あらすじ
月のない夜、華奢な欄干を破り、一台のタクシーが崖下に転落した。運転手は一命を取り留めたが、乗客の男は即死する。死者は顔いちめんに包帯を巻きつけていたものの、その下にはなぜか傷ひとつなかった。さらに死者の所持品からは探偵砧順之介の名刺が発見されたが、その名刺を死者が所持することは論理上不可能だった――奇怪な謎が読者を魅了する表題作ほか、書籍未収録の犯人当て短編などを所収。職業作家の道を選ばず、生涯に亙って緻密極まりない作品を執筆、巨匠鮎川哲也も畏敬した本格推理作家、山沢晴雄。その作風を一望できる作品を精選して贈る〈山沢晴雄セレクション〉。/【目次】砧最初の事件/死の黙劇/銀知恵の輪/金知恵の輪/見えない時間/ふしぎな死体/ロッカーの中の美人/密室の夜/京都発“あさしお7号”/編者解題=戸田和光
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Posted by ブクログ
知らない作家さんだったが、評判がよかったので気になっていた作品。
これは小説ではなくミステリだ。
トリックが先行するストーリーなので、小説として読むと期待外れかもしれない。また、登場人物がやけに多かったり、同じようなトリック・状況が堂々と用いられていたりと、俗にいう「ミステリ小説」とはかなり異なる短編集だが、作者がトリックを主役に据えている点を考えると、実に実直な作品でかなり好印象なミステリである。
最初は読みにくかった登場人物の多さも、慣れてしまえば、多くの人間(事件とは無関係な人間も含めて)の思惑が交錯する事件であることで、味気のない単調な読み物になりがちなミステリの欠点を補っているようにも思える。
そして何よりも評価したい点は、フェアプレイを貫いているところ。そのせいで、トリックが透けて見える話もあるが、小細工をせずミステリとして真っ直ぐに勝負しているところが気持ち良い。
個人的には、「密室の夜」「京都発あさしお7号」がおもしろかった。