インドでは毎日180人もの子どもが行方不明になる。年間ではない。月間でもない。毎日である。その衝撃的な事実を基に、元ジャーナリストである著者が書いたのが本作。
雑多で混沌に満ちたインドのスラム社会を、探偵に憧れる少年ジャイの視点からリアルに、時にコミカルに描いた話題の作品である。作家の深緑野分さん
...続きを読むがTwitterでべた褒めしているのを見て手にした。
主人公ジャイをはじめ、優等生の女の子パリやムスリムの少年ファイズなど、スラムに生きる本作の子どもは皆したたかで、たくましい。貧困問題、女性差別、宗教問題、そして誘拐事件…扱うテーマは複雑で重いが、暗くなり過ぎないのは、登場人物の彼らが希望を捨てていないからだろう。
とはいえ作中でジャイは少しずつ変わっていく。物語冒頭で持っていた根拠のない自信は、現実には何もできない自分を知ることで徐々に崩れる。大人になる過程で誰もが通る道筋だが、ジャイはかなりハードなステップを踏むことになる。
描かれるインド社会の現実も、物語の展開も、すべてが想像を超えていた。2021年のエドガー賞受賞作品。