引きずり込まれる異世界
読み応えのある濃厚な作品。本文のイメージ通りの禅之助さんのイラストが素晴らしいが、この物語は光景が目に浮かぶところも秀逸だ。また、比求式と舞によって力が生み出されるというメカニズムをはじめ、理論上の裏付けがあるかと勘違いするほど、丹念な科学的検証がなされている。庵野ゆきさんはフォトグラファーと医師の共同ペンネームだそうだが、アニメで観たいと思わせるビジュアルと科学的なアプローチは、この組み合わせの賜物なのだろう。
そして、多彩な登場人物を見事に描き分けている。読者によって「推しメン」が割れるのではないか。私はウルーシャに入れ込んで読んだ。だから帯に書かれたウルーシャの紹介には断固抗議したい。(「調子のいい性格」と書かれている。)ミイアの偉そうな口調が何とも可愛く、難しい言葉をひらがなで喋っているのも微笑ましい。しかし「ミイア推し」の人には、サブキャラに主役の座を脅かされた感があって、物足りなかったかもしれない。次作以降でのミイアの大活躍を期待しよう。ミイアとタータ、タータとラセルタ、ウルーシャとハマーヌなどの掛け合いが面白くて、声に出して笑うことも度々だった。全員の口調が違うという、セリフの書き分けも見事だ。
これがデビュー作ということだが、ここまで綿密に異世界を構築するのに何年を要したのだろう。どこにも破綻がないので、あっという間に異世界に引きずり込まれた。読み終わって、ハマーヌとミイアが関わらなかったことや、アリアの登場シーンがほとんどなかったことなど、いささか未消化の部分もあると感じたが、続編(幻影の戦)が出ると聞いて合点がいった。描いていない部分があったのは、これがシリーズの第一作だったからなのだ。
ずっと続いてくれることを願っている。