あらすじ
菖蒲長屋で赤子を産み落とし、消えた女――。不思議な能力を持つ娘おいちは、その女の聞こえるはずのない叫びを聞いてしまう。岡っ引・仙五朗らと力をあわせ、女を捜していたおいちのもとに、女が惨殺され、無残な姿で見つかったとの報せが――。傷痕から見えてきた女の正体、女が抱えていた事情、そして母を亡くした赤子の運命は? 一方、松庵のもとには、老舗の薪炭屋の主人と内儀がやって来て、母おきくの病を治してほしいと懇願する。一見、なんの関係もないかに思われた二つの出来事だが――。父・松庵のような医者になりたいと願うおいちは、夢に向けた一歩を踏み出すことができるのか。そんなおいちに想いを寄せる新吉、凄腕の岡っ引・仙五朗、そして個性的なキャラである伯母のおうたも健在。人気の青春「時代」ミステリー第四弾。
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江戸の町医者・松庵の娘である、おいち。父親を手伝いながら、松庵のような医者になりたいと日々努力と研鑽を重ねている。実は、人には見えないものが見えたり聞こえたりするおいち。その不思議な能力で、無念のうちに命を落とした人々の想いを受け取り、解決に導いていく。
今回は、お殿様の子を身籠った女性が、権力闘争から逃れておいちのもとで出産したことから話が始まる。その女性、滝代は、子を助けようと自ら囮になり殺されてしまった。子を守りたいおいち、下手人を挙げたい岡っ引きの仙五朗は、協力しながら子を守り、下手人探しをする。
滝代の子、十助は、ちょっと訳ありの商家にもらわれて、その商家は十助を江戸から遠ざけるために、廃業までしてどこぞの田舎に引っ越した。これなら安心!その商家のおばあさんは、若い頃の過ちをずっと悔いていて、十助を引き取ることでどうやら救われそうな感じ。二重で良かった!
そして十助を狙っていた御家人たちの正体も判明し、でも仙五朗は町筋なので突き出す事はできない。襲った側にも一分の正義があるのだけど、丸腰の妊婦(滝代が出産前だと装っていた)を殺した事実は変わらず、仙五朗はきついお灸を据える。モヤモヤするけど、江戸の世では仕方ない‥。
おいちに惚れてる飾り職人の新吉、あまり進展はなかったけど、頑張れ!と思う。
松庵と、おいちの伯母である、おうたのやり取りは、安定の面白さ。おうたが松庵を罵倒する言葉で私がツボったのが、「立て付けの悪い雨戸みたいな顔=どうにもしまらない顔」。おうたさん、悪口の才能がすごい。
今回、おいちは滝代と関わったことで、将来の夢を明確にする。女のための医者になりたい、どんな境遇でも、安心して子を産める場所を作りたい。
医の道の厳しさを知る松庵は、無理だと一蹴するけど(親の視点からだから、理解はできる)、仙五朗は、おいちさんならできる、と言う。そしておうたも、大事な大事な姪っ子が夢を現にできると信じて、あたしがついてる、と心の中で、おいちを応援して支えることを決意する。このくだり、いつもは松庵を罵倒し、おいちには早く嫁に行けと急かすおうたの心情に、私は涙ぐんでしまった。
おいちは、周囲の人間に恵まれていて、どんな事件に巻き込まれても、きっと大丈夫という安心感がある。いつのまにか、6作目まで出ているので、早く読まねば!
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面白かった。おいちの将来やりたいことも固まってきて、なんだか頼もしくなったなあと。母親にもなりたいって言ってるから、そんな自立してる女性を助けられるのは懐の深い新吉だと思う。今回は2人に進展はないけど、次回以降が楽しみ。自分のやりたいことを成し遂げようとするおいちはかっこいい。
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往診の帰りに遭遇した妊婦を連れ帰り産婆さんがおらず松庵も頼りにならない状況で長屋のおかみさん2人に手伝ってもらって赤子を取り上げたおいち。よほど難しい状況じゃなければ産婆も呼ばず自分達で取り上げるのも当たり前なんて江戸時代のお産は正に女の戦場。大名家の跡目争いに振り回される下級武士達。武士と威張っていてもやってることは人殺しと押し込みだからね。十助を引き取ったお菊一家が穏やかに暮らしていけるのが希望になる。おいちの女のためのお医者、それに向けて進むのか。
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シリーズ4作目です
この世に思いを残した人の姿が見えるという不思議な能力があるおいち。今回は御家騒動に巻き込まれて亡くなった女性の想いが見えてきます。
覚悟を決めたおいち。
医師見習いのおいちが目指すは、婦人科医⁈
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不思議な能力を持った娘おいちが、岡っ引きの仙五朗とともに、江戸の下町で起きた事件を解決するシリーズの第4弾。
今回は、いわくあり気な女性を助けたことにより、その女が産み落とした赤児を巡って、お家騒動に巻き込まれる。
事件解決後、おいちは、女たちのための療養所を作りたいと明かす。
お市の夢が叶うか、今後も見守って行きたい。
本筋ももちろん面白いが、それに加えて毎回楽しませてくれるのが、おいちの父松庵と、おいちの伯母おうた(松庵の姉)との掛け合い。
今回も、おうたが松庵に次々と難癖をつける。
「立て付けの悪い雨戸みたいな顔」
「考えなしの極致の松庵さん」
「潰れた梟みたいなご面相」
「風邪を引いた鬼瓦みたいな顔」
著者の考えるユニークな比喩に、思わず破顔してしまう。
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母と子/赤子、泣く/小さな手/夢の女/白い火花/
遠い煌めき/想いの花/見知らぬ人/風に揺れて/
やがて、朝が
おいちに 見えるもの、おいちに 聞こえる声。
おいちのもとで産み落とした赤子を置いて、母はなぜどこへ行ったのか。
母の分まで幸せになるんだよ……
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弥勒シリーズのような人間の暗さや切なさを感じさせる上に、霊感を持った主人公が謎を解決してゆくので益々全体に暗さを帯びる。今回も赤ん坊の父親はハッキリしなかったが、武家のお家の事情により母親を殺さざるを得ない羽目に落ちた下手人達が哀れだった。口煩い伯母と抜けたような父親のやり取りがホッとさせる。
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シリーズ4弾目も女の悲しみの話でそれはもう切ないやら。昔の女性は自分で自分の生き方を決められることがないばかりか周りに強要されたり権力争いに巻き込まれたり読んでて辛い。滝代がどんな思いで出産し守ろうと行動したのか、あまりに不憫でやるせない。お蔦たちが子を育てる様を見て江戸の女の逞しさや強さも感じられる。十助がこの先に幸せであってほしいし、十助の周りもみんな幸せであってほしい。おいちが女のための医者になりたいと目標や夢がハッキリしたことがまた前進。周りはどうあれ夢を叶えてたくさんの女性を救ってほしい。
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おいち不思議語りの四作目。今回は薪炭屋の主人と内儀が、母おきくの病を治してほしいと依頼して来るところから始まる。穏やかな老女おきくに若い鬼女の顔が重なる。
おきくの往診の帰りに、おいちは産気づいた女滝代を菖蒲長屋に連れ帰り、赤子十助が産まれた。十助を残し、滝代は消えるが惨殺されて見つかる。
この2つの事柄は、なんの関係もないかのようだが、どうなっていくのか気になって、ページを捲る手に加速がつく。あさのあつこさんの導入は、いつも引き込まれてしまうほどに上手い。
上手いと言えば、おうたと松庵の掛け合いも読み処である。おうたの松庵に対する比喩に、あさのあつこさんの表現力の豊かさを感じる。
杉野小十郎がおいちを訪ねて来る。それは何者か?滝代とどんな関係があるのか?次の疑問が湧いて来る。
仙五朗が「ゆきずりのえにし」を口にする。この言葉においちだけでなく、作品の中の人の巡り逢いを感じる。やがて、朝が・・・一気に物語の終焉を迎える。
Posted by ブクログ
おいちの前に現れ、赤子を産み、姿を消した女が殺された。赤子を狙う侍たち。託された赤子を守ろうとするおいち。そんなおいちに届く赤子の母の声。母親を擬似体験したおいちにも影響が。