あらすじ
若き2人の特攻隊員は、ベートーヴェンの名曲「月光」を、小学生たちの前で弾き、南溟の空に出撃していった。あの夏の日のピアノの響きは、痛切な思い出として刻みこまれた。愛と哀しみの感動にあふれるドキュメンタリー・ノベル。(講談社文庫)
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
特攻隊として、最後にピアノを弾きたいと思って、ピアノを探していた時の特攻隊員の気持ちを思うと、とても苦しくなります。今、平和で自分の夢を追いかけられる事に、感謝の気持ちでいっぱいにもなり、さらに頑張ろうというやる気をも持たせてくれる本です。
Posted by ブクログ
夏の本で思い出すのは『月光の夏』という戦争小説。
ある小学校で古くなったピアノを処分することになったが、老年の女性教師がそのピアノにまつわる思い出を語ったことから、一転して、保存することになった。
そのピアノは日本でも数台しかない貴重なものだった。 戦時中、特攻を翌日に控えた二人の音大出身の学徒兵が、この世の名残にどうしてもその貴重なピアノを弾きたいと、遠くからやってきて、生徒たちの前でベートーベンの『月光』を演奏したことがあった。その美しい音色は少年たちの心に、そして若い女性教師のこころに深く刻まれた。
思い残すことのなくなった二人の学徒兵は、翌日勇んで特攻機に乗りこみ、敵艦隊に体当たりするために出撃していったが、しかし…
この小説は特攻の町・知覧近郊で実際に起きた実話を基に脚色された小説だ。
ピアノに纏わる悲劇の歴史は語り継がなくてはならないとの声が広がり、講演会や、ラジオドラマなどを通じて、次第に多くの人に知られていくようになった。しかし、肝心の兵士の名前がわからなかったことから、老教師の捏造ではないかとの疑惑も生じた。
そんな時、特攻兵の二人のうち一人が生き残っていたことが調査でわかった。しかし本人は「特攻前夜にピアノを弾いたことなんてない」と否定した。そのため疑惑は深まり、捏造ではなくとも記憶違いだとか、兵士ではなかったのではないかと憶測が憶測を呼び、疑いの目は老教師の人格の否定へとつながっていった。
その窮状を知った元特攻兵は、ついに重い口を開いた。そしてピアノを弾いたことを認めた。なぜ彼はピアノを弾いた事実を隠そうとしていたのか。
彼は特攻に出撃したが、機体の不良により近くの島に不時着した。けして臆したわけでもなく、特攻に行きたくないと思ったわけでもない。敵に体当たりするまでは機を無駄にしてはならないと判断しただけだ。
不時着後、すぐにまた特攻の命令が下ると思っていた彼に下った命は、「ある寮に入るように」というものだった。
その寮は振武寮と言い、そこには彼と同じように特攻に出撃したのちに、何らかの理由で不時着した搭乗員が送り込まれていた。100人近く入寮していることもあった。そこで彼らを待つ受けているものは、来る日も来る日も軍人勅諭を書かされ、上官からの罵倒と暴力に耐えることだった。彼らが引き返したのは例外なく臆病のゆえに、卑怯のゆえにとされた。そんなレッテルを貼られた彼らに再特攻の命はなかなか下りない。
また、特攻隊員は出撃後は、成果の如何によらず、その死を以って軍神となる。肉親にもそのような通達が届く。ために一度出撃した隊員が生き残っていては都合が悪いし、原隊への復帰もあり得ない。つまり彼らは生きているのに、すでに死んだことになっているので、その存在を隠し続けるために「振武寮」に入れられた。外出も肉親への連絡はもちろん禁止。寮の存在そのものが軍の極秘事項だった。
おそらく、その後に再特攻の命を受けたとしても、遺族に知らされる命日は最初に特攻に出撃した日であり、その後、どんな気持ちで日々を耐え、最期を迎えたかも知らされることはなかったことと思う。
元特攻隊員がピアノを弾いた事実を言わなかったのは、特攻に再び出撃できる機会がないまま、終戦を迎えたために、どうして生き残っているのかという矛盾を説明できなかったからだ。そして、同じ日に特攻に行った仲間はみんな帰らなかったのに、自分だけ生き残ってしまったことに対して罪責の念を感じていたからだ。
祖国を愛し、音楽を愛した青年の赤誠を、戦争という狂気はこんなにも踏みにじったのかと怒りがこみ上げてくる。
特攻隊員に対して国家が精神的な虐待を加えた事実は、もっと広く知られていていいと思う。
Posted by ブクログ
おそらく、戦後の日本には無数の風間氏がいたことだろう。
戦火の中を生き延びた、ということを喜びではなく一生の十字架として背負っていく。
読みながら、ずっと頭の中にさだまさしの『戦友会』という曲が流れていた。
戦地に赴いた無数の若い命も、それを見送った人々も、必死だった。
それは正しいとか正しくないという尺度とは次元の違う話であり。
それでも、戦争は悲しい。
戦没者に敬意を払うならば、簡単に戦争しろ!などと口にすべきではない。
平和がそんなに軽いものならば、祖国を、大事な人たちを守るためだと信じて運命を受け容れ、戦に散った無数の命が報われない。
(以下、さだまさし『戦友会』より歌詞抜粋)
「命懸けてお前たちを守った」
と言わせてやれ
それを正義と言うつもりはないが
時代と片付けたくもない
今の青春を
羨ましくなくもないが
替わろうかと言われても
断るだろう
不幸な時代の若者たちは
それでも青春を確かに見たのだ
銃弾に倒れた友の顔を
忘れることなどできない
“あいつの分も、あいつの分も”と
生きる想いは分かるまい
いつか消えゆく集いなのだ
春の名残の雪なのだ
そして必ず二度と必ず
降ってはならない雪なのだ
雪が降る
今日もどこかで誰かがふるえてる
遠くでバイクの走り去る青春がきこえた
Posted by ブクログ
とある地方の小学校に残されている、出撃前の学徒出身の特攻隊員が演奏したというエピソードが残る古いグランドピアノ。これを残そうとする、当時の現場に立ち会っていた元教師と、このエピソードに興味を持ち取材を重ねるラジオ局のスタッフ達。
史実に基づいたお話(プライバシーに配慮して当事者個人が特定できないようにしている)だそうです。
数十年たった今でも、まだ戦後は終わっていないのだなぁ。
Posted by ブクログ
実話を元にフィクション化した作品らしい。
処分されようとしているピアノにまつわる思い出。特攻隊に任命された2名の軍人が戦地に行く前に学校のピアノを弾いていった、そのピアノを処分したくない元音楽教師。その話から膨らんでいく戦争当時の異常な状態そしてそこにかかわる人々の思い・・・
できすぎた話のようだが、これが作り話であろうと心を打つのは間違いない。
不覚にも涙してしまった、間違いなく名作
Posted by ブクログ
読んだのは小学生の頃ですが、今読むと当初より知識が増えた分面白みが深まりました。
テーマは重たいですが、(確かですが)実際にあったことが元となっているので戦争・特攻隊関係の本を読みたい方にお勧めしたい一冊です。
Posted by ブクログ
自分もピアノを弾くのでより感情移入してしまった。夢多き若者たちが、それを心の奥にしまいこみ、次世代の私たちの為に命を落としていった。特攻隊など、今考えてみればバカとしか言いようが無い作戦ではあるが、彼らの命、生き方、強さ、後世までしかと伝えていかなきゃいけないよね。二度とこんなこと起こしちゃいけない。そんなこと個人で考えれば皆分かるはずなのに。。地球に平和が訪れるのはいつの日か。
Posted by ブクログ
目頭が熱くなりっぱなしだった。
特攻前日に
「死ぬ前にピアノを弾かせて下さい」
と特攻隊員二人が鳥栖の国民学校を訪れ小学生の前でベートーベンの「月光」を奏でる。その後南の空へ出撃していった…
どんな想いで今生最後のピアノを弾いたのだろうか。今の世の中ならもっとピアノも弾けたし、立派なピアノ奏者になっていたかもしれない。
演奏後、子供達に言った言葉が心に残ります。「僕も特攻隊に行きます。」と言った男の子に「おまえたちがいかなくていいように兄ちゃん達が行くんだよ。おまえたちが大人になるまでこの国を残すために兄ちゃん達は死ぬんだからね。」特攻隊の方々は皆こういう気持ちで旅だったのだろう。
そしてどんなに無念だったか…。
45年後、当時の先生、隊員とそのピアノを巡り物語が思わぬ方向に動き出し真実が明らかになっていく。
様々な理由で特攻に失敗して生き残ってしまった隊員の苦悩が心に響きます。
終戦の夏が辛い、生きて帰ってきてはいけなかった、戦争で死んだ仲間に申し訳ないと終戦後もまだ心のなかでは戦争が終わっていなくて苦しんでいる人がいる。
そして本書で明らかにされた振武寮。
特攻に失敗した隊員に罵詈雑言を浴びせ隔離幽閉して死んだ事にする。生きて帰ってくることは許さないという精神教育。手紙のやり取りも許されない。特攻隊の士気に関わるという理由で。
この振武寮という理不尽そのものの存在に衝撃を受けた。
命懸けで死地に赴いた人への仕打ちがこれかと!
作中、ピアノを弾いた特攻隊員のエピソードを聞いた小学生の作文、主人公公子の元に届いた数々の手紙、特攻隊員の遺書、どれも読むたびに目頭を熱くさせられる言葉ばかりです。
そしてラストは涙なしでは語れない。
本書は事実をもとにしたドキュメンタリーノベルです。
絵本化、映画化もされており異例の大ヒットだったようです。
ウクライナやイスラエルでもまだ紛争は続いている。二人の特攻隊員と同じように好きなことを自由に追い求めることも出来ない。
そして今この時も多くの人が戦争の犠牲になっている人がいる。
誰もが好きなことを続けられる平和な世の中になってほしいと願うばかりです。
Posted by ブクログ
ジャンルは小説としたが、ほぼ事実を基にしたドキュメンタリー小説。特攻前日に、ピアノが弾きたいと小学校を訪れた特攻隊員2名。その2名を、平和が訪れた戦後数十年後に捜し出そうと、メディアやルポライターが色々トライするも中々条件に一致した人が見つからない。
最初にも書いたように小説というよりかは、ドキュメント。特攻隊員の中でも特攻に失敗して、戻ってきた隊員は懲罰のような待遇で専用の寮に入れられていたことは知らなかった。
Posted by ブクログ
鳥栖の小学校にある、古ぼけたグランドピアノ。
今はもう誰も弾くことはなく、粗大ごみとして捨てられようとしていた。
元々は昭和5年鳥栖町婦人会の母親たちが「子どもたちに美しい音楽を」とお金を出し合いドイツに注文して取り寄せたピアノだった。
そして、出撃間近の特攻隊員が、ピアニストになる夢を持っていた若者たちが、最後にピアノを弾きたいとわざわざ訪ねて弾いて行ったものだった。
なんとかピアノを残してほしいと、特攻隊員たちに対応した女性が話したことで、それはラジオドキュメンタリーとなり、映画となり、この作品となったのだそうだ。
最初に小学校の児童たちの前で話した時は「感動した」という感想が多買ったが、話が広まるうちに「嘘ではないか」「そんな特攻隊員がいるわけがない」などの誹謗中傷の電話や手紙も来るようになった
そこで、ラジオドキュメンタリーの制作陣は特攻隊員を捜すことから始めるのだが…。
生きて帰らないことを前提に出撃する特攻隊。
エンジントラブルや天候不順、敵機に遭遇出来なかった等、帰って来る機もあることはあったのです。
しかし、それはあってはいけないこと。
生き残った特攻隊員が収容される寮があったことをこの本で知りました。
寮と言っても事実上牢です。
そして、戦後何十年後にその存在が明らかになってもなお、「誰が最初にその話をしたのか。それは依然として軍事機密であるはずだ」という意見もあるのです。
戦争中につらい思いをしてきたうえに、戦後もずっと自分を肯定することができないまま生きてきた人がいること。
コロナ禍で自粛自粛の現在も辛いでしょうが、もっと自由がなかった時代があったことも、覚えておかなければなあと思いました。(だからと言って自粛警察を是としているわけではないですよ)
Posted by ブクログ
鳥栖小学校の古いグランドピアノの廃棄処分が決まった。
年配の教師吉岡は、そのピアノを前に、45年前の特攻隊員の話を語った。
『永遠の0』など、特攻隊の話はいくつか読みました。
突撃に失敗したり、機械不良などで不時着したり、戻ってきたりした隊員がいた事もそこで知りましたが、振武寮の存在とその意味は今回初めて知りました。
どの話を読んでも、戦争の不幸ばかりを知らされる思いです。
様々な事実を知らな過ぎた私は、更に学ぶ必要があると思います。
そして、多くの人にも知ってもらい、このような不幸が再び起こることがない世の中を皆で作り続けていかなければならないと改めて強く思います。
Posted by ブクログ
他の曲ならともかく「月光」ってだけで星プラスです。特攻隊に月光…とりわけ第三楽章なんてどれだけピッタリなの。
事実を元にした小説。「月光」を弾いていった特攻隊員がいたという部分は事実。出来すぎだもの、ガセだと思われたのも頷ける。
しかし戦中と戦後の意識の変わり方はすごいね。意識の内容は変わったけど意識の在り方は変わってないね。戦後も結局否定を盲信。
振武寮のことは知らなかったな。暗部だ。
Posted by ブクログ
まずタイトルが好きです。で、内容は太平洋戦争物で、ちょっと甘いものの、とても真摯な文章で、一気に読ませてくれます。
そして、泣けました。良かった。
Posted by ブクログ
弟が買ったものの挫折、ということで貰った本。最近何故だか戦争小説と縁があるらしい。
でも、何だかやりきれないね、やっぱり。
信じる・信じないは自由なんだけどさ。でも私は事実だったと信じたいなぁ。
Posted by ブクログ
鳥栖市の小学校に残る古いグランドピアノには、誰にも語られてこなかった悲しい過去があった。太平洋戦争末期の夏のある日、特攻出撃前の兵士が現れて〝月光〟の曲を弾いたというのだ。廃棄されようとしたそのピアノを救おうと、当時の現場に立ち会った女性がその過去の出来事を語り始める。初めて語られた秘話はラジオで放送され反響を呼ぶが、実際にピアノを弾いた兵士は不明のままだった‥‥。事実を基にしたドキュメンタリー小説で、生き残ってしまった特攻兵士の苦悩が胸を打つ。戦争の闇の部分にも深い怒りを覚えた。
Posted by ブクログ
太平洋戦争末期、九州のある国民学校でベートーヴェン「月光」を弾いて出撃していった特攻隊員を巡る、ジャーナリストや元特攻隊員、国民学校の元教師の実話を小説化。
特攻ってこともそうだけど、特攻隊員が弾いたピアノを巡る戦後の一連の「現象」の小説化といってもいい。戦争の、特攻の歴史を残し、伝えるために動いた人たちの物語。
振武寮っていうのは初めて知った。
知覧は、考えるために一度は行ってみたいと思った。
Posted by ブクログ
この手の話は読まずにいられない。
読みながらずっと涙目。
外で読んじゃまずかったです(笑)
実話を元にした半ドキュメント。
作品の中で、この話を聞いた時の
子供たちの感想が素晴らしかったです。
若い世代にぜひとも読んでほしい作品でした。
Posted by ブクログ
知覧に訪れた時買った本。今の今まで本棚に置いたままでした。思い出したように読みました。
特攻隊員が最後に弾いたピアノ曲、実話をもとにしたお話。死地に赴く特攻隊員の悲劇、そして死ねなかった者の悲劇を語っています。日本人として、読むべき本だと思います。
Posted by ブクログ
廃棄寸前の一台のピアノに纏わるお話が、やがて大きな波紋を投げかけていく。特攻に行くと言った兵の、その後と彼が弾いた月光の調べ。
大きな奔流に飲み込まれていくように、登場人物たちが翻弄されていく姿がなんとも言えず、悲しいです。ベルリンの壁崩壊翌年を設定として書かれた話ですが、それでもまだ、あの戦争に翻弄されているンだなぁと。知らない世代ながらに、何か思う部分がありました。
映画化されたようなので、見て見たいと思います。
Posted by ブクログ
これは、数年前に読んだ本だが、泣けた。
特攻隊員が出撃の前に、ピアノを弾く・・・そんなストーリーだったと思うが、
それは哀しいのだけど、とても崇高な場面として今も自分の脳裏に残っている。
戦争反対・・・とかそういう激しさはなく、単に戦争という人間のもっとも恥ずべき行為を、この若き特攻隊員の崇高さで批判している。それも、言葉ではなく、音楽を通して・・・
私らのように、「戦争を知らない子供達」世代に是非読んで欲しい本だ。
それと、この現在の平和で飽食の時代を迎えられることが出来たのは、彼らの貴い犠牲の上に立っていることを忘れてはいけないのだろう。
この本を読んで、鹿児島の「知覧」の事をしる。
そう、あの小泉首相が、涙をながした特攻隊委員の平和記念館があるところである。