「ブランド論」は、単なる名称やロゴマークを超えた、企業と顧客との「約束」としてのブランドの重要性を説く一冊です。ハーバード大学のマイケル・ポーターによる競争戦略論に対し、本書では企業の資産や能力に焦点を当てた新しい戦略論を提示しています。
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### ブランドは未来の成功のための資産
著者は、ブランドを単なる広報宣伝の戦術的な取り組みではなく、事業戦略の決定要因となる「資産」と捉えています。1980年代後半に生まれた「ブランドは資産であり、資産価値を持ち、事業戦略およびその業績を左右する」という発想が、ブランド構築のあり方を大きく変えました。
ブランドは、機能面だけでなく、情緒面や自己表現、人間関係においても顧客の役に立つという約束を守ることで、顧客との関係性を築き、継続的な価値を生み出します。つまり、顧客がブランドに触れるたびに生まれる感触や体験が積み重なり、ブランドは成長していくのです。
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### 戦略的ブランド・ビジョンの重要性
ブランドは、**現在と未来の両方の事業戦略と結びつき、将来の製品・サービスやマーケティング・プログラムを指し示す道標**となるような「戦略的ブランド・ビジョン」が不可欠であると強調されています。これは、顧客に「知覚品質」を与えるためのプラットフォームとなります。
また、サイロごとにブランド構築を進めると、非効率や機会損失、ブランドの縮小が生じるため、ブランドを使用するすべての国や製品にまたがる中央集権的な調整が必要不可欠です。
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### 組織内部の理解と賛同
「資産としてのブランド」という考え方は、組織内部の理解と賛同も求めます。社員がブランドを「信じ」、すべての顧客接点においてそのブランドを「実演」しなければ、ブランドの約束は果たされません。
ブランド資産の価値は、ケーススタディやブランド・バリュエーション、ブランド・エクイティ効果の定量分析、事業戦略における役割を示す概念モデルなど、さまざまな方法で証明できます。
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### 顧客に認識させる「ブランド・ビジョン」
ブランドには、顧客や関係者(社員や事業パートナーなど)の目から見たときに、そのブランドがどうあってほしいかを明確に言葉で説明した「ブランド・ビジョン」が必要です。これは、戦略プラン策定プロセスの中心となるべき存在です。
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### 差別化とイノベーション
ブランドは、競争のために複数の側面を改善し、新しい側面を加えて成長の土台を築く必要があります。ブランド連想は、価値提案を支える「差別化ポイント」を示すか、または他ブランドとの「平準化ポイント」を示すべきです。平準化ポイントの目標は「これで十分」と思われることであり、これによって顧客が商品選択を検討する際に自社ブランドを除外することがなくなります。
「理性に訴えるブランドは顧客の行動を手に入れ、感情に訴えるブランドは顧客の忠誠を手に入れる」という言葉が示すように、顧客の感情に訴えかける要素は、ブランドの伝達をより容易にします。
そして、究極の差別化の道は、イノベーションを起こし、「マストハブ(必須要件)」を生み出すことです。この重要なイノベーションは、ブランド化することで人々に伝わりやすくなり、競合の模倣を防ぐことができます。「インテル、入ってる」の例のように、顧客がその仕組みを完全に理解していなくても、ブランド化されているという事実だけで信頼感が増し、顧客は喜んで対価を支払うことがあります。
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### サブカテゴリーのフレーミング
競合との直接対決に没頭するのではなく、サブカテゴリーを作り出し、それを上手に管理することで、競合を排除したり不利にさせたりすることができます。そのサブカテゴリーの「エグゼンプラー(代表例)」となることが目標とされます。
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### 継続的な活性化と社内ブランディング
ブランド構築は、既存の資産を土台に築くことが可能です。製品・サービス中心のブランド構築は顧客を巻き込まないため効果が薄く、世界中のブランドにとって「人々の熱気と注目」を生み出すことが大きな課題です。
ブランドの成功には、長期にわたる一貫性が不可欠であり、常にブランドを活性化させる必要があります。そして、社内ブランディングは、社員がブランド・ビジョンを理解し、それを意識して実行することを目指します。これには、明快で説得力のあるブランド・ビジョンと、経営トップ層からの支援が不可欠です。