【感想・ネタバレ】NHK「100分de名著」ブックス 三木清 人生論ノート 孤独は知性であるのレビュー

あらすじ

ニヒリズムを超越する真の勇気は、孤独を知り、理想を手放さない知性にこそ宿る!

三木清(1897-1945)は、日本初の哲学者といわれる西田幾多郎と師弟関係を結んだ思索のひとである。また、孤独や貧窮を味わった在野の哲学者である。そんな彼が、日本が戦争へと突き進んでいくなか、「文學界」(1938~1941年)に寄稿した連載が「人生論ノート」だ。人生のなかで、誰もが一度は煩悶するであろう困難(「死」「虚栄」「孤独」「嫉妬」「偽善」「利己主義」など)への向き合い方や願望(「幸福」「理想」「成功」「希望」など)への道筋について、思索を深めた哲学エッセイである。その文章は、晦渋であるうえに、時局を踏まえ細心の注意が施された表現なため、難解で真意をつかみにくい側面がある。その難解かつ迂遠な表現の核心を、三木清を長年研究してきた岸見氏が懇切かつわかりやすく解説する。
岸見氏が注目するのは、三木が掲げた「理想主義」。それは、ひとが困難を乗り越えるために必要不可欠な態度であるのに、現代人に著しく欠けているセンスだと、氏はいう。「どうせ」や「いまさら」といったニヒリズムは現実を変える力を持たず、楽観的に見える理想主義こそが、ひとを幸福へと導く力だという三木。「人生は運命であるように、人生は希望である。運命的な存在である人間にとって生きていることは希望を持っていることである」。人間の負の側面を認めつつ、そこから一歩先へ進むための杖として、「希望」を失ってはいけないと説いたのだ。
また、真の勇気は「孤独」を恐れない、知的な姿勢にこそ宿るという。組織や集団の欠点・瑕疵を指摘するには、孤立を恐れない勇気が必要だ。社会のため、幸福のために孤独は重要な要素だと、三木はいうのだ。
1945年3月思想犯を匿ったかどで逮捕され、同年9月獄中で死を迎えた三木の、人生をかけた言葉の連なりは、閉塞した社会を生きる私たちを鼓舞し、勇気づける。哲学的な示唆とともに、人間の尊厳と幸福を希求したその人生もまた、読者を勇気づけるだろう。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

・文庫本というスタイルを発案したのが三木清!

・「欲しがりません勝つまでは」というスローガンに表れるような、自己犠牲や滅私奉公を美徳とする風潮が人々の心に影を落とし始めていた。
・幸福を求めることに良心の呵責を覚えるようなことがあってはいけない。

・成功と幸福は別物。その違いを三木は次のように対比しています。成功は「直線的な向上」として考えられるが、幸福には「本来、進歩というものはない」。また、幸福が「各人のもの、人格的な、性質的なもの」であるのに対し、成功は「一般的なもの、量的に考えられ得るもの」であり、純粋な幸福は「各人においてオリジナルなもの」だが、近代の成功主義者は「型としては明瞭であるが個性ではない」。

・幸福はオリジナルなものなので、誰も真似することはできない。他方、成功は一般的で量的なものなので、模倣されたり、追随する人が出てくる。

・感覚的、情緒的なものに訴えて人々を行動に駆り立てようとする、社会は非常に危険
〜〜
・楽しむためには、傍観するのではなく、当事者として参加し、自ら作っていくことが必要

・教養あるディレッタントの中には専門家以上に豊富な知識を持っている人もいますが、鑑賞したり知識を蓄えたりするだけではいけない。自ら創造することが重要。

・多くのことを諦めたけれど、最後の最後に残ったものについて「これこそ自分が本当に希望していたものだ」と思えるのなら、どれほど多くの夢を諦めたとしても、夢を叶えた人生だといえるでしょう。逆に「あれもできなかった」「これもできなかった」と、いつまでも後悔する人は、今という時間や人生を棒に振っていることになります。諦めることが放棄することだとしたら、三木のいう「断念」は真の希望につながります。たとえ長く続けてきたことであっても、それが自分に向いていないと分かった時は、きっぱりと断念し、違う道を選ぶ勇気を持ちたいものです。

2章
・虚栄は人間の存在そのものである。人間は虚栄によって生きている。
つづく

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2023年09月30日

Posted by ブクログ

岩波文庫の巻末「読書子に寄す」の草稿を手がけたのが、三木清だった。
各章の表紙の写真はいろいろと語りかけてくるようだ。

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2021年08月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自分からしたら三木の言わんとしていることは難解であった。しかし三木の旅の意義とそれに結びついた人生の意義には納得させられた。レールの敷かれた人生を歩むことは楽で、安定しているのだろうが、真夜中の道を歩むような、人生は時として恐怖にさらされたり、不安定であるもののそこに希望を抱くことができる。そしてそのように自分で選び抜いた人生には結果よりもその過程が輝き、三木のいうエキセントリックな人生となりうるのだろうと思った。

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2025年04月13日

Posted by ブクログ

人生論ノートの解説書。全文引用して解説している訳ではなく、要所要所ピックアップしてという感じ。原本の難解な用語も注釈として解説してくれていたり、三木清の人生、時代背景、他の著作についても触れられていて俯瞰的に理解出来る様に配慮されている。が、しかし、やっぱり全部人生論ノートを理解するのは難しい。何回も原本を読むべしだな。

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2024年11月17日

Posted by ブクログ

人生論ノート再読前テキストとして。
2017年が、三木清生誕120年にあたり、NHKで取り上げられたようです。その時解説された岸見さんの著書。ということは、後5年で130年ですねえ。
著者と同じく高校の時の何かの課題として手にしたことがあります。読みきれず、興味も持てずという思い出しかないような。
ネットなどなく、情報が少なかった当時、戦争中であるため、言論弾圧をさけ、発禁処分を受けないように、わざわざ晦渋な書き方をしているだけで、一般向けの作品なんだよって、誰か私に教えてくれたかなあ。知ってたら、もう少し読んだと思うのだけど。
それでも、やっぱり読みにくい「人生論ノート」これは、優しい語りで良きテキストです。
そして、岩波書店で編集顧問をしていた三木清様が、日本に文庫本スタイルを導入されたと知れば、それだけでも、尊敬に値する業績ではありますまいか。
本書は、三木の人生、人生論ノート各項目、そして死について解説し、特別章として、「孤独は知性である」が寄稿されています。最近では、斉藤孝さん等が孤独の力を書かれてます。一人でいることは孤独ではないけれど、孤独に近づく手段ではあると。
孤独は町にあり、人と人の間にあると。

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2022年12月07日

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