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「高槻泰郎」の「大坂堂島米市場 江戸幕府vs市場経済」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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「高槻泰郎」の「大坂堂島米市場 江戸幕府vs市場経済」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
ビジネス・実用
Posted by ブクログ
大阪堂島にあった米市場について書かれた本。当時の資料を詳細に分析し、まとめ上げられており、学術的で論理的内容である。行われていた米取引は現物のみならず、先物も行われており、世界初の先物市場と言われていることを知った。当時の商人のみならず、監督者である幕府や、訴訟対応に当たった大阪奉行所など、その金融リテラシーの高さは、驚くべき事実だと思う。大きなお金の動く市場を安定的に運営する方法の研究は、素晴らしい着眼だと思うし、とても勉強になった。
「日本の大阪米市場は、世界初の組織的先物取引市場であるとする海外の方も少なくない。なかでも著名な人物としては、CMEグループの名誉会長であり「先物取引の父」とも呼ばれるレオ・メラメド氏が知られている」p5
「堂島米市場は日本よりも、むしろ海外において認知度が高いとすら言える状況である」p5
「大阪の米市は、ごく初期の段階から、米そのものを売買する市場ではなくなり、手形で売買する市場になっていた。それのみならず、米手形は実際に在庫されている米の量以上に発行されていた。大阪の米市は早くから単なる米の販売市場にとどまらず、将来の収入を引き当てにして諸大名が資金調達をする金融市場としても機能していたのである」p31
「商品・現金のやりとりを避け、手形での決済を好むのは、大阪をはじめとする上方商人の特質と言われている。例えば、明治政府が行った商業慣例調査においても、現金の授受による決済が支配的であった江戸とは対照的に、京・大阪では手形での決済が一般的であったことが報告されている」p31
「江戸時代の日本で大規模な凶作が発生した年には、東アジアの夏季平均気温が低位に推移していたことが確認されている。だが、享保期はその逆であったことから、米作にとって中立的か、あるいは望ましい気象条件が持続したと考えれれる」p57
「(堂島米市場)米切手を売買する正米商い(スポット取引)、先物取引である帳合う米商い、そして虎市(売買単位の小さい帳合米商い)の3つに分かれていた」p107
「取引開始時点を寄付、取引終了時点を引片と呼んだ。夕方の終わりを「大引」としている」p111
「(商家秘録)「数千の人、毎日数十万俵うりかい、一俵も違わず日々滞りなく帳面納まる事、またほかにたぐいなき商いなり」」p142
「幕末の堂島米市場では慢性的な鞘開き(現物と先物の価格差)に悩まされ、明治2年には、まさにこの鞘開きを1つの理由として、廃止の憂き目に遭っている。明治4年に再出発することになるが、そこでは、満期日における米現物の受け渡しによる決済が、例外規定としてではなく、ルールとして明記されている。つまり、堂島米市場は、明治4年以降に正真正銘の商品先物市場となったのである」p155
「(藩による品質管理の厳しさ)1870年代から80年代にかけて、廃藩置県と地租改正によって領主制は解体し、物納年貢から金納地租への切り替えが進む中、熊本県を含む全国各地で産米品質が悪化したことが知られている。砂を混ぜたり水をかけたりして目方をごまかす、良米と称しつつ粗悪米を混入する、などの行為が横行したのである」p168
「江戸幕府は市場経済に疎いなどという評価は、少なくとも18世紀以降については、全くあてはならないことがわかる」p271
「(旗振り通信)大阪からの通信時間は、和歌山が3分、京都が4分、神戸が7分、桑名が10分、岡山が15分、広島が40分弱であったとされる。通信の平均速度は720km」p291
「現代に暮らすわれわれがそうであるように、通信速度の希求は不可逆的なものである。飛脚が遅いとして米飛脚が生まれ、並便では遅いとして早便が生まれ、早便でも遅いと旗振り通信が生まれる。江戸幕府が押しとどめようとしても、この流れは決して止まらなかった」p295
Posted by ブクログ
前著『近世米市場の形成と展開』の内容を,新書レベルでわかりやすく解説するに留まらず,その後進捗された新たな研究の内容も踏まえた力作。前半では,大坂堂島米市場の取引システムに対する説明を詳細に描き,後半では,そこを舞台として繰り広げられる「江戸幕府と市場との格闘を観察,考察」(170頁)している。
副題として「江戸幕府vs市場経済」と付されているが,けっして幕府が市場経済に反抗的・対立的であったのではない。むしろ幕府は,時の政府として,法令や制度,あるいは大坂町奉行の判例を通じて,市場の失敗を保護,是正する役割を果たしていた。徳川時代が「幕藩体制」という近代法治国家以前の政治経済システムにあるものの,市場メカニズムに対する政府の役割は,古今を通じて基本的に大きく変わることはない。それを当時の一次資料を介して微視的に分析し,実証できるところは事細かにわたって実証し,まだ実証できていない点については,確からしさの高い著者の展望が述べられている。
強いて言えば,各章に費やされた頁数のバランスは良くない。第1章が12頁で終わってしまっているにも拘わらず,次章へと進むごとに頁数が増し,第5章「堂島米市場における取引」に至っては,読破までに50頁を要する。これは,新書の1章として実に長い。そうかと思うと,第6章は12頁に終始する。そして,クライマックスを迎える第9章「米価低落問題に挑んだ江戸幕府」でも,再び50頁近くが費やされている。一般的な新書ユーザーにとって,キリの良い章末まで読もうという意識を持っていると,なかなかそのゴールテープを切れない時がある。だが,長編である第5章と第9章こそ,著者の研究の真骨頂に相当する。帳合米商いという先物市場における取引ルールの特徴が把握できると,その市場秩序を維持するために,民間である商人と政府である大坂町奉行所,ひいては江戸幕府がどのような行動を振る舞い,どの程度(近世当時のレベルとして)公正かつ合理的であったのかが,理解できよう。
本文中には,著者がこれまで利用してきた数々の一次資料が文面どおり紹介されているが,その掲載順が,「現代語訳」から始まり,続いて「史料原文」が書かれているのも,一般の読者向けに親切な対応である。それととともに,当時の文章のリズミカルな書き方も,全く失われていない。
本書の購入ターゲット層は,現代の金融資産や先物取引といったファイナンスに興味あるビジネスパーソンにあるのかもしれないが,著者の思いは,それに限定されたものではない。あとがきを読むと,「経済学と歴史学の分析手法の双方を採り入れて歴史的事実の解明を進める経済史学」(304頁)のおもしろさや魅力を,とくに学生に伝え,一人でも多くの若者に対して,この分野の研究にチャレンジしてほしいという願望が込められている。そのヒントとして,著者は,本文の諸処において,実証的には未解明であるものの,それが明らかになると非常に興味深くなるシグナルを発信している。それこそ,次世代の研究課題に採り上げられよう。そうした著者の気持ちに,評者も微力ながら応えられば幸いである。