毛利恒之の作品一覧
「毛利恒之」の「月光の海」「月光の夏」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
- 作者をフォローする
- フォローすると、この作者の新刊が配信された際に、お知らせします。
無料マンガ・ラノベなど、豊富なラインナップで200万冊以上配信中!
「毛利恒之」の「月光の海」「月光の夏」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
小説・文芸
小説・文芸
小説・文芸
小説・文芸
Posted by ブクログ
夏の本で思い出すのは『月光の夏』という戦争小説。
ある小学校で古くなったピアノを処分することになったが、老年の女性教師がそのピアノにまつわる思い出を語ったことから、一転して、保存することになった。
そのピアノは日本でも数台しかない貴重なものだった。 戦時中、特攻を翌日に控えた二人の音大出身の学徒兵が、この世の名残にどうしてもその貴重なピアノを弾きたいと、遠くからやってきて、生徒たちの前でベートーベンの『月光』を演奏したことがあった。その美しい音色は少年たちの心に、そして若い女性教師のこころに深く刻まれた。
思い残すことのなくなった二人の学徒兵は、翌日勇んで特攻機に乗りこみ、敵艦隊に体当たりするために出撃していったが、しかし…
この小説は特攻の町・知覧近郊で実際に起きた実話を基に脚色された小説だ。
ピアノに纏わる悲劇の歴史は語り継がなくてはならないとの声が広がり、講演会や、ラジオドラマなどを通じて、次第に多くの人に知られていくようになった。しかし、肝心の兵士の名前がわからなかったことから、老教師の捏造ではないかとの疑惑も生じた。
そんな時、特攻兵の二人のうち一人が生き残っていたことが調査でわかった。しかし本人は「特攻前夜にピアノを弾いたことなんてない」と否定した。そのため疑惑は深まり、捏造ではなくとも記憶違いだとか、兵士ではなかったのではないかと憶測が憶測を呼び、疑いの目は老教師の人格の否定へとつながっていった。
その窮状を知った元特攻兵は、ついに重い口を開いた。そしてピアノを弾いたことを認めた。なぜ彼はピアノを弾いた事実を隠そうとしていたのか。
彼は特攻に出撃したが、機体の不良により近くの島に不時着した。けして臆したわけでもなく、特攻に行きたくないと思ったわけでもない。敵に体当たりするまでは機を無駄にしてはならないと判断しただけだ。
不時着後、すぐにまた特攻の命令が下ると思っていた彼に下った命は、「ある寮に入るように」というものだった。
その寮は振武寮と言い、そこには彼と同じように特攻に出撃したのちに、何らかの理由で不時着した搭乗員が送り込まれていた。100人近く入寮していることもあった。そこで彼らを待つ受けているものは、来る日も来る日も軍人勅諭を書かされ、上官からの罵倒と暴力に耐えることだった。彼らが引き返したのは例外なく臆病のゆえに、卑怯のゆえにとされた。そんなレッテルを貼られた彼らに再特攻の命はなかなか下りない。
また、特攻隊員は出撃後は、成果の如何によらず、その死を以って軍神となる。肉親にもそのような通達が届く。ために一度出撃した隊員が生き残っていては都合が悪いし、原隊への復帰もあり得ない。つまり彼らは生きているのに、すでに死んだことになっているので、その存在を隠し続けるために「振武寮」に入れられた。外出も肉親への連絡はもちろん禁止。寮の存在そのものが軍の極秘事項だった。
おそらく、その後に再特攻の命を受けたとしても、遺族に知らされる命日は最初に特攻に出撃した日であり、その後、どんな気持ちで日々を耐え、最期を迎えたかも知らされることはなかったことと思う。
元特攻隊員がピアノを弾いた事実を言わなかったのは、特攻に再び出撃できる機会がないまま、終戦を迎えたために、どうして生き残っているのかという矛盾を説明できなかったからだ。そして、同じ日に特攻に行った仲間はみんな帰らなかったのに、自分だけ生き残ってしまったことに対して罪責の念を感じていたからだ。
祖国を愛し、音楽を愛した青年の赤誠を、戦争という狂気はこんなにも踏みにじったのかと怒りがこみ上げてくる。
特攻隊員に対して国家が精神的な虐待を加えた事実は、もっと広く知られていていいと思う。
Posted by ブクログ
おそらく、戦後の日本には無数の風間氏がいたことだろう。
戦火の中を生き延びた、ということを喜びではなく一生の十字架として背負っていく。
読みながら、ずっと頭の中にさだまさしの『戦友会』という曲が流れていた。
戦地に赴いた無数の若い命も、それを見送った人々も、必死だった。
それは正しいとか正しくないという尺度とは次元の違う話であり。
それでも、戦争は悲しい。
戦没者に敬意を払うならば、簡単に戦争しろ!などと口にすべきではない。
平和がそんなに軽いものならば、祖国を、大事な人たちを守るためだと信じて運命を受け容れ、戦に散った無数の命が報われない。
(以下、さだまさし『戦友会』より歌詞抜粋)
「命懸けてお前たちを守った」
と言わせてやれ
それを正義と言うつもりはないが
時代と片付けたくもない
今の青春を
羨ましくなくもないが
替わろうかと言われても
断るだろう
不幸な時代の若者たちは
それでも青春を確かに見たのだ
銃弾に倒れた友の顔を
忘れることなどできない
“あいつの分も、あいつの分も”と
生きる想いは分かるまい
いつか消えゆく集いなのだ
春の名残の雪なのだ
そして必ず二度と必ず
降ってはならない雪なのだ
雪が降る
今日もどこかで誰かがふるえてる
遠くでバイクの走り去る青春がきこえた