あらすじ
戦国・幕末維新といった歴史の転換期には、一見華やかな表舞台の裏に、虚々実々のかけひきがあり、悲哀に満ちた人間ドラマがある。人質時代の徳川家康がどのような思いで屈辱の時期を耐えたのか。明治新政府の重役に劣らぬ知識・教養を持ちながら“人斬り彦斎”の名に甘んじた河上彦斎は維新をどんな形で迎えたのか――正史ではふれられることのない逸話をまじえながら、歴史に鋭いメスを入れる短編小説集。 【目次より】春暗けれど――家康の竹千代時代/遺恨阿井の渡し――山中鹿之介の最期/遠征哀歓あり――秀吉の中国攻め/天目山に桜散る――武田勝頼の末路/決死の伊賀越え――忍者頭目服部半蔵/捨て殺しの城――鳥居元忠/引越し大名――楽になりたや/木の葉の城――石州浜田藩の悲劇/人斬りにあらず――河上彦斎/球磨川の雨――西南の役秘聞
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Posted by ブクログ
直木賞ノミネート6回という経歴を持つ滝口康彦(1924.3.13-2002.6.9)の短編集です。
少年時代の徳川家康を主人公とした「春暗けれど」に始まり、武田勝頼の最期を描いた表題作、そして西南戦争を題材にした「球磨川の雨」まで戦国から明治にかけてを舞台にした10編の小説が収録されています。
恥かしながら「短編小説」というと、その短さから人物描写など内容的に未消化な点が多いのではないかと思っていましたが、本書を読み、それが間違った認識であった事を思い知りました。
歴史という人間ドラマの中で、それぞれの時代のそれぞれの境遇における人物たちの「生きざま」が、逆に短編故に凝縮されて描かれ、どの作品も大変印象深いものとなっています。
私が特に印象に残ったのは、前述の「春暗けれど-家康の竹千代時代」、江戸時代に起きた越後騒動に触れた「引越し大名-楽になりたや」、第2次長州征伐を描いた「木の葉の城-石州浜田藩の悲劇」です。