【感想・ネタバレ】経済学の宇宙のレビュー

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Posted by ブクログ

2015年に出版された本で、前から読みたいと思っていたのですがやっと読む時間ができました。読む前の期待感はかなり高かったのですが、期待は裏切られませんでした(合理的期待形成ができました)。岩井氏の貨幣論、資本主義論、法人論は別の本でなじみがありましたが、序盤に書かれている生い立ちや少年時代、そして東京大学やMIT留学時の話などは「私の履歴書」を読んでいるようで新鮮でした。子供のころはじめて読んだ本が図鑑で、それが自分の思考回路を決めたと著者が述べているように、岩井氏は物事を俯瞰的に見たうえで、各人の主張を位置付ける、ということが特徴的だと思います。一言で言えば視野が恐ろしく広い、ということで、特定の主張(例えばケインズ経済学)に完全にとらわれるわけではなく、様々な人の主張をつなげることができること、また近年では経済学の範囲外にまで研究対象を広げて(言語、法など)、そこに貨幣論との共通性を見つけるようなこともされています。本書の中で、イェール大学時代からの知り合いとして哲学者の柄谷行人さんの名前が登場しますが、岩井氏と柄谷氏には、「常人には思いもよらない点と点を結びつけて線あるいは面にする力」が共通していると思います。そしてこの力は、アカデミックの極端な分業化が進んだ昨今では極めて貴重な(希少な)能力だと思います。本書は中盤から後半にかけて、主に岩井氏の研究内容の中身とその変遷が綴られていますが、わかりやすく好感を持ちました。アカデミックの人々だけでなく、一般の人々にも岩井ワールド、そして経済学の面白さを知ってもらうには最高の本だと思います。

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2023年05月04日

Posted by ブクログ

主流の新古典派経済学を批判する様々な学説を打ち出してきた岩井克人氏の経済学者としての人生をインタビューを基に辿る。
知的にエキサイティングな内容で、大部だがのめり込んだ。経済学者として没落したと著者は自嘲するが、著者の貨幣論をはじめとする学説にはかなり説得力を感じた。
岩井克人氏というと、高校教科書に載っていた『ヴェニスの商人の資本論』の印象が強く、経済思想家みたいなイメージを持っていたが、バリバリの数理経済学者だったと知り、驚いた。しかし、流石に文章がうまい。自分は数式はよくわからないが、岩井氏の定性的な説明はとてもわかりやすく、納得させられるものだった。

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2023年02月20日

Posted by ブクログ

経済学者が自分の人生の歩みと合わせて経済学を語っています。著者の著作に慣れ親しんだ読者であれば、読んでみる価値は十分にあるでしょう。また、タイトルだけ見ると難解な印象を受けますが、インタビュー形式で進んでいくので、専門的な注釈を除いては、わりと読みやすかったです。

今回、この文庫版で再読してみると、経済学者というだけでなく学者として人生をまっとうしようとする姿勢が強く伝わってきました。アメリカの有名大学での研究生活を「絶頂」、その後の東京大学への就職を(少なくとも当時は)「没落」として捉えるあたりは、学者としての氏の人生観を反映しているように読めます。この点は、氏の妻であり作家である水村美苗氏が『日本語が滅びるとき』において、欧米と日本の文化を強弱や高低(つまりは優劣)という尺度で語ろうとする姿勢と重なり合ってしまうかもしれません。

いずれにしても、学者ひいては知識人であること、あるいはそうあろうとすることの悲喜を知れる一冊であることは間違いないでしょう。天才数学者の絶頂と没落とその後を描いたイーサン・ケイニン(Ethan Canin)によるA Doubter's Almanacを再読したくなりました。

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2022年07月31日

Posted by ブクログ

 不均衡動学という言葉だけは著書の名と共に知っていたが、近づかなかった、というより近づけなかった。いわゆる近経は、数学を駆使して理論を作り、経済現象を科学的に分析するもの、とのイメージがあって、偏微分に挫折した自分には到底理解できないものと思っていたからである。
 岩井氏の著作を実際に読んだのは、『会社はこれからどうなるのか』だったが、あの本の内容は面白く読んだ記憶がある。

 本書は、岩井氏が自らの学問について、その歩みとともに、一般読者にも分かりやすく説いてくれた本である。著者の学問関心、先人との苦闘が非常に生々しく語られている。またマルクス、ケインズ、シュンペーターといったビッグネームのほか、不均衡動学についてはヴィクセル再発見が大きかったことが分かる。
 資本主義はなぜ利潤を生み出すのか、貨幣を貨幣たらしめるものは何なのか、そしてまた法人論、企業統治と信任関係論、"言語・法・貨幣論"と人間科学の問題と、次から次へと、著者の学問探究は続く。
 そしてまた著者は、英語で論文を発表し続ける。学術研究とは究極の公共財であり、経済学の宇宙に波紋を起こすことを使命と考えているから。現在の英米の経済学界に自らの考え方が受け入れられる可能性は限りなく低いとしつつも、著書は挑戦し続ける。
 
 著者が現在取り組んでいる問題に対する、一つの回答を、是非読んでみたい。


 

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2021年10月25日

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