特集は桜、さくら、サクラ。
<世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし>
在原業平『古今和歌集』
<夜半さめて見れば夜半さえしらじらと桜散りおりとどまらざらん> 馬場あき子『雪鬼華麗』
<夕闇の桜花の記憶と重なりてはじめて聴きし日の君が血のおと> 河野裕子『森のやうに獣のや
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大野道夫さんの論考 短歌の「桜」と俳句の「桜」
短歌の抒情・俳句の叙景
が興味深かったです。
短歌と俳句の比較の試み
<ひさかたの光のどけき春の日に静心なく花の散るらむ> 紀 友則『古今集』
<ちるさくら海あおければ海へちる>
高屋窓秋『白い夏野』
<清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき> 与謝野晶子『みだれ髪』
<夜桜やひとつ莚に恋敵> 黛まどか『B面の夏』
<さくらさくらさくら咲き初め咲き終りなにもなかったような公園> 俵万智『サラダ記念日』
<山又山山桜又山桜> 阿波野青畝『甲子園』
<いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほいぬるかな> 伊勢大輔『詞花集』
<奈良七重七堂伽藍八重桜> 松尾芭蕉『泊船集』
<梅雨の夜は重たく赤く濡れている小さき球のさくらんぼ食む> 小島なお『乱反射』
<夕日より濃き桜桃を竿秤> 有馬朗人『天為』
短歌、俳句と桜の魔力。
やはり短歌は抒情的で動きや<心>、「人生」などを詠みこみ、俳句は叙景的で、季語を駆使して時間や季節を詠みこむ傾向があるようである。
〇隠れた「桜」の名歌より
<二千年ここにたちゐて咲く花に人はほほ笑む花もほほ笑む> 武川忠一『翔影』
<この日ごろ桜ゆたかに咲きをりて風吹くときに幹あざやけし> 鈴木幸輔『長風』
<桜沢かずかぎりなくはなびらの散りゆく谷の奥処知らずも> 小見山輝『春傷歌』
<風寒き我が山かげの遅桜おくれたりとも知らんで咲くらん> 樋口一葉『樋口一葉和歌集』
<さくらのゆめの清流なればすずやかに桜が泳ぐ岩魚にまじり> 渡辺松男『牧野植物園』
<呼ぶ声に顔を上げれば夜桜がポップコーンのように明るい> 笠木拓『はるかカーテンコールまで』