【感想・ネタバレ】太平天国 皇帝なき中国の挫折のレビュー

あらすじ

「滅満興漢」を掲げて清朝打倒をめざし,皇帝制度を否定した太平天国.その鎮圧のために組織され,台頭する地方勢力の筆頭となった曽国藩の湘軍.血塗られた歴史をもたらした両者の戦いの詳細を丹念にたどり,中国近代化へと続く道に光をあてるとともに,皇帝支配という権威主義的統治のあり方を問い直す.

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Posted by ブクログ

ネタバレ

太平天国の乱の通史。
洪秀全の説く拝上帝会はキリスト教を教義としながらも、官として出世する現世利益や中国固有の天朝制度華夷思想を盛り込んだ独自のものだった。ヨーロッパ近代が「文明」を自任し「野蛮」を排斥した論理をも含み込んでいる。
タイへ天国の乱の当初は教義に基づいた天朝田畝制度や男女の別などの理想主義的な政策が特に貧民に対して受け入れられたが、やがて現実との摩擦で変容を余儀なくされるのは古今東西の革命軍の倣いの通り。太平天国は自らの支持基盤である下層民以外の地主や旗人といった旧体制側の人間を取り込めず発展性を失った・
南京を落とし天京として制度を整えた洪秀全は、自ら天兄・真主として形而上形而下頂点に立ったが、ナンバー2の東王・軍師・楊秀清に軍事や政治といった形而下の権力を委ねもした。しかし楊秀清が戦略の失敗を糊塗するために天父下凡で自らの地位を脅かしかねないとみた洪秀全は、天京事変で自ら太平天国の勢力衰退を招く。
不倶戴天の敵となった曽国藩の湘軍との類似点が挙げられている。「敵の必ず救うところを攻める」戦略や、参加者の出身地、後方へ回り込む戦法など共通点を指摘している。
太平天国は複数の実力者が並び立つ王制や農村まで支配の手を伸ばした郷官の地域支配といった、中央集権をカバーする可能性を含んでいたが制度の未成熟や政争で結局中国古来よりの中央集権的に回帰した。
中国の古代よりの中央集権・専制支配的な体質の変革という可能性を秘めた太平天国だったが、結局は古風に回帰した。

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2021年01月25日

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