【感想・ネタバレ】日本SFの臨界点 中井紀夫 山の上の交響楽のレビュー

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Posted by ブクログ

表題作、200年以上途絶えたことのない楽曲を演奏し続けてきた楽団の話。
無駄と思えることの中で前に進む人達の姿に自身の想いを肯定してもらえた。

どの話も面白く、異世界の中での一生(またはそれ以上の時間)と異文化が頭の中で拡がっていく楽しさに震えました。
異世界ではなく現代を舞台にし、ホラーの要素が入ったモノも良かった。

こういう作品が埋もれるのはもったいない。
「日本SFの臨界点」再発見のための企画はとても良い。

解説がボリュームがあって、熱い。

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2022年07月27日

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久し振りに、自分にとって特別な作家に出会えたと感じられる素晴らしい短編集を読んでしまった。もともと他ジャンルと相性の良いのがウリのSFだけれど、ホラーや純文学作品として、ここまで昇華させられるセンスがある作家には出会ったことがない。

楽団メンバーが3時間交代となって、200年間一度も演奏が途絶えたことのないオーケストラを紡いでいく「山の上の交響楽」は、設定のスケール感から既にワクワクものなうえ、演奏するということの意味を通じて人生について考えさせられる大名作。

突如謎の男性2人が殴り合いを始める現場につどつど遭遇する「殴り合い」は、そのシュールさが印象に残りやすいが、なぜ殴り合いが始まってしまったのか?? を考えると、読後感がとんでもなく切ない。いま自分が置かれている状況に不満はないし、幸せだと感じていても、時折り妙な寂しさを感じてしまう…という心境を見事に描写した名作。歳を重ねてからまた読み直したい。

個人的に一番素晴らしいと感じたのは「見果てぬ風」で、手塚治虫の『火の鳥』を読んでいるかのような感覚になった。着想や大まかなストーリーは童話的ですらあるのに、哲学や純文学要素をこれでもかと詰め込んだ大名作。こんなに考えられるストーリーを、たった80ページに落とし込んだ手腕も凄い。ひとことで言うと、まさに「人生」のような作品。

タイトルからして高い文学性を感じさせる「花のなかであたしを殺して」も素晴らしい。両極端なはじまりとおわりが一体化してる文明と、異文化民のフィルターを通して描かれる藍の物語が、切なくも考えさせられる。

これらの短編〜中編的な長さの作品の間に、ショートショート感の強いホラー的作品が散りばめられているのも、作者・中井紀夫氏の引き出しの広さを感じさせる。
巻末にある編者の後書きは、なぜここまで才能のある作家の作品を、現代で読むことが難しいのかがしっかり書かれており、歴史書としても価値の高い一冊。

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2022年04月18日

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「そうは言っても一昔前のSF作品だし…」などと思っていたら、各短編の多彩なアイディアの数々に、時に壮大、時に怖い、時に切ない、様々な感情を浮かび上がらせるストーリーの数々に、一編一編読むごとに、中井紀夫という作家の紡ぐ世界に夢中になっていったように思います。この作家の傑作集が、こうして出版されたことに感謝です。

アイディアの面白さでは、表題作の「山の上の交響楽」がピカイチ。永遠に終わらない交響楽を演奏する800人の大交響楽団。時にユーモラスに、時に抒情をもって語られる劇団の内幕に、アイディアだけでは終わらないストーリーテラーぶりが光る。

日常から急に奇妙な世界の扉が開く。そんな奇妙な味の短編や、すこし・ふしぎのSF作品も魅力的な作品が数多い。
時間の流れがゆっくりになってしまったバスと、そのバスを見守る人々を描いた「暴走バス」のように切ないものもあれば、「なぐりあい」は語り手の前にどこからともなく男たちが、現れただただ殴り合う、というシュールなもの。このシュールな話が意外な読み心地につながっていくのも、またすごい。
「満員電車」や「山手線のあやとり娘」など、電車や駅での日常の場面が一気に不思議な世界、不条理な世界に一変してしまうのも好き。

「見果てぬ風」は冒険者のロマンを感じる一編。二つの長大な壁に囲まれた世界で、壁を途切れる場所を目指し、ひたすら旅を続ける男の一生を描いた短編。
世界観や主人公が訪れる国の数々の想像力の素晴らしさはもちろんのこと、主人公の選択や生き方に憧れてしまいました。荒涼とした風景や世界の中に、それでも旅を続ける男の、言葉にできない熱が感じた名編。

「花のなかであたしを殺して」の異星人たちの奇妙な文化を細かく書き上げる様は、まさにセンスオブワンダー!
そしてラストを飾る「死んだ恋人からの手紙」は、タイトルや展開である程度ネタの予測がついたとしても、それでも切なさに心つかまれる。

書かれた時代もあって最近のガジェットやハードSF的な設定は出てきません。だからこそ、どこかノスタルジックな雰囲気も、この作品集には含まれている気がします。
しかし、それはただ昔を懐かしむためのノスタルジックではなく、アイディアと抒情があれば、最新の技術やガジェットがなくても、いくらでもSFは時代を超え面白くあることを証明するノスタルジックでもある気がします。

編者であり解説を務める伴名練さんの熱も素晴らしかった。日本SF冬の時代と、作家活動の最盛期が不幸にも重なってしまった中井紀夫。それに光を再びあてたのが2010年代最もSFを愛した作家と評される伴名練。
時代を超え愛される作家とは、作品とは、ということが伝わった一冊でした。

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2021年12月20日

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なんてこった、と思った。1話目を読んで、50ページに満たない物語で鳥肌が立ち、目を閉じて空を仰ぎたくなった。
楽器をやっていたからだろうか。吹奏楽とオーケストラでは全く違うだろう。
多数と奏でる音楽はいいものだ。
誰かと奏でることに、今の感情の動きがある。

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2021年12月02日

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本書の中井紀夫については全く知らなかった。日本SFの臨界点:恋愛編での「死んだ恋人からの手紙」で予習はしていたが、本書を以って本格的に中井ワールドに突入した。
一番初めの「山の上の交響楽」がオーケストラを題材とした作品ということもあるが、それ以上に奇想天外な設定に引き込まれた。これは他の作品にも言えることで、先ずはそれをきちんと理解することで、きちんと自然に作品に沈み込んでいける。
愛についての描写はあくまでも純粋なもの、性についての表現もあくまでも種の保存的な表現なので、人によっては無機質に感じられるかもしれないが、それが中井のSF小説スタイル。筒井康隆の様な、人間にグサグサと突き刺さる性描写とは真逆の世界を作り出している。
私にとっては珍しく、不快な作品、意味不明な作品、途中で読むのを諦めてしまう作品は一つもない。編者の伴名練が、次なる傑作選を計画しているようなので、それに全面的に期待したい。出来れば早い機会にお願いしたい。
6月に光文社から新作2作品が出たという情報が入り、早速明日届く予定。楽しみです。

本のカバーデザインにホルンを持つ女の子が描かれていて、ちょっと気分が上がった。

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2021年08月31日

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伴名練がセレクトした中井紀夫の奇想SFを集めた短編集。
中井紀夫というと「能無しワニ」シリーズのSF西部劇の人という印象が強くて、このような作品を書いていたとはまったく知らなかった。
表題作はすべての演奏が終わるには千年でもたりないという交響楽を演奏し続けている楽団の話。他にも重力が90度ずれて南北方向に作用してしまう男の話し、何故か時間の流れが遅くなってしまったバスの暴走を描いた作品など、いづれも傑作ぞろい。
いや本当、こんな凄い作家だったとは知らなかった。
編者があとがきで書いているように、この本には収録されなかった中編「電線世界」でもう一冊出して欲しい。

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2021年07月20日

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「見果てぬ風」は時々思い出してしんみりする物語のナンバーワン。他の話も素晴らしい。他の著作も読みたいが電子書籍で集めるしかないのか。 

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2021年06月26日

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初作家。伴名練『なめらかな世界〜』からこちらにやってき。中短編あわせて11篇あるが、なんと言っても「暴走バス」がいっちばん好き。いろんな想いを抱くこの結末を胸に——「ひかりより速く〜」は生まれたんだなぁと。この他だと「絶壁」「見果てぬ風」「例の席」など…筒井康隆風味を感じさせる作品も多く、わたし好みの作品集でした。

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2024年05月04日

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ネタバレ

どの短編も素晴らしかったが、特に好みだったのは「花のなかであたしを殺して」。異民族の習慣、女性は死で妊娠するという生態の村、そこに滞在する人類学者の不死の男。幻想的でめちゃくちゃよかった。あとは表題作「山の上の交響楽」と「見果てぬ風」も面白かったし、伴名練氏の解説も相変わらず凄まじかった…。

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2022年01月16日

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『山の上の交響楽』
『見果てぬ風』
『死んだ恋人からの手紙』
は再読。
結構印象深い作品が多いがやはり上記3作品は良いな。

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2021年07月24日

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「山の上の交響楽」「見果てぬ風」「死んだ恋人からの手紙」は既読。「暴走バス」は既視感があると思えば、解説で伴名練の「ひかりより速く、ゆるやかに」に影響を与えた作品と知って、こういった形で編者に影響を与えた作品を読めるとは大変面白い趣向だと思う。個人的にはコミカルな「殴り合い」がとても好きだが、「花のなかであたしを殺して」がタイトルの通り切なくてとても印象に残る作品だった。できるなら、奇想度高めの次なる傑作選もぜひ読みたい。

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2021年07月13日

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面白かった!
ホラーっぽいのからガチのSFまでいっぱい読めて良い。
1作品だけよく分からんのあったけど既存作品の外伝だったから納得した。花の中で〜が印象深かったです。
巻末の解説読んだら他の作品も読みたくなったので、編集部ほんとお願いします…!

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2022年08月21日

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短編集。日常で体験するような場面に、オカルトが混じったらどうなるだろう?という、作家の遊び心を感じた。

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2022年01月07日

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ネタバレ

「山の上の交響楽」★★★
「山手線のあやとり娘」★★★
「暴走バス」★★★★
「殴り合い」★★★
「神々の将棋盤」★★
「絶壁」★★★★
「満員電車」★★★
「見果てぬ風」★★★★
「例の席」★★★
「花のなかであたしを殺して」★★★
「死んだ恋人からの手紙」★★★★

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2021年09月05日

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初期作品からのセレクトだから当然なのだけれど、昔のSFだなあという気がする。昭和の頃の日本SFって日常描写がとにかくベタなのよ。この感じは懐かしいなあ。SF系では表題作や「山手線のあやとり娘」、ホラーでは「例の席」が好み。

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2021年06月29日

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