フォークの神様、ボブ・ディランの自伝。
本書はボブの幼少期、アマチュア時代、デビュー当初、黄金期、スランプ、そして復活に至るまでをつづったもの。
これを読むと彼が時を越えて、分野を超えて、本当に多くの人たちに影響を受けていることが分かる。
ヴォルテール、ルソー、ジョン・ロック、モンテスキュー、マル
...続きを読むティン・ルター、ピカソ、ロイ・オービソン、ウディ・ガスリー、ヴァン・ロンク、ビートルズ、ボノ(U2)などなど。
本書には数えきれないぐらい多くの人物が登場する。
そしてそれに彼が育った社会的背景も相乗して彼の思想を構築し、独特のリリックが生まれた。
あの短いセンテンスに含まれる高密度のエッセンスの背景にあるものを知った時鳥肌が立った。
(よかった・驚いた)
●彼はプロテストソングを作っていたが、それはあくまで等身大の自分が歌っているだけで、誰かの代弁者として歌っている訳ではないく、世間で言われている反抗のスケープゴートとしてのイメージは辛抱者たちによって勝手に構築されたということだ。
「私にとってフォークソングは世界を探求する方法であり、それぞれのフォークソングが一つの絵画、何よりも価値のある絵画だった。」(P22)
「他のパフォーマーたちの多くは歌ではなく自分自身を伝えようとしていた。私の場合は歌を伝えることが大切だった。」(P23)
「プロテストソングとは、聞く人たちがそれぞれ知らずにいた自分自身の一面に気づくようなものでなくてはならない。」(P65)
「私は繰り返し、自分は何かの、あるいは誰かの代弁者ではなく、ただのミュージシャンだと答える」(P144)
以上のことからもわかるように、彼にとってプロテストソングとは自分が感じた未知との遭遇を単に伝えることだった。そこには人を刺激して何かをさせようという意図は全くなかった。
●彼の作曲スタイルは以下の通り(個人的な印象)
1伝えることを分析する→物事や考えの思想的な背景を分析する
2単純化する(歌にする)→1で分析した結果、知りえたエッセンスを歌に込める
3歌の持ち味を最大限引き出せる演奏を作る→演奏者、歌の韻、そしてボブの感情を踏まえて
だからこそ彼は多くの本を読んだし、いろんな人とかかわった、いろんな経験をした、そして常に理想の音楽を実現すべくチャレンジした。
ボブも意外と努力の人だったんだな…
そういう意味でも驚いた。
●本書は自伝としてももちろん素晴らしいものだが、彼独特の表現方法が素晴らしい。短いセンテンスに込めるエッセンスの密度が濃い。
すごく哲学的で奥が深い。作曲の技法がここにも生きているようである。
「彼女がコーヒーを注いでくれたが、私は振り返って通りに面した窓に目を向けた。町全体が私の鼻にぶら下がっている。すべてものがある場所を私ははっきりと知っている。未来を心配することはない。それはすぐそこにある」(P128)
●本書で紹介されているミュージシャンを調べてみると、ボブという人物がより深まると思う。
ウディ・ガスリー、ロイ・オービソン、ヴァン・ロンクなどなど。
個人的にはJanis Joplinがお勧め。
「Summertime」はあまりの素晴らしさに泣いてしまった。
とにかくここであげられているミュージシャンは、特に本書の中でボブが称賛しているミュージシャンは非常に素晴らしい方々ばかり。
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音楽関連の本読んでいてこんなにおいしい本は今まで出会ったことがない。
是非読んでみてください!