生物学は、人種の間に差はない、現生人類は進化が止まっているという学説を主流においた。著者は主流学説に反して、現在も人類は進化し続けているとする。以下印象的な箇所のレジュメ。
・植物や動物は、残したい形質を選択的に遺伝させることで、品種改良できる。品種改良は数世代で簡単に行える。品種改良は進化の一種
...続きを読むである。つまり、進化は短期間でも起きる。
・現生人類とネアンデルタール人は、種として異なるという説が主流だが、現生人類は、絶滅前のネアンデルタール人と混血して、彼らの遺伝子を取り入れた。ネアンデルタール人の特徴を受け継いだからこそ、現生人類は繁栄することができた。
・牛乳を飲んで、栄養を摂取することを可能にする遺伝子をヨーロッパ系の人は持っている。牛の牧畜を長年してきたためである。牛乳を飲む習慣のなかったアジア系の人には、この遺伝子が少ない。
・ヨーロッパ系の人が、アフリカ、アメリカ大陸に侵略した時、彼らの持ち込んだウィルスが現地の人に感染して、大量の死者が出た。ヨーロッパ系の人は農耕牧畜生活、都市生活の歴史が長く、家畜から人へのウィルス感染、人口密集地でのウィルス感染の経験が多く、ウィルス耐性ができていた。アフリカ、アメリカ大陸の人には、ヨーロッパ系の人が持ち込んだウィルスの耐性遺伝子がなかったので、大量の死者が出た。
・文化はすぐに伝播するというが、関連する遺伝子を受け継いでいないと、すぐに馴染めない場合がある。ネイティブアメリカンの人が、欧米型の食生活になると、成人病になりやすい。
・ユダヤ人は、ヨーロッパの知識学術分野で存在感がある。ユダヤ人でノーベル賞など学術系の賞を受賞している人の比率は、ユダヤ人の人口比率に比べて高い。何故か。ヨーロッパのユダヤ人は、中世の頃から(キリスト教徒が忌み嫌っていた)金融や貿易商の仕事をしていた。金融の仕事を行うには、論理的思考能力が必要だったし、ユダヤ人は他の民族と交わらず自分たちだけで子孫を形成したので、論理的思考能力に富んだ形質が代々受け継がれた。かつ裕福で教育に取り組む余裕もあった。これが、ユダヤ人が数学、文学、音楽、芸術分野で活躍している要因である(ユダヤ人の能力平均を見ると、空間の認知構成力が弱い。それ故にか建築家で活躍しているユダヤ人は少ない)。イスラム圏で生活したユダヤ人は、人口が多かったし、金融など特定の仕事を代々行うこともなく社会に分散していたので、ヨーロッパ系ユダヤ人のような特質を発揮していない。
以上、現在主流の学説に反駁して人種差別を助長しかねない仮説が展開される。著者は、人類が今でも遺伝によって進化しているという説を受け入れないと、歴史研究に進展はないという。
著者の仮説そのものよりも、当書に描かれた人類の過去の歴史を読むことの方が面白かった。近代以前、戦争に負ければ、男は奴隷として死ぬまで過酷な肉体労働に従事させられるし、女は戦勝国の皇帝のハーレムに入れられる。今そんなことが起きれば、報道とネットで酷評されるだろうし、被害にあった個人が、告発の文章を発表するだろう。現代も随分と息苦しい時代だが、人権概念のなかった過去は悲惨だ。奴隷やハーレムの女性が毎日何を考え、経験していたのか、小説として読みたいと思った。