久しぶりに、いい本を読んだ。高校教育のあり方を学ぶことができた。
定時制高校の『宙わたる教室』伊与原新(著)の物語も良かった。こういう本が出てくるのは頼もしい。
水産高校の定員割れの中で、水産高校らしさとは?そして大きな目標を立てる。
福井県の小浜水産高校は、1895(明治28)年に開校した、日本で一番歴史のある水産高校である。
福井県南西部に位置する小浜は、古くは大陸文化の窓口として、京の都へ文化を伝えた歴史があり、「海のある奈良」とも呼ばれる。
2001年、その小浜水産高校食品工業学科に東京水産大学を卒業した一人の新米教師の小坂康之が初出勤した。彼は、神奈川県大和市で生まれ育った。スキューバダイビングが趣味だった。
小浜水産学校は、前は福井県簡易農学校水産科で、大正時代から魚介類の缶づめの製造をしたのが原点で、サバ缶で有名だった。昭和から平成の初頭には年間1万缶ほど製造していた。サバの生の身を蒸気で加熱する。水溶性タンパク質を含む水分が出てくるので、それを捨てる。蒸煮することで、生臭さがなくなり、汁は濁りがなく澄む。
NASAが有人月面着陸をめざすアポロ計画のために、衛生管理システムHACCP(Hazard Anaiysis and Critical Control Point:危害要因分析・重要管理点)が1960年代にできた。
1993年に国連の専門機関による食品規格委員会(コーデックス)がHACCP適用のガイドラインを公表し、世界の食品メーカーに広まっていった。日本でも2021年6月から食品業者にHACCPによる衛生管理が義務付けられている。
2005年に全国の水産高校の教師を対象に、HACCPの講習会が行われ、小坂も参加した。
その時に 一般社団法人「大日本水産会」の高取直樹と出会い、小坂と協力して、小浜高校のHACCP取得を始める。HACCPを取るのが難しい。お金がかかる。大変だというハードルを越えていった。
水産高校で、HACCPが取れるのか?
高鳥は、HCCPを使って生徒に気づきの機会を与え、人材育成を行うことが目的という。
工夫して、問題を見つけて、話し合って解決法を探していく。エアーシャワーをコロコロで行う。
2006年12月、全国の水産高校で二番目にHACCPをとった。
HACCPをとったことで、小坂が生徒にHACCPの由来を説明したら、「宇宙食、つくれるんちゃう。」という意見があり、サバ缶が宇宙に行く始まりとなった。
そんな中で、水産高校の定員割れ問題が起こり、高校統合の計画が上がる。
水産高校としては、海をきれいにするアマモマーメイドプロジェクトでアマモ定植活動をしたり、エチゼンクラゲが大量発生に困っている漁師からの相談を受けて、「えくらちゃんクッキー」を開発して、販売したり、水産学校らしい地域の課題に取り組み、漁師や地域の人に評価されていることが重要だった。そして、教育困難校だった水産高校が、進学高校の若狭高校と合併することになる。若狭高校海洋科学科となった。
進学高校は、知識を覚えるのが勉強だった。探究する時間があれば勉強すべしという考え方だ。若狭高校の教育理念は、「異質なものに対する理解と寛容の精神」であった。宇宙食を目指したサバ缶の話をした小坂の話には、「そんなこと、実現するんですか?」「本当にできるんですか?」「勉強と関係あるんですか?」という質問に対して開発する楽しさを海洋学科の生徒を通じて、学ばせたのだ。
高校教育には、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体性・多様性・協働性」を学力の3要素としている。
2014年、新たな宇宙食候補33品目に、若狭高校の「サバ醤油味付け缶づめ」が入っていた。
保存試験、そしてさらに美味しく、柔らかくをテーマに改良。葛粉は9%でとろみをつける。砂糖が味を濃くする。2018年11月12日、さば醤油味付け缶づめをJAXA宇宙日本食として認証する式典が行われた。
2020年11月16日 野口飛行士を載せたクルードラゴン・レジリエンス号が、サバ缶と一緒に宇宙に飛び出した。11月27日 野口飛行士が、サバ缶を食べて、美味しいとYouTubeで配信。宇宙で、サバ缶が初めて食べられることになった。
サバ缶を宇宙に届けるのに、14年かかっている。高校という世代交代していく中で、伝承することの難しさがあり、それを乗り越えていった。それは大きな夢のある目標を掲げたことが、つなげることができた。先輩たちの夢と研究データを後輩たちが受け継ぎ、さらにブラッシュアップしていく「世代を超えた協働」と、それを伴走者として支え続けた教師の情熱が見事に本書の中に凝縮されている。
「サバ缶製造」という地元の伝統技術。それをただ守るだけでなく、最先端の衛生基準のHACCPを知恵と工夫で導入し、さらに「宇宙食」という最先端のフィールドへと昇華させた。食品物語としても卓越している。宇宙の無重力空間でも飛び散らないための「葛粉による絶妙なとろみ」や、宇宙空間での味覚変化に対応する調味、濃い味が欲しいという宇宙飛行士の気持ちになって作り上げる。「本当の学びとは何か」という問いから、利他的精神の発揮。日本の高校も素晴らしいものを持っている。
小坂康之先生は、生徒の変化を正確につかみ、言語化していく能力がある。