」
「李首相が北海道に行ったということは、中国の北海道進出が本格的に動きだしたということです。李首相は滞在中、各方面に今後の方針を指示したはずです。日本政府が北海道訪問を歓迎したことで、北海道進出について日本政府のお墨付きを得たと受け止められても仕方がありません。今のままで行くと日本は 10 年から 15 年で侵食されてしまう恐れがあります。カナダやオーストラリア、マレーシアは中国の戦略を分かっています。気づいていないのは日本だけで、気がついたときには打つ手がなくなってしまっているかもしれません」 と強い口調で警告した。
韓国資本はどのようにして不動産の売買情報を手に入れるのだろうか。 戸沢さんが知り合いの不動産業者らから聞いたという話を総合すると、対馬に住む韓国人が空き家情報や売地情報などを韓国のスポンサーに流し、スポンサーと島民の間で直接、売買話を進める。最終段階や交渉が込み入ったとき、日本語が話せる韓国人の行政書士が仲介、売買をとりまとめるという。
「対馬自体が 要塞 です。対馬を手に入れると、日本海を押えることにもつながる。日本海を内海にして自由に航行することを目指す中国は当然、対馬を狙ってきます。現実的にそういう時代は来ると思います」
まず、私がなぜこのテーマにかかわることになったのか。このことからはじめさせていただきたい。 16 歳のころ、 能登半島を一人で旅したことがある。生来、行き止まりや端っこが好きで、都市より田舎の方が性に合っていたのだろう。国鉄能登線の終着駅、 蛸島 の砂浜で子どもたちから話しかけられたが、言葉がわからず会話が成り立たなかったのを覚えている。 播州 育ちの私は、初めて聞く奥能登の方言に本当に驚いた。それから読んだ『忘れられた日本人』(宮本常一)、『ものいわぬ農民』(大牟羅良) も新鮮だった。
元来、領土と国境に神経を使わない国はない。すべての活動の基盤は国土である。 国土から、食も水もエネルギーも生み出される。その 拠り所たる国土がこの 10 年で次々と国外化(グローバル化) していることに、もっと多くの人が関心をもってよい。 土地は重要な財産、富であり、社会の信頼の基礎になっている。土地は家計資産のトップに位置し、家計の中で 53%を占める。預貯金の 30%より大きい(総務省2016年:平成 26 年全国消費実態調査)。それゆえ、土地問題の利害は万人の利害に大きく、そして複雑に入り込む。それらの侵害は、社会及び国民生活への影響が少なくない。だから無関心であってはならないはずだ。
それにしても、どうして日本不動産が外国から狙われるのか。 その理由は簡単だ。誰でも買えて、まったく自由に転売することができるからだ。しかも、工夫次第で外国人なら保有税を支払わなくても済む。不動産売買が世界一フリーで、かつ所有者・使用者の権利が国内外差別なく保障されていることは、国際的に見れば非常に特殊であり、このことは国外でかなり知れわたっている。
「アジア太平洋地域で、不動産投資に外資規制が皆無なのは日本だけ」(『アジア太平洋不動産投資ガイド2011』)。ロンドン大学LSEからは、そんなお墨付きまでいただいている。
ニュージーランドの島の土地(0・4ヘクタール以上) を外国人が所有するには許可が必要だし、チリとパナマは国境から 10 ㎞以内、ペルーは 50 ㎞以内、メキシコは100㎞以内の土地について、外国人の所有を制限している。どの国も国境には気を遣っている。水資源や鉱山の直接所有を規制しているケースもある。 中国、インドネシア、フィリピンでは、そもそも外国人の土地所有は認められていないし、インド、シンガポール、マレーシア、バングラデシュは制限付きだ。スペインは、タックス・ヘイブン地域(国) からのすべての不動産投資を警戒し、事前許可としている。
米国も4割の州(ワシントン、ハワイ、アラスカなど) で規制をしているほか、外国投資・国家安全保障法(FINSA) による審査手続き(後ほど詳述) が機能している。スイスに至っては、連邦法(コラー法) において、土地の「過剰外国化」を阻止すると明記しており、無許可の取引は無効で登記不可。届出違反の土地は没収である。 要は、〈買われてしまうと国益を損なうモノ〉や〈買い戻せないモノ〉は売ってはいけないという視点が徹底されているのだが、今の日本にその視点は弱い。自由貿易、規制緩和がこの国の繁栄のすべてだと信じて疑わない。
目に見えない現象や想像しにくい問題より、娯楽や身近なお 金儲けの方が一般には受ける。議員も古ネタで演説しても盛り上がらない。おまけにブレーキ役も登場し、いつしかその役目を担う人たちの力の方が優勢になってきている。
確証はないのだが、外資問題の法制化を阻止したり、ブレーキをかける役割を担う何か特別な事情下にある者が、政界やマスコミに出没しているとしか思えない事例を私は何度か経験した。気概ある議員の主張が、不思議なことだが、何だかしだいにマイルドになり、現状を肯定するだけの平凡な議員になり変わっていくのである。ロビイストからの要請を断れない代議士や何らかの使命を担うマスコミ幹部たちがそれとなく説得するためだろうか。
国土が買収され続けていることについて、国民の多くは無関心なまま、「心配しても仕方がない」と傍観するに 留まっており、政府も寝た子を起こさない対応が大人の対応、冷静な対応だとして謙抑的な反応を続けている。財界と政府との区分が見えなくなっており、目先の経済的繁栄を追うことばかりに関心が向き、政府でなければできない重要な長期的施策の検討と結論を導き出す努力を怠っている。
世界史を概観すると、各国の領土は武力によって獲得されたものばかりではない。一括買収したものも少なくない。 アラスカ買収(1867年ロシア) が有名だが、 19 世紀のアメリカは先住民を駆逐しつつ、一方で北アメリカ大陸を先に支配していた諸国からその保有地を次々に買収し、領土を増やしていった。ルイジアナ(1803年フランス)、フロリダ(1819年スペイン) などがそうだ。
21 世紀の中国は、一帯一路という新たな侵出概念により攻勢をかけており、その手法は多岐にわたる。①国営企業等による個別交渉での買収・リース、②AIIB等による融資事業など、国ごとに様々なスキーム(枠組み) を用意し、拡張を続けている。
所有も利用も規制が緩い日本の際立ちぶりは、おそらく世界一だろう。 アジア太平洋の 14 の国と地域(オーストラリア、中国、香港、インド、インドネシア、日本、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイ、ベトナム) の中で、不動産投資に外資規制が皆無なのは日本だけである
振り返って考えてみると、それは1994年までの交渉時だけの問題ではなく、戦後の日本が長い期間、領土保全などの国家の安全保障にかかる諸問題について、無思考なまま、何ら身構えることなく、やり過ごしてしまったツケが回ってきたということでもあるのだろう。 「貿易立国として、経済だけを考えていればそれでよい」「不確定な未来を云々するより、経済だ。戦後はそれで回ってきたのだから……」そういった戦後日本の特異な成功体験が仇となり、今日まで判断を鈍らせてきたのかもしれない。
この先、対馬や北海道に見られるように、外国人によって静かにかつ合法的に既得権益が積み上げられ、実効支配というものが進んでいったとき、突然、外国人によって自治の宣言がなされてしまっても、政府は手をこまねいて見守るだけ……そんな不幸な事態も近い将来、起こり得るのではないだろうか。
今、北海道トマムのオーナーは中国の投資会社(復星集団) 傘下の「上海豫園旅游商城」(2015年)、サホロも復星集団傘下になった「クラブメッド」(2015年) である。ニセコはおおよそ 60%超えが中国・香港系になっている。トマムがある北海道占冠村は、人口動態調査(2018) で、全国市町村トップ( 15%増。対前年比) となったが、かつて占冠村長は次のような懸念を打ち明けていた。
平和は「祈ってさえいれば手にすることができる」という思いには、相手国も同様であってほしいという願望的な要素が多分に含まれているが、それは日本側の希望でしかない。
戦争によって領土を失うのではなく、アラスカのように一括売却されるわけでもなく、地権者一人ひとりの意思と買収者との合意で、一筆一筆、買いたいという国の人の手に渡っている。合法的だからと、問題視されることもなく。