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小説・文芸
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Posted by ブクログ
英語は「リターン」だから『シャーロック・ホームズの帰還』でいいのだが、死にかかったんじゃないかというと『生還』と言って喜びたいし、いやいったんは完全に殺されてしまったんだから『復活』というのもむべなるかな。ウルトラマン派なら『帰ってきたシャーロック・ホームズ』、ゴジラ派なら『シャーロック・ホームズの逆襲』、なんとでも訳すべし。
たといホームズがモリアーティ教授とともにライヘンバッハの滝に落ちようとも、その場を目撃する者とてなく、死体も確認されていないとあっては「復活」、いやさ「帰還」させるのは簡単と「空き家の冒険」。かくて、ドイルのシャーロック・ホームズ謀殺の嫌疑は晴れたが、そのかわりに彼は別の一人を手にかける。ワトスン夫人である。
「悲しい別れがあった」のひと言でワトスンを男やもめにしてしまい、さらに開業医もやめさせて、再びベーカー街でホームズと共同生活。ホームズの記録者としてその方が好都合だからだが、可哀想なのはワトスン。もっと可哀想なのは一言殺人の犠牲者、ワトスン夫人メアリ。いやいや、いいのだ、メアリという登場人物はドイルがひそかに憎む彼の母親メアリの分身。殺せ殺せやっちまえ。そういえば、「アビ農園」でアル中の夫に暴力を振るわれる貴婦人も名前はメアリ。
またもやホームズ譚を連作しなければならなくなったドイル、やはりプロットには苦労したようだ。「踊る人形」の暗号解読はシリーズの中でも新機軸であろう。「孤独な自転車乗り」はその出来にドイルは留保をつけていたようだが、とても絵になる。新潮社版で「美しき自転車乗り」にしたくなるわけだ。他方、正義のためにホームズとワトスンに犯罪を犯させたり、やはり正義のために官憲には真相を告げず、ワトスンに陪審員をやらせて、勝手に判決をくだしたり、法は敵ともなるといって、事件をなかったことにしたり、法の番人ではなく正義の番人。ちょっと危険な徴候。
と自分で気がついたからでもあるまいが、ホームズ氏は引退してサセックスの丘陵で研究とミツバチの飼育にいそしんでいるそうだ。もちろんあと3冊ぶんは引退させてもらえないのだがね。そうだろう、ワトスン?