あらすじ
ベジタリアンやビーガンといえば、日本ではいまだ「一部の極端な偏った人」と思われる風潮があるが、世界では、肉食と環境問題は密接にリンクした問題として認識が広まっている。動物倫理学は功利主義の立場から動物解放論をうたうピーター・シンガーを嚆矢とし、1970年代から欧米で真剣な議論と研究が積み重ねられ、いまや応用倫理学の中で確固とした地位を占めるに至った。本書は倫理学の基礎に始まり、肉食やペットなど具体的な問題を切り口に、いま求められる動物と人間の新たな関係を問う、動物倫理学の入門書である。
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Posted by ブクログ
倫理学の説明から動物倫理について分かりやすく書かれている。
最後は主研究であるマルクスと動物倫理を重ねた章になっていて、とても面白い。
主に動物の権利についての是非を問う本であるが、そこから付随して人間中心主義、環境問題・倫理についても言及されている。
犬と暮らしている身としてはとても学びの深い本でした。
倫理は自分を基準にせず、万人があまねく実行できるように考えなければならない。
なので、今から全ての動物を殺しません、とはまだ言えない。肉食を辞めますとは言えない。が、しかし、昨今の環境問題や国際問題で少しずつ意識が変わってきている。
AIなどの技術の進歩もあり、目覚ましい発展が今後も窺える。
だからこそ、倫理を考えなければならない。
資本主義、民主主義である日本だからこそ徳と倫理を考えなければならない。
考えることが前提の社会だから。
Posted by ブクログ
動物倫理学の入門書でもあるが、倫理学、厳密には規範倫理学の入門書でもあります。動物倫理学といえばお恥ずかしながらピーターシンガー氏くらいしか分からず、功利主義的な立場からの物言いは理解はできるけど、地球の裏側のキッズことまで考えられへんな〜という稚拙な印象しかなかった私ですが、本書では規範倫理学の3つ(2+1)の柱をもとに展開されていく動物倫理学を明快な文章で書かれていました。動物が可哀想という感情に訴えるのではなく、理路整然とした動物倫理学には批判すべきところが見当たらず私も小さい一歩から始めてみようと思いました。
また、マルクス研究者でもある筆者は最終章でマルクスと動物倫理学を架橋しようと試みていてそこも独創的で興味深かったです。
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従来、牛耕や戦馬など動物利用は不正ではあるものの仕方のない必要悪だったが、今日ではその必要性が消失したため、単なる悪と化した。
その前提には、「人間は常に主体であり、動物は客体である」という考えがあり、これに基づき、動物は生きた道具とされている。
倫理的実践は、平常的な個人が常識的な努力で実現できるものでなければ意味がない。
よって、ビーガンは今すぐには不可能であるが、フレキシブルに動物成分を避けるフレキシタリアンや動物成分を削減するリデュースタリアンを目指すのが現実的である。
Posted by ブクログ
倫理学知らない自分でも基本から説明してくれるのでありがたかった。元々の学問が難しいのでやや難解だったが、、、
3章が兎に角エグい。動物との付き合い方を本気で考えさせてくれる本。環境倫理学の話は批判的な立場で述べられていた。確かに万人が実践できない倫理観を押し付けてるところがキツイと思う。マルクスに関してはそもそもマルクスに関する知識が個人的に浅いのでこれまた難解だと感じたが、言いたいことは分かった。
生体売買は資本主義の悪い部分だと思うから、換えていかなければならない問題だと感じた。
Posted by ブクログ
ペットや害獣駆除の話だけでなく、ブラッドスポーツに動物性愛、動物園や水族館など守備範囲は広い。特に本書は食肉生産と動物実験についての是非が中心。前者については実践に対する筆者の冷静なバランス感覚が絶妙。後者については医療用だけでなく食品や化粧品分野が小さくない市場であることを教えられた。
映像資料が氾濫する現在において、動物園や水族館が歴史的役割を終えた遺物である…というのは納得できる。
「動物」と一括りにされてるが、線引きがかなり曖昧。ある動物が苦痛を感じるかどうかは未だ未知のところが多いだろう。一説で魚類や鳥類が後付けで含まれるようになった経緯を知って、今だってまだ過渡期ってことよねと思った。
積極的に自分のスタンスを表明したいほど動物愛護精神に富む訳でもないが、愛玩動物は生理的に受け付けないし、そもそも他の生き物を「飼う」=生殺与奪を握る、ってのは野蛮ってもんでしょ…とは言え、我が家に鉢植えはあるし、話し掛けたりもする。食物連鎖は現実だし、弱肉強食は原則だと思う。
馬に代わる車がなく毛皮に代わる繊維がなかった時代と現代とで考え方が変わるのは当然だけど、科学技術の発達と社会的背景を絡めて先駆者の考察を追うのは、純粋に興味深い。
「現代の常識である動物福祉的な見方」とあるが、現代日本社会に限定されるよね?
「動物虐待が法で罰せられる」ってのも、少なくとも先進国諸国では普遍的なんだろうか?かなりお国柄があるような気もするけど。
もっと言っちゃうと、動物の方は人間に危害を加えても、その動物社会内で何らかの制裁を受けてたりしないよね、恐らく?だから何よって言われても困っちゃうんだけど…。
そもそも動物理解に乏しいヤツがこんな本読むなって言われると、全くその通りだろうし…歯切れ悪くてスミマセン。だって普段から、犬猫を飼ってることを声高に明言し、あまつさえ「あなたも飼ったら?」みたいなことを平気で言う輩に辟易してるんだもん…「ソレって虐待よね?」って言い返せる日が早々来るとは思えない、今のニッポン。
Posted by ブクログ
良著。特に前半の論述の明晰さ、まとまりの良さには目を見張った。田上先生は文章家としても優れていると思う。
高評価を前提に敢えて重箱の隅をつつくならば
・アニマルライツの根拠が知的能力に求められることの詰めた論証がなくサラッと流されている印象(しかしおそらく多くの日本人読者的にはそこが最も疑問なところだろう)
・後半は実践的ではあるがやや散漫、平板に感じた
こんなところか。
Posted by ブクログ
動物倫理学という聞いたことのない分野に興味を持ち、流し読みした。
確かに、人間は牛や豚を食べるためなら彼らを殺すことを厭わないが、こと犬や猫に対しては、人間並み、とまではいかないが人間に準じた倫理観を持って「愛護的に」接している。
牛豚の殺生、これは肉食は人間の生存のために必要であるという大義のもとであるが、むしろ現代を生きる我々は、彼らを生きるために必要な栄養分として見ているというよりは、より娯楽的なものとして、「楽しんで」「おいしく」食べているといっていいかもしれない。
一方で屠畜の現場は生々しく、文字通り「食欲をなくす」ようなかたちで牛や豚は殺されている。そのリアリティは現代社会の中では目の当たりにする機会は少なく、実感はあまりわかない。ゆえに我々はその倫理的矛盾に無自覚である。
食べる前の「いただきます」のおまじないでチャラになるような話ではない。それでもビーガンにならない限りは肉食はやめられないと思うし、そのようなモヤモヤを抱きながら、これからも私は牛丼を食べるんだろうと思う。
Posted by ブクログ
動物倫理学の学問史と、研究の中心に置かれてきた社会問題について網羅的に解説した本。後半では、動物倫理学が批判してきた西洋的な人間中心主義の考え方に対して動物倫理学がとる立場と、動物倫理学の論点をさらに越えようとした倫理学的立場として環境倫理学とマルクス主義の動物と環境観が紹介される。
この本では、はじめに、動物の権利を考える上での基本的な考え方として、規範倫理学の学説を大きく「功利主義」「義務論」「徳倫理」の3つに大きく分ける。その後、こうした倫理学的原理から、肉食や動物園・水族館、野生動物の狩猟、駆除、コンパニオン動物(ペット)、動物性愛といった具体的な動物に関わる善悪問題について、それぞれの立場がどのように考えるのかを解説する。
ここら辺は、他の入門書でも知っていたので、やはり基本的な論点は、そこなのだなということを改めて確認できた感じである。
個人的によかったのは、動物倫理学という学問自体が、誰のどういった著書から成り立ってきたのかを解説した第二章「動物倫理学とは何か」だった。ピーター・シンガー『動物の解放』、トム・レーガン『動物の権利の擁護』といった、おそらく基礎文献にあたる本と、そこで初めて主張された論点が紹介されている。この学問史の理解に、どの程度、妥当性があるのかは知らないが、すごく分かりやすくまとまっていて、他の本を読むときにも参考になった。
正直、第四章の「人間中心主義を問い質す」のところは、内容に陳腐さを感じてしまってイマイチだった。加えて、肉食の問題などは、統計的なデータなどがないので、いまいちその規模が実感しづらかった。
ただ、内容が網羅的で、動物倫理学の成立の全体像がよく分かるので、この点については、新書としてすごくおすすめできる一冊だと思う。
Posted by ブクログ
新書という形式では本邦初の動物倫理学の入門書。これまでの人類の動物への扱いは基本的に不当であり、動物に権利を認め、動物を「生きた道具」として使わない文明とライフスタイルをこれからの人類は構築すべきだと主張。
倫理学の3つの主要学説である功利主義、義務論、徳倫理のエッセンスの解説から始まり、それぞれの立場に基づく動物倫理学の経緯や考え方を解説した上で、人類は動物とどう付き合っていくべきかの考察や人間中心主義の問い直し、環境倫理学との対比、マルクスから得られる示唆へと論が展開していくが、動物倫理学やその周辺について理解が深まり、とても勉強になった。
しかし、動物倫理学の考え方には違和感が拭えず、著者の主張に納得できたかというとそうは言えなかった。
まず、動物に人間と同様の「権利」があるとする根拠が曖昧なように感じた。「生の主体性」や苦痛を感じるなどの感情があることが根拠とされているが、やはり人間の持つ意思表明能力、世界の認識能力、言語によるコミュニケーション力など、いわゆる理性といえる能力は一般的な動物とは区別されてしかるべきではないかと思う(著者が人間に近いとして例に挙げているのは基本的に類人猿であり、百歩譲っても認められるのは類人猿の権利だけではないか)。
また、権利を持つ対象となる動物の範囲も不明確である。魚類や鳥類も生の主体たり得る可能性があるとしているが、では、昆虫やエビ・カニなどはどうなのかについては全く語られていなかった(蚊に刺されたからと言って死ぬわけでもないのに蚊を殺すことは動物倫理学ではどう評価されるのか)。また、感情を持つというならば、植物にも感情があるという研究もされているが、植物については権利を認める必要はないのだろうか(そうなれば、人類は餓死せざるを得なくなる)。
そして、肉食を倫理に反すると主張しているが、雑食動物である人間にとって動物を食べることは自然の摂理に沿ったものであり、否定されるべきものなのかという疑問がある。「工場畜産」に問題があるとしても、それはそれとして動物福祉的な考え方で対応すべきことではないか。
ほかにも、「自然の権利」を否定するところで、本来の意味での権利は法的な権利ではなく道徳的な権利である旨を主張しているが、個人的には権利というのは法的なものという説明のほうが理解しやすく、道徳的な権利というのは内容が不明確だと感じた。このように、「権利」などの動物倫理学で使用される用語が観念的で、恣意性を帯びているように思われることも、その議論にあまり説得性を感じない一因である。
以上のように、個人的には、本書の主張には疑問が多く、納得はいっていないのだが、動物と人間との関わり方に関する議論に一石を投じるという意味で、本書の意義は認めるところである。
Posted by ブクログ
触れたことのない動物倫理という学問。入門編にピッタリと思い手に取った一冊だったが、衝撃的な内容だった。人間が動物たちにしてきたこと、現在もしていること、正直目を瞑りたくなるもので、本を閉じそうになったのが本音。でも向き合わなきゃいけない、一人一人が知らなくてはいけない、そう諭してくれる本だと感じた。