災厄な災禍とも言える状態の中で、この作品に出合うことが出来たのは幸運だったと思います。
インフルエンザに似た症状を起こし、わずか28時間という短い時間で男性を死に至らしめる疫病。
潜伏期間も短く、死亡に至ってはあっという間。
ワクチンの開発は厳しく、平凡で幸せな家族が夫を、男の子である我
...続きを読むが子の死を見つめるしかない。
世界は一変し、男性の仕事を女性が行い、食料も減ったために配給制度に変わっていく。
そんな物語の中心にいるのは、人類学者のキャサリン・ローレンス。彼女は夫と息子を亡くすことになる。
そして、のちに0号感染者と呼ばれるユアン・フレイザーを診断し、看取った救急外来の担当医であるアマンダ・マクリーン。彼女は夫と二人の子供を失うことになる。
そして、英国情報局に勤務する黒人女性のドーン・ウィリアムズ。
こうした人物を中心に物語は変わっていく世界を冷徹な眼差しで映し出していく。
90%の致死率の疫病が世界を変えていく。人口も減り、人々の役割も変わっていくが、それでも変わらないものもあり……。
とくに主人公的なポジションにいるキャサリンがこの世界を記録した著作の中で『世界が無差別な残酷に満ちているときに様々な形で示しているときに、どうして楽観的に生きられるのだろう? 楽観主義は特権だ』という言葉が痛い。
現実の世界でも今、私たちは災禍の中にいる。
その現実と真摯に向かい合いたいと思わせてくれた一冊だった。