スコットランド啓蒙と空想社会主義の交錯地点という感じがする。原文を読んでいないからなんともいえないが、勤労と技芸の洗練の賞賛はまさにヒューム的発想であると思えるし、楽しい労働というのはフーリエの専売特許である。
翻訳が非常にこなれていて、解説も詳しい。ロンドンという街を詳しく知っていたらもっと楽しく
...続きを読む読めるのだろう。現代においては、1989年以来のトラウマというか、ユートピアを描いた物語は必ずディストピアとなる帰結を伴うのであるが、この小説はそんなことはない。
とはいえ、読み方によってはその側面がないとはいえない。たとえば、怠惰であることは病気とみなされるほどなのである。まぁ、スコットランドの哲学では、怠惰と安逸は明確に区別されていて、強制労働という訳ではあるまいが。また、誰もやりたがらない仕事なくして人々の生活が成り立つものだろうか? ここはユートピアなのだから、そのような質問は野暮である。まさにここのところがフーリエ的であるといえよう。モリスの方が子供達の地位が高いにせよ。
それにしても、この本を読んでからここ東京の街を眺めてみるとどうだろう!もう2014年だというのに、なんと醜いことか。美しいことが正義であるとは必ずしも言えないが、やはりわれわれは貧しいのではないだろうか。この物語が教えてくれるのは、貧しくないということは例えばどのような状態なのか、ということである。