栃内新(1951年~)氏は、北大理学部卒、同大学院理学研究科博士課程修了、同大学院理学研究院元教授の生物学者。専門は多様性生物学。
本書は、「ダーウィン医学」についてわかりやすく解説したものであるが、あまり聞き慣れない「ダーウィン医学」とは「進化医学」とも呼ばれ、概ね以下のようなものである。
◆米国
...続きを読むの医師ランドルフ・ネシーと米国の進化生物学者ジョージ・ウィリアムスによって1991年に提唱された、極めて新しい学問分野。
◆ヒトという生物にとって病気とはどういうものなのかを、ヒトと病原生物の両者の視点を基礎に進化生物学・生態学的に読み解き、病気をより良く理解し、病気とともに進化してきたヒトという生物を理解しようとする。
◆一見不都合に思える病気の諸症状の多くの原因は、自然選択の結果、現在のヒトに引き継がれてきたものであり、それらはヒトの進化にとって有利な意味を持っている、或いは過去において有利な意味を持っていたということを明らかにする。
そして、まず、最も身近な病気である風邪を取り上げ、発熱、咳、鼻水のような症状が何故起こるのか、医者で処方される多数の薬の意味は何か、風邪は本来どのように治すのが望ましいか、を解説している。
次に、AIDSやエボラ出血熱のような「感染症」について、ウイルスや細菌のような病原体とヒトの永遠の進化の競争であること、生活習慣病やアレルギーのような「文明病」について、ヒトの生活環境の変化がヒトの進化を超えるスピードで進んだことによるものであること、「遺伝病」について、病気の遺伝子もヒトが生き延びるために有益であったものもあり、病気の遺伝子を治療するという安易な姿勢な避けるベきであること、などが説明されている。
「病気は治療するべきもの」という現代医学のあり方と、そもそも”治療”とはどういうことなのかについて、改めて考えさせてくれる良書である。
(2014年2月了)