人間として立派に,"よりよく生きる"ためには,どのように考え,行動していくべきなのか。
登場人物たちの生き様,特に主人公であるコペル君とおじさんによるやりとり(言葉と心による交流)を通して,普遍的な倫理哲学における問いかけを登場人物に対してだけではなく,読み手側へも同時に突きつけてくる物語。
まず
...続きを読む90年近くも前に書かれた物語が,今なお現在を生きる私たちの心へ強く訴えかけ,揺り動かしてくる熱情を保ち続けていることに驚嘆を覚える。
いや,むしろそれどころか,科学技術や交通網の発展,インターネットの普及といった,グローバリゼーションによる多様な価値観が人々の中に浸透し,その代償としてアイデンティティとか自身の軸とでもいうべきものを見失いやすい,そんな"今の時代だからこそ",深く突き刺さるような示唆に富んだ作品なのではないかと思う。
個人的には,コペル君が友人との約束を裏切る過ちをおかした時に,お母さんがコペル君を優しく諭すように言い聞かせた,お母さん自身の学生時代に経験した些細な過ち・苦い経験を,大人になった今ではどのように捉え,考え,人生に活かしているのかという部分の話が好きだった。
この作品が好きならば,雨瀬シオリの『ここは今から倫理です。』も是非読んでみて欲しい。