官僚として北海道や国土の総合開発計画業務に従事した後、北海道の公立大学に身を転じ、地方の課題解決に向けた実践的な政策研究に取り組んでいる著者。
そんな著者が自らの実践活動から得た気づきや地域活性化のためのヒントを語る。
著者は、巨大災害時のバックアップ拠点の必要性や新型コロナウイルスの教訓も踏まえ、
...続きを読む東京からの本社機能の移転など、分散型、分権型の国づくりの必要性を提起し、その実践例や今後の方策について次の3つの視点から論じる。
一つは中央から離れた地方には、比較優位な資源があり、それを見つけ、活用するための大胆な発想と着眼が大事という「辺境からの発想」。この点については、自らの経験から北方領土交渉や沖縄の基地問題に触れ、地域の知恵と経験を活用した領土交渉や沖縄独自の地域政策の必要性を熱く語っている。
また、著者が携わった中央アジアにおける市場経済化を目指した地域総合開発にも言及している。
二つめは、弱者も含め、地域全体が相互に支え合う「共生の思想」。ここではコモンズ(入会を目的とする共有地)の概念やその事例について重点的に説明している。日本においては土地は私的所有権が強く守られており、その有効活用のためには、市場原理に任すか、国家が管理するかであるが、利害の対立を超えた協力関係構築により自主的に持続可能な管理をしていくという第三の道があるという。環境に配慮し、工業団地の保全緑地を管理する苫東環境コモンズがその事例。他にも持続的な漁業維持を目指してプール制による資源管理型漁業を展開する静岡県桜えび漁協、道の駅に防災機能を持たせる取組や遊水地の管理などの例も紹介されている。さらに北欧における自然享受権や万人権、外国人との共生を図り多文化を力にするニセコの取組にも着目している。
最後の視点である「連帯のメカニズム」は、つながりと信頼で地域を支える力にするというもの。生活保護からの自立を支援する釧路市の取組や電子書籍化に取り組む団体の事例が紹介されている。また、北海道胆振東部地震時に起きた大規模停電(ブラックアウト)を教訓に経済効率性を求める集中のメカニズムと安定供給に向けたリスク分散のバランスを考え、域内の連携力で最適なエネルギーシステムを形成する意義を論じている。
中央官僚として、地域の総合開発計画に携わっていただけあって、スケールの大きい視点からの地方活性化論となっている。地域で取り組む団体の代表者らによる論じ方とはひと味違うものを感じた。