【感想・ネタバレ】武漢病毒襲来のレビュー

あらすじ

妻子の待つ武漢へ、新型肺炎が蔓延し封鎖された中国をゆく男の決死行。
中国からの亡命を余儀なくされた作家が放つ渾身のコロナ文学。

本書は2通りの読み方ができます。まず、新型コロナ発生源となった中国で何が起きていたかを描くものとして――
反骨の亡命文学者が、コロナ禍下の民衆の悲劇と、それを隠蔽する国家の罪を暴く告発の書として。そしてまた、
いち早くコロナ禍に正面から挑んだ現代小説として――封鎖された大地を旅する艾丁を通じて、現在の「中国」が、
スリリングに、ときに大らかに描かれてゆきます。病毒の街・武漢で、艾丁を待ちうける運命とは……。

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Posted by ブクログ

昔、友人の一人が佐藤優『国家の罠』を貸してくれたことがある。彼は本を手渡す際にこう言った。

「これはあくまでも"フィクション"だからね。」

その言葉通り、あくまで虚構=小説として読んだが、とても面白く夢中になって読んでしまった。
書籍が面白くなるかどうかは、著者がどう構成するかによって決まるのであって、真実か否かなど些細な問題にすぎない。
自然主義文学の大家エミール・ゾラは、「ありのままに描こうとしても必ずそこには自己のフィルターが介在する。」と語っている。つまり完璧な真実など存在しない。本を心から楽しむのであれば、真実を求めるメガネを外して読まなければならないと思う。

さて、この『武漢病毒襲来』という本をフィクションとして読んだ結果どうだったか。掛け値なしに素晴らしかった。現実に即した詳細な情報で紙面を隙間なく埋め尽くして畳み掛けてきたかと思えば、『水滸伝』のような地方の力強さを感じさせる逸話が挟み込まれる。リアリティ路線で話を進行させておきながら、主人公を武漢へと運ぶ運転手が突然呼吸困難に陥って死亡するという「ファンタジー」へ方向転換させる。中国共産党の隠蔽体質を暴こうとする生々しく強烈なメッセージを叩きつけながら、同時に低層の人々の中に溢れる「義」を描き出す。ルポルタージュと力強い民話が複雑に絡み合いながら進む本書は、やがてフィクションと現実の垣根を曖昧にしていき、真実を伝えられる以上の衝撃を読み手の心に残していくのである。

この小説は真実以上に真実である、と逆説を含んだ言い方もできるかもしれない。我々が知っておかなければいけない現実が、本書には克明に記録されている。


余談になるが、本書にて引用されていた『失踪人民共和国』という、中国共産党の恐ろしき隔離措置、「居住監視」について詳細に書かれている書籍を読みたいと思ったのだが、英語版と中国語版(原題『People's Republic Of Disappeared』)しかないようで残念である。どこかで時間を作って英語版をダウンロードして読まなければいけないな、と思った。

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2025年09月02日

Posted by ブクログ

どこまでがリアルで、どこまでが虚構なのか。実在する人物、事件を散りばめながら、その境界線を曖昧にし、臨場感を煽る。しかし、読み手はスッキリとノンフィクションとして受け止められないため、何を信じれば良いか、後味の悪い読後感を引きずる。人は、信じたいものを信じる。作者の思想を混ぜながら、あくまで小説という形で描き切る。

一方では、そうとしか扱えない話だという事。あとがきで訳者も書いている。コロナ禍の武漢におけるロックダウンや病床のリアル。警察とのやり取り。失踪する人たち。蝙蝠を食用にする事で感染症が広がったのか、研究用途が漏洩したのか、そもそも武漢発祥では無いとシラを切り続けるのか。

思い出すと、当初の武漢における医療崩壊や死と直結したパンデミックの恐怖感は、恐らく弱毒化しただろう今のcovid19や社会の雰囲気とはまるで違う。未知への恐怖が大きかった。その退廃的世界観をノスタルジアに思い出す、ある種のコロナ文学として、重要な一冊だと思う。

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2022年11月15日

Posted by ブクログ

小説としては正直読みづらいと感じる。今のある程度コロナウイルスが制御されてきたような時期から見るとここで書かれる武漢の状況そのものがデマのように感じてしまいそうになるけど、ここに書かれていることはそれなりの真実を写しているのだろう。そしてコロナウイルスの有無に関わらず中国共産党の抑圧的な社会で生きるということのむずかしさ、そしてそのような世界は現実に今も数多くの人が生きているという現実に目が眩む。それを難しいと感じないように見猿聞か猿言わ猿的に生きていく人はおそらく多し、それはそれほど難しくなくできてしまうのだろうけど、そんな社会を垣間見ることができる。

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2021年10月24日

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