東西ドイツを分断していたベルリンの壁。その壁が間もなく崩壊し
ようという時、西ドイツ側から壁の上に登ってギターをかき鳴らし
ながら歌う妙な日本人の姿があった。
曲はザ・スパイダースの「バン・バン・バン」。歌っていたのはムッシュ。
そう、かまやつひろしである。何してたんだよ~、ムッシュ~。
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そんなムッシュが還暦を迎えて自身の音楽の変遷などを綴った自伝
的エッセイの文庫版が本書。単行本発行から10年後に文庫が出て
いるので、最終章に「ボーナストラック」が収録されており還暦後の
活動や音楽に対しての思いが書かれている。
もう、冒頭の還暦パーティだけで出るわ、出るわ、凄いメンバーが。
音頭を取ったのが松任谷由実、実行委員会が吉田拓郎に泉谷
しげる、斉藤ノブ。パーティの出席者に至っては堺正章は勿論の
こと、石井竜也(カールスモーキー石井)、高橋幸宏、井上陽水、
吉田美奈子、森山良子等々。
錚々たるメンバーなんだよな。それもこれもムッシュの音楽活動の
長さと幅の広さから集まった人たちなんだよな。
日系二世の父の影響でジャズに触れ、カントリー&ウエスタンに
傾倒したかと思ったら、ビートルズの登場でイギリス人に憧れ、
ザ・スパイダースとしてGSブームに乗っかり、解散後はフォーク
でもロックでもフュージョンでもなんでもあり。
その時々で興味を持った音楽を、どんどん自分の中に取り込んで
行く。一つのジャンルにこだわらず、やりたい音楽をやりたい人と
組んでチャレンジしてみる。売れる・売れないは二の次。とことん
音楽が好きなんだな、この人は。
時には思い通りにならないこともあっただろうが、それでもここまで
好きなことをやって過ごしてこれたのだもの。素敵だな。
本書の中でもたくさんのミュージシャン・芸能人の名前が出て来るが、
私がいいなぁと思ったエピソードをいくつか。
学園紛争真っ盛りの時代の大学祭。青山学院の学園祭で浅川マキ
が出演中にステージに火炎瓶が投げ込まれた。「何よ、これは!」。
ビビるどころか、観客席に投げ返し学生運動家と口論を始める浅川
マキ。格好いい~。
ムッシュ初のソロ・アルバムに感動して、深夜に電話をかけて来た
内田裕也。「あなた、何時だと思ってるの!」。ムッシュから電話を
ひったくり、裕也さんを怒鳴りつけるムッシュの奥様。素敵。
ムッシュの大ヒット「我が良き友よ」に対して「あの歌は、あなたが
ちっとも感情移入していないからいいのよね。私がもしあの歌を
歌っていたら、きっと感情が入りすぎて失敗していたでしょうね」
と分析する美空ひばり。お嬢、凄い。
この文庫発行から既に7年。ムッシュも77歳になったんだねぇ。
尚、映画「戦国自衛隊」は主演の千葉真一ではなく、ムッシュを
見る映画だと思っている。
映画やテレビドラマでも、あの、とぼけた顔でいい味出してたんだ
よな~。