以下とりとめのない感情垂れ流しの感想。翻訳ということもあり正直読みにくい、分かりづらいと感じるところも多々あったが、そうであったとしてもあまりに重厚な物語にこの世界から離れることが本当に惜しい。この巻に至るまで、何度も何度も「おぇぇ……」「やめて……」「うそだろ……」とのたうち回ったか。特に3巻冒頭
...続きを読むは、ローレントおまえ嘘だろ!嘘だといえ!嘘だよな!?と何度もページを捲っては戻し、2巻で初めて体を重ねたときのことを思い返し、デイメンの心の傷を思い、めちゃくちゃ辛かった。いや、嘘だと思う。本心はきっとローレントだって……とデイメンのごとくローレントの横顔に縋り、デイメンがニカンドロスに窘められると一緒になって落ち込んだ。(そして辛すぎた私は先のページで二人が体を重ねる挿絵があることを何度も確認し、心を落ち着かせた)。
その後、酒によったローレントの口から本音が聞けたときの喜びと、ローレントがそうまでして孤独を抱える意味を考え、辛くなる。ジョカステとローレントの対話シーンは、ローレントの口から嘘が本当かもわからないデイメンとの夜の話を聞かされて、私これどういう感情でよめばええのん!? となりました。
ほとんどのシーンがシリアスにすすんでいくものの、二度目の行為の朝にパラスがやってきたシーンはデイメンの狼狽っぷりと、ローレントのケロットした様子に笑ってしまった。パラスがめちゃくちゃ不憫だったが、ローレントの可愛さがきわだっていた。まさかローレントを可愛いと思ってしまうなんて……可愛い……。
また、本作一番の問題であり闇でもあった執政とローレントの関係は胸が締め付けられそうになった。あまりにも胸くそが悪い。いや、執政は終始胸糞が悪いのだが……ようやくローレントがこれまで見せてきたふとした感情の意味を理解できる。ニケイス、アイメリック……
何も知らないデイメンが「兄を失ったあとお前は一人じゃなかったのだな」というシーン、読み返すと、あぁぁぁぁ……ってなるし、執政とは一人で戦わねばならないと思っていたというローレントに、デイメンが「おまえは一人じゃない」というシーンで、ふぁぁぁ……ってなるし、その後、策にはまり執政に己の身を犠牲に差し出したローレントが「一人で」戦っていることに気づくデイメンに、うぁぁぁぁ………ってなるし……わたしの感情、どうなってしまうんや……と思っていた。とんでもないジェットコースター展開。
執政の策がなければ、彼らは会うこともなく、もしかするとデイメンは外の世界を何も知らないまま聞く耳の持たぬダメな王になっていたかもしれないし、ローレントは執政に一人抗い死んでいったかもしれない……。ローレントとデイメンがこんな形でしか出会えなかったのが苦しいのに、きっと彼らはこんな形でしかきっと出会うことはなかったのだろうと思うと複雑だし、それはおそらく二人が一番わかっている。
全てを拒絶し誰も信じられなくなったローレントが唯一心を動かされたのがローレントが誰よりも憎しみを抱きこの手で殺そうとすら考えていたデイメンただ一人であり、その感情すら押し殺し抗おうとしながらも本当は誰よりも自分が彼を愛してしまったことを悟っていたローレント……誰よりも幸せになってほしい。
最初の一巻を読んだときは、歪んだ性の価値観が蔓延したディストピア……? と思ったけど、どちらかというと性の価値観がある種自由な中世で、隣り合わせでありながらまったく違う価値観の持った王国の陰謀と欺瞞と私欲と、それらに必死に抗おうとする真実の物語だった。抗うべきは二人を陥れようとしてくるそれらについてもそうだし、自分自身が抱える欺瞞や偏見や執着にも抗わなくちゃならない。
愛した人を殺された憎しみや非道に虐げられた屈辱が確かにあったはずだけたど、それらを拭い去り、かすかな罪悪感を覚えながらも、許しを請いながら、嘘偽りのない気持ちに向き合い惹かれ合うローレントとデイメン、愛しい以外の何物でもない。永遠に幸せでいてほしい。この二人に出会えてよかった。本当に良かった。