【感想・ネタバレ】現代民主主義 指導者論から熟議、ポピュリズムまでのレビュー

あらすじ

二〇世紀以降、思想・理論ともにさらなる多様化が進む民主主義。本書は、政治学をはじめ、ウェーバー、シュミット、シュンペーター、アーレント、デリダ、ムフなどの思想から、その大きな潮流と意義を捉える。指導者や選挙による競争、市民参加、熟議/闘技、ポピュリズムといった多くの論点から、現代デモクラシー論の可能性に迫る。試行錯誤を繰り返してきた軌跡を通して、二一世紀の民主主義を模索する試み。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

【民主主義というフィクションのいろいろな説】

学者、思想家の間で唱えられるたくさんの民主主義の在り方のについて、20世紀ごろからの主要な議論が紹介されている。

あとがきに書かれている通り、包括的ではなく、指導者、選挙、参加型民主主義、などの主要な争点について、主だった政治学者に的を当てて、議論を比較しながら書かれていた。

はじめの方で挙げられたポイントは、民主主義と自由主義は元から親和性があったわけではないということ。今では自由民主主義、みたいな形で良く語られるけれど、この違いは、カール・シュミットの同質性・同種性を強調する民主主義の特徴を通して紹介されていた。

これに対立する考え方として、多数の指導者、相対主義を支持するケルゼン。

選挙と市民の役割については、ヨーゼフ・シュンペーターなどを紹介。エリートの競争手段としての選挙。人民の支配は目的ではなく、政治家の支配で民主主義が成り立つ、という視点は、現代広く認識される民主主義とは少し違うなーと思った。

民主主義について、制度的側面を強調し、理論化したロバート・ダールのポリアーキーも、同じくエリート主義的であり、市民の積極的な政治参加は特に必要とせず、定期的に選挙を通して意思表示する政治制度を民主主義とする。加えて、争点法を通した多元主義が実現されるとする。

一方で発展してきたのが、市民の参加の価値を重視する、参加型民主主義。大衆の参加がどう政治の質を担保するかについて、ハンナ・アーレントなどの批判を含め、議論は続くものの、ぺイトマンの議論が紹介され、国レベルのみならず、地域社会、そして職場でも、民主的な参加の重要性を説く。この点では、コールのギルド社会主義、アソシエーション論も少し触れられている。

そして、ハーバーマスの公共性論と熟議民主主義。政治とは、公的領域において、対等なもののあいだの自由なコミュニケーションとし、生活世界(社会文化システム)が、経済的な政策などで浸食される、植民地化される危機に警鐘を鳴らす。

一方で、シャンタル・ムフの抗争的民主主義論は、合意を前提とする議論を批判し、政治的なものとは、経済的なものではなく、本質的に対立的とし、多元性を重視。シュミットの友・敵関係という政治の本質を基本とするものの、敵を自由民主主義の基本的理念を共有する対抗者、と置き換える。

最後の章は、ポスト構築主義、ポスト民主主義などのジャック・デリダ、ランシェルなの議論をを紹介しつつ、ラクラウとムフのラディカル民主主義を続ける。ここで再度、ムフの議論が深められて、偶発性、意味の固定作用としての結節点、シニフィエとシニフィアン、これが社会的なものであること、政治を通して一時的に安定化させることで多元的な連帯が作られうること、これが対抗ヘゲモニー、ポピュリズムの議論につながっていった…

大学時に勉強したことを思い出しつつ、私には完全に分かりえることはないと思うので、このような形でなんともざーっと。

ジョアン・トロントのケアの倫理も、最後の方に紹介されていて、「個」が前提となっている民主主義論に一石を投じていて、少し個人的にギクッとし、この議論については大学時にはなかったので、また読んでみようと思います。



理論・思想の話なので、全体的にはとても抽象的でときどき議論の方向性を見失っていたけれども、民主主義、という概念を介した壮大なファンタジーだなーと、養老先生の本を読んだ後だったので、もちろん自分たちのいる社会の話なのだけれども、傍観者並みの距離感でも考えてしまう。
やっぱルソー凄いなー…。

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2024年03月24日

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