推薦の言葉 副島隆彦
はじめに
第1章 中国に対する優位性の確保に苦労するバイデン政権―米中で実施される産業政策でも中国が有利
・「ハイテク分野などで中国に追いつかれることは国家安全保障に関わる問題だ」というもの。
・アメリカにとって致命的なのは、工業生産能力を喪失している点だ。アメリカで何かを生産しようとしても、そのための設備も労働力もないのだ。武器も大量生産することができない。アウトソーシング、海外移転させてしまった。
・産業政策の成功例である中国
・軍事面で優位に立つためには技術面で優位が必要―長期計画ができる中国が有利ということが明らかに
・アメリカの技術的優位は既に崩れつつある。中国が技術革新を進めて、ハイテク分野での国産化を進めていけば、輸出入を制限する、経済制裁を科すという方法も効果を失う。アメリカの覇権国としての先行きの見通しは暗い。
第2章 2024年米大統領選挙は大根迷
・米大統領選は100年に一度の大混乱
第3章 ウクライナ戦争から見えてきた世界の分断
・西側諸国には経済力があり、生産力も高く、ウクライナに、どれだけでも武器を支援できると考えがちだ。しかし、戦争が長引く中で、生産能力に限界があり、自国の防衛装備不足までおこしている状態だということは日本ではあまり報道されない。
・防衛関連企業は、武器に対する欲望が高まる時代が今後も続くという確証を待てないために、対応が遅れている。「戦争が終わり、注文がなくなり、拡張された工場に注文がなくなることを恐れている」。
・生産のボトルネックになっているのは、重要な原材料の価格上昇と熟練労働者不足だ。大学で学んだ技術者、設計者、安全や環境の専門家などの熟練労働者たちは、不況になれば真っ先に切り捨てられることを恐れ、防衛関連産業に就職したがらないことが多い。
・軍事産業としては、生産能力を拡大しても、戦争が終わってしまえば、武器の需要は減って、拡大した生産能力(工場や機械、人員)が無駄になってしまうという恐れがあるために、拡大に踏み切れない。また、雇用の面でも、知識や技術のある人たちにとって、いつ解雇されるかわからない軍事産業は魅力的な就職先にならない。
・そもそもアメリカの工業生産力はかなり低い。世界のなかで、例えば工作機械の分野では、中国は約30%を占め、一方で日本は約15%、ドイツもだいたい同じ15%、イタリア、アメリカに至っては7%、8%。アメリカではもの作りができない、ということは武器の増産体制を構築することも困難だということになる。
・そこでお鉢が回ってくるのは日本ということになる。アメリカは、日本とドイツの生産力に頼ろうとしている。ドイツは、主力戦車レオパルド2をウクライナに供与している。日本もそのうちに武器を大量にウクライナに供与せよというお達しが届くだろう。これらにかかるお金は日本人持ちだ。
・日本はアメリカの完全な属国であるので、アメリカの意向に唯々諾々と従うことは間違いない。一方で、ドイツがどこまでアメリカに従うかは不明確だ。それは、ドイツが米によって、国民生活にとって必要不可欠な、天然ガスのパイプラインである「ノルドストリーム」を攻撃・破壊されたからだ。
・「大統領の犯罪」ノルドストリーム爆破事件―アメリカは平気で自分の同盟諸国を苦境に陥れる
・「ドイツとロシアの関係を断つ」ことがウクライナ戦争のアメリカの目的であり、その目的が達成された。
・United Nations(UN)を「国際連合(国連)」という誤った日本語訳をしてしまったために、国際政治の最重要ポイントが日本人に分からなくなっている。
これは、日本の悲惨な敗戦を「終戦」と言って、実態をごまかしているのと同じだ。日本人に、「戦前に日本が常任理事国だった国際連盟の後継機関みたいなもの」と思わせるための日本語の曖昧さを利用したトリックである。
United Nationsは、「連合諸国」もしくは「連合国」と訳すほうが正確だ。国連(連合国)は、第二次世界大戦で、日独伊に勝利した諸国家の軍事同盟のことである。勝利した主要5カ国である、アメリカ、イギリス、フランス、ソ連、中国が常任理事国として、安保理での決定に拒否権を持つ、この5大国で世界政治を動かすということだ。
・簡単に言えば、世界政治は大国間政治である。第二次世界大戦で大きな犠牲を払って勝利を収め、その報酬として、戦後国際社会で大国としてふるまい、国際社会の重要事項を決定することになった。
・ヨーロッパ諸国では「ウクライナ疲れ」「ゼレンスキー疲れ」が深刻だ。戦争が続く限り、人々の血税は支援金としてウクライナに注ぎ込まれ続ける。
・「西側の国々the West」「西側以外の国々the Rest」の分断である。
第4章 「西側諸国 the West」対「西側以外の国々 the Rest」の分断が世界の構造を変える
・中国が21世紀に達成した「奇跡の経済成長」は、日本の20世紀後半の経済成長に比べて、より長期間の、そして、より爆発的な成長となっている。
・アメリカが中国に追い抜かれるという、戦後世界を揺るがす事態が起きることで、戦後世界体制の常識が大きく変化する。より大きくいえば、戦後世界体制の終焉だけではなく、私達はポルトガルが世界帝国を築いて以来の西洋支配600年の終焉を目撃することになる。これから、西側諸国以外の「西側以外の国々」が台頭していく。私たちはその逆転の瞬間の兆候を今目撃しているのだ。
・拡大するBRICS諸国
正式メンバーの国々がどこにあるかを地図で見ていただくとわかるが、ペルシャ湾と公開(スエズ運河)、アラビア海、南大西洋、希望法、マゼラン海峡と言った世界の海運にとっての重要地点、世界の海運のツボをブリックスの加盟諸国でがっちり抑えることになる。
西側以外の国々は、文化的、宗教的、社会的、経済的、政治的に足す多様な国々で、それらが世界のシーレーンでつながることで、21世紀の多元的な国際社会像が示されることになる。
・原型、モデルは、1961年結成の非同盟運動、1967年結成の東南アジア諸国連合(ASEAN)だ。東南アジア諸国地域の経済発展もあって、国際政治の場で存在感を増している。
王政国家、社会主義国家、民主政治体制国家、資本主義国家など、様々な経済体制や政治体制の国家が加盟している。宗教もイスラム教、仏教、キリスト教など多様だ。ASEANの重要な原理原則は、「多様性を認めて、なにか問題が起きたら、排除せずに話し合う」だ。
・一方で、ヨーロッパ連合(EU)は、加盟の基準とは、同質性を担保するためのものであり、異質な国は排除するためのものだ。ここにASEANとの大きな違いがある。
・西洋支配600年、アメリカ支配の戦後80年において、近代化とは、西洋化をいいしてきた。ヨーロッパで生まれた価値観(民主主義政治体制、市場経済、人権、自由、法の支配など)を受け入れて、西洋諸国と同じ体勢になるということが近代化の「成功モデル」だった。アジアも、アフリカも、南北アメリカも、オセアニアも、世界のどこの地域であっても、西洋の価値観を受け入れた国々が、近代化された成功例となり、それに失敗した国は失敗例とされ、後進国と蔑まれ、時には西洋諸国から敵と認定された。
世界は、西洋支配の600年の間に、近代化=西洋化による、単一性、同質性を目指してきたと言える。
・日本は非西洋世界にとって、近代化成功のお手本、ロールモデルとなった。しかし、日本の成功は20世紀の遺物だ。
・西洋から「遅れている、文明化されていない」と蔑まれてきた、西洋以外の国々が21世紀の主役になる。西洋近代が終わり、世界史的な大逆転が起きる。600年の間に植民地化された、もしくは搾取された国々が勃興し、これまで文明国だ、先進国だと威張っていた国々が衰退していく。
・中国を中心として西洋以外の国々が多数派としてまとまって突き進んでいく時代がもうすぐそこまで来ている。
・サウジアラビアがバイデン大統領の以来を断り、中国寄りの姿勢を鮮明にした
・アメリカを追い詰めすぎると怪我するということで、「ブリックス通貨」導入は見送り
・あるエコノミストは、「ヨーロッパは博物館、日本は老人ホーム、中国は刑務所」と表現した。
・ブリックスが発行する通貨は、新進気鋭の不満分子の新しい連合体のようなもので、GDPの規模では、覇者であるアメリカだけでなく、G7の合計を上回るようになっている。
・ブリックスはまた、世界の他の通貨同盟が達成することができなかった、国際貿易における自給自足のレベルを達成する体制を整えている。ブリックスの通貨統合は、これまでの通貨統合とは異なり、国境を接する国同士ではないため、既存のどの通貨統合よりも幅広い品目を生産できる可能性が高く、地理的な多様性をもたらすものである。ユーロ圏のような地理的な集中によって定義される通貨同盟では、貿易赤字が発生するという痛ましい自体が起きているが、自給自足の度合いを高めることができるのだ。
・ブリックスは、アメリカ国際の保有額を減少させ、金にシフトしながら、また、ドル以外の人民元などでの決済を増やしながら、ブリックス通過導入を進めていく。
・ウクライナはNATOに加盟していない。加盟国に対して、何かしらの攻撃があれば、加盟諸国が一致して防衛や攻撃にあたる。ウクライナは長らく現在もNATO加盟は認められていない。米を中心とする西側諸国は、長年にわたり、ウクライナに武器を支援し、軍事顧問団を送るなど、ロシアに対する挑発を続けた。ウクライナはNATOの正式メンバーではないので、ロシアから攻撃されても、NATO諸国にウクライナとともに戦う義務は生じない。そうやって、ロシアを挑発して戦争に引きずり込み、自分たちは血を流さないで(ウクライナ人にだけ戦わせて),ロシアを叩こうという、アメリカを中心とするNATOの卑怯な目論見は見事に失敗した。
・イスラエルは、国防軍の地上部隊をガザ地区北部に進め、地上戦を行いつつある。そのなかで、病院や難民キャンプなどが攻撃を受け、多数の死傷者が出ている。イスラエルは、「あらかじめ、非戦闘員はガザ地区南部に避難するように警告してある。避難するための時間敵猶予も与えた」と主張する。しかし、100万人以上の人々が避難することは不可能だ。
戦争末期の沖縄戦では、日本軍はアメリカ軍の攻撃前に、非戦闘員を沖縄本島北部の山原地方に避難させる方針だったが、避難はうまくいかず、非戦闘員が戦場に残ることになり、当時の県民の4分の1がなくなる結果となった。ガザ地区も同じで、多くの死傷者が出る。
・ネタニヤフ首相は、ガザ地区北部の占領を実施して、イスラエルとパレスチティナの二国家共存(アメリカが仲介して実現した)を消滅させようとしている。
・パレスチナの人々は自分たちを1つの民族とみなしています。より良い経済やより良い教育だけを求めているのではありません。自由を勝ち取り、占領が終わることを求めているのです。
・イスラエルはいままで、「パレスチナ人には統一した政府、指導部がない、だから、私達は交渉することができない」と、国際社会に対しても、国内向けにも「交渉したいのはやまやまだが、どうすればいいのか。話し合う相手がいない。話すことはなにもない」と簡単に言うことができたのです。
・しかし、これは完全に間違っています。
・ハマスとファタハをどんなに分断させようとも、少なくとも占領を終わらせるということに関して、彼らが分断されることはないのです。
・ノルウェーが仲介しながら、最後はアメリカが手柄を横取りする形で成立した、オスロ合意によって「二国家共存」が成立した。これで、パレスティナ国家が樹立されることが決まった。
イスラエル右派からすれば、このような案は到底受け入れられない。なんとか潰そうと躍起になってきた。ハマスもまた、二国家共存を認めていない。(イスラエルの存在を認めていない)。
・私の考えであるということをあらかじめお断りしておく。今回のパレスティナ紛争は、イスラエルがわざとハマスに攻撃する隙を与え、イスラエルを攻撃させたものだと考えている。
その理由は、ハマスの攻撃を口実に、イスラエルがガザ地区を徹底的に破壊し占領を行い、二国家共存を台無しにするということだったと考えるからだ。
(※注 わたし自身も、当初からネットで言われていた意見のひとつを読みました。ガザ沖に、調査の結果膨大な海底資源があることがわかり、イスラエルは、ガザ地区からパレスティナ人たちをなんとしてでも追い出し、海底資源を占有したいという目論見がある)
・パレスティナ紛争では、「イスラエルは自衛権の行使だとして攻撃しているが、あれは過剰防衛だ」「中東で大規模な戦争が起きてしまう」ということで、イスラエルに対する批判や不支持の声が世界中で高まっている。
・世界的に起きた重要な出来事は、歴史の大きな転換の前触れだ。西側諸国の全体的な衰退と、西側以外の国々の台頭、アメリカが築き守ってきた戦後世界体制の動揺は、西洋支配600年、戦後世界体制80年、アメリカ覇権の終焉を物語っている。
第5章 覇権国でなくなるアメリカとこれから覇権国になる中国
より大きな構図で見ていきたい
・ポール・ケネディ
「大国の興亡」
・ロバート・ギルピン
覇権国交代理論。覇権安定論とは、「ある国が覇権国として存在する場合、国際システムは安定する」という考えだ。「ローマの平和」「イギリスの平和」「アメリカの平和」など、覇権国がもたらす安定、秩序、平和を示す言葉。
・覇権戦争は、どの国が国際システムのなかで、優位となり、支配をするのかを決める戦争だ。
ギルピンが歴史的に見て、覇権戦争の条件に当てはまるのは、ペルポネソス戦争、第二次ポエニ戦争、30年戦争、ルイ14世の起こしたオランダ侵略戦争・スペイン侵略戦争、フランス革命とナポレオン戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦だ。
・ジョージ・モデルスキー
長期サイクル論。世界覇権国に関しては、100年周期のサイクルが存在する。
・世界は西洋支配の前の状態に戻る
ギルピンとモデルスキーは、ともに、西洋近代が成立した15世紀からを対象とした理論。言ってみれば、西洋中心主義的な理論だ。西洋近代が成立してからの覇権国はすべてが西洋諸国で、共通の政治的、経済的、社会的、文化的、基盤を持つ国々の間だけで、「覇権」が移動して、米国に移ってきたということ。
次の覇権国は、西洋による世界支配が始まって600年余り、初めて、「非西側」の国である中国に覇権が移る。西洋、欧米諸国の中だけで、リレーのバトンのように渡してきた覇権が初めて流出する。
・「グローバルヒストリー」という西洋中心主義から脱却した世界史の見方をする考えが出てきている。「ヨーロッパがもともと世界最先端の場所で、他の地域よりも進んでいたという見方は誤りだ」。ヨーロッパ以外の地域、中東やアジアの方が進んでいたという根本的な考え。
・アンドレ・グンダー・フランク
著書「リオリエント」で、18世紀までは東洋の方が西洋よりも発展しており、西洋の勃興は、1800年頃の登用の長期的な衰退の結果に過ぎない。西洋諸国はアメリカ大陸の植民地化等の銀を使って、より栄えていた東洋の産物を購入していた。これは、20世紀の西洋と東洋の関係と同じであり、従って、世界経済の中心は再び、東洋、特に中国に戻ると述べている。
・ケネス・ポメランツ
アジアとイギリスを比較し、18世紀後半から大きく分岐し、イギリスが飛躍的に発展したが、その理由は発展の制約となる環境圧力がヨーロッパになかったこと。
天然資源(石炭)の存在(蒸気機関の発達が容易になった)、安定した食糧供給源と工業製品の市場となるアメリカ大陸からの距離の近さなどがあり、これらの要因は偶然の産物に過ぎない。それまでの西洋中心史観では、ヨーロッパはアジアよりも数世紀は進んでいるとされていたが、ポメランツは否定した。
・ジャネット・リップマン・アブー=ルゴド
13世紀には、中国からヨーロッパにいたる貿易システムが完成しており、8つのサブシステムが存在したと主張している。それらをより大きな3つの回路、西ヨーロッパ、中東、東アジアがつなぐ形になっていた。この13世紀の世界システムでは、ヨーロッパは中心ではなく、一部に過ぎなかった。14世紀後半に衰退した。疫病などの蔓延によってそれぞれのサブシステムも衰退し、回路も閉じてしまった。その後16世紀のヨーロッパが勃興した。西洋の覇権が成立する以前には、多様なサブシステムを持つ、世界システムが成立していた。ヨーロッパが勃興し、西洋覇権によって、世界は単一のシステムに統合された。
西洋覇権の時代が終わり、世界はまた、西洋近代以前の時代に戻る。中国は世界最大の覇権国となるが、西洋近代の意味での世界覇権国にはならない。現在の世界体制をある程度引き継ぎながら、より多様で、重層的な世界体制を志向する。
・中国は目立たないように、力を蓄え、アメリカに潰されないようにしながら、大国として台頭する「韜光養晦」をしっかりと守って成功した。この言葉の意味は「才能を隠して、家に力を蓄える」だ。
アメリカはもう直接、中国に手を出すことはできない。
・アメリカはこれから同盟諸国に、バック・パッシング(責任転嫁)を行う。
・短期的に見て怖いのは、直接戦争ができないアメリカが日本に代理戦争をさせること
・日本は戦後、アメリカの属国として生きてきた。「アメリカに従っていれば大丈夫」という固定概念が植え付けられ、習い性となっている。しかし、外では戦後世界体制は大きく揺らいでいる。歴史的な大転換を迎えようとしている。戦後世界体制80年だけではなく、西洋近代600年の支配が終わろうとしている。
・日本国民は自分自身の「属国根性」を疑い、より広い世界に目を向けて、新しい時代の変化に備えるべきだ。日本は、西洋近代成立前の、アジアの国際システムに復帰し、国内外のある程度の多様性を尊重しながら、穏やかに生きていくことができるはずだ。そのためには、「何があっても日中は戦わず」だ。
おわりに
西洋近代は、もちろん素晴らしい成果を収めた部分もある。西洋近代がもたらした科学(学問)の発展や価値観、制度によって、人類はより快適で豊かな生活を享受することができた。その点は認めなければならない。一方で、西洋中心主義によって、西洋的な価値観と制度を世界中に押し付け、結果として、西洋化することで世界を一色にまとめ上げようとしてきた。
非西洋諸国の文明化は、社会工学を通して行われた。被西洋の土台の上に無理やり、西洋社会の価値観や制度が移植された。「文明外科手術」とも呼ばれるべきもの。
しかし、これから、世界の「優等生」たちが力を失い、これまでの「落ちこぼれ」たちが力をつけていく。そうした時代に入っていく。西洋近代、戦後世界の終わりの始まりである。