レーダーマン著,青木薫訳ということで,これは読まなくちゃと思ってた。
冒頭,目次裏に“本書を、税金で基礎研究を支えてくださっている国民のみなさんに捧げる。”とある。著者が伝えたかったのは,「加速器は強力な顕微鏡」という大変シンプルな主張。超ひも理論だ何だじゃなくて,「加速器は凄い顕微鏡!」ってシンプ
...続きを読むルに報道してくれさえすれば,SSCのときのように納税者から無用な反発はないはずだ,とのこと。
実際はそんな単純な納税者ばかりではなくて,やはり金かかるのに実用性ないって嫌がられるような気もするが,実験素粒子物理学者としての矜持が感じられる本だった。
一貫してアメリカの基礎研究への投資が少ないことに警鐘を鳴らしてて,LHCの欧州やスーパーカミオカンデの日本や,中国に置いていかれることを危惧みたいな論調だったけど,えっ…日本が潤沢…?ってちょっと違和感だったのは否めない。
SSCの打ち切りを嘆き,多様な基礎研究への投資を呼びかけるレーダーマン。結構激しい
“経済を成長させているのは科学だという、ほとんどの人にとって…わかりきったことを、頭でっかちの経済学者たちが自分たちの専門用語で理解するまでに、なんと二百年以上もかかったというわけだ。”p13
90年代素粒子物理学コミュニティで起こった極めて対照的な出来事。
欧州ではwwwが産声を上げた。これは急速に輪を広げ,その後の世界を変革し大きな経済成長につながる。
一方,アメリカでは研究者たちの必死の努力にもかかわらず,巨大加速器SSCの計画が潰えた。大西洋を挟んで明暗。
“経済成長を駆動するのは科学研究だという新しい経済理論、というよりむしろ言うまでもない事実は、アメリカ連邦議会では何の影響力も持てなかったし、今に至るも持てないでいる。”p.17
えっとこれトランプになる前に書かれてるんだけど,アメリカでそうならいったい日本は…?
LHCの陽子ビーム,1つのパルスに細胞1個ぶんの原子の数くらいの陽子があるらしいんだけど,その運動エネルギーが時速百キロで突っ走るトラック一台ぶんだとかすごすぎるよ…。
光速の何%とか言うよりはるかに加速器のやばさを感じた。
こういうところに理論家への反発が垣間見えるの良い。
“衝突型加速器を作るのは、非常に小さな距離スケールで、この自然界で何が起こっているかを明らかにするためだ。あれこれの理論家の派閥が提唱するどれかの説に、証拠を与えるためなどではないのである。”p.264