あらすじ
インドのスラムに住む、刑事ドラマ好きの九歳の少年ジャイ。ある日クラスメイトが行方不明になるが、学校の先生は深刻にとらえず警察は賄賂無しには捜査に乗り出さない。そこでジャイは友だちと共に探偵団を結成しバザールや地下鉄の駅を捜索することに。けれど、その後も続く失踪事件の裏で想像を遥かに超える現実が待っていることを、彼はまだ知らなかった。少年探偵の無垢な眼差しに映る、インド社会の闇を描いた傑作
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Posted by ブクログ
ハヤカワミステリー文庫から出版されていること、エドガー賞の候補作、タイトル…それでもあえて先に言っておく重要な感想は、この小説は所謂ミステリー小説ではないってこと。そこを大きく期待してしまうと「で、オチは?」とのたまう無粋関西人のような感想を持ってしまうと思う。
既定のジャンル枠にとらわれず、現代インドのスラムの闇も病みも汚れをも、子供目線で照らしつける小説とだけ頭の隅に置いて読めば、この本にどっぷり嵌れると思う。
行方不明となった同級生を探す、無邪気な少年探偵団たちが次第に自信を失い、世界の無情にさらされ、ついには「僕はもう探偵じゃないから…」と言わせてしまう、なんともニヒルな成長譚。
描かれる背景には、カースト制度、宗教対立、貧困格差、衛生問題。スラム街のトイレは共同で(駅じゃなく各戸にトイレがない)朝は行列ができ、その待ち時間に人々はスマホを観る。そんな今のインド風景のリアルさ。
別世界のことだと思えるかも知れないが、日本だって1日に数人の子供が行方不明になっていて、トイレで飯を食う子がいたり、公衆トイレで不倫する芸能人の話題で視聴率が稼げる、そんな貧しさもすぐ目の前にある。もっと直視しないといけないと思う。
スラムであっても、大人たちが暗い世情を嘆いても、物語の中の子供たちは明るくしたたかに生きている。それが救いで読める本作。日本にもこんな子供たちがいれば未来はきっと明るいんだろうけど…この国って少子やねんなぁ。