【感想・ネタバレ】命は誰のものか 増補改訂版のレビュー

あらすじ

生命倫理の入門書ロングセラー 全面増補改訂!

出生前診断、優生思想、尊厳死、脳死・臓器移植……
考える手がかりは、ほぼすべて本書の中にあります

あなたならどうする?
・パンデミックでは患者に優先順位をつけていいと思いますか?
・出生前に障がいがあるとわかったら、その子を産みますか?
・治る見込みがないのに、生かし続けられることを選びますか?

初版刊行の2009年から12年が経過し、その間に生命倫理の視点から考えるべきさまざまな新しい問題が生じた。
まさに現在わたしたちが直面している「コロナ・トリアージ」、ゲノム編集、優生思想、出生前診断、安楽死、脳死臓器移植等々について大幅に増補したほか、
初版記載のデータも全面的に更新した。現在、生命倫理の最も充実した入門書となっている。

「はじめに」から
現在、人間の生命をめぐって、どのような問題が生まれ、どのような議論があり、なにが問われているのか。
問題は、さまざまな価値の大本にあるわたしたちの命にかかわっている。そこには、現在の社会が直面している課題が典型的に示されている。
とりあげるのは、一四の問いである。それが、目次に示したように、各章のタイトルになっている。
まず第一章では、医療資源の配分論と呼ばれる問題をとりあげ、生命倫理の問いの基本的な特徴を考えてみる。
第二章では、その関連で、「コロナ・トリアージ」の問題を取り上げる。
続く第三章から第七章までは、人間の誕生、生命の始まりの場面を扱っている。
中心となるのは、障がいや検査技術(第三章・第四章)、「強制不妊救済法」と優生思想(第五章)、不妊治療として急速な発達を見せてきた生殖技術(第六章・第七章)をめぐる問題である。
後半は、生命の終わり、人間の死に場面を移し、治療停止や安楽死の問題(第八章・第九章)から始めて、
「人生会議」と呼ばれる日本版ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の問題(第一〇章)を経て、
二〇〇九年に法律が改正された脳死臓器移植に関するさまざまな問題をとりあげる(第一一章・第一二章)。
終わりの二章(第一三章と第一四章)では、脳死臓器移植やゲノム編集技術をめぐる問題を受けながら、
いわば全体のまとめとして、生命倫理と呼ばれる議論がどのようなものであったのか、また、なにを問うべきなのかを考えることにしたい。

正誤表
本文に誤りがありましたので、下記の通り訂正するとともにお詫び申し上げます。
4ページ8-9行目
誤)ソフォクレス
正)プロタゴラス

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Posted by ブクログ

透析患者のトリアージに始まり、代理母や終末医療・尊厳死、臓器移植まで幅広いトピックを取り上げ、過去から現在までの議論を整理した生命倫理の導入書。
歳を重ねることで身近になった事象や、コロナ禍での直面した事象はあったものの、体系立てて目線を当てたことがないことが気にかかっていたため手に取った。

これらの生命倫理の裏には常に「経済性」がなりを潜めており、表面上は倫理のことを議論しているように見えても、実態は「経済性」のゴールありきのロジックを積み立ているということが多々ある。
特に臓器移植時の「死」の判定において、移植臓器の圧倒的不足に対するカバー策として「脳死」という概念を掲げ、コンセンサスを取ろうとしてきた経緯が分かりやすい。
技術が発達するにつれて既存の倫理に当てはまらなくなるだけではなく、細分化が進むため各論に対して人類全体としてのコンセンサスを形成するのが難しくなっていく。各論に執着せず、大局として「善い」姿を模索し、示していく必要があるだろう。

著者は自分の倫理観を推すことはなく、歴史と視点を解説することに終始しているため、多角的な視点を得るにあたり大いに役に立った。
初版は2009年だが、2021年に増補版として近々のトピックをまで網羅されたのがありがたい。
おすすめの本です。

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2025年01月06日

Posted by ブクログ

生命倫理の入門書と言われているだけに分かりやすく書かれている。改訂版という事で、COVID19のトリアージ、優生保護法問題、「人生会議」の問題について、最後は遺伝子改変技術についてまとめられている。生命倫理の問題では自己決定権が取り沙汰されるが、何のための自己決定なのか言葉に騙されずに、しっかり学び議論をすることが大切であることがわかる。いずれにせよ、新しい技術が、この先どのようなことを社会に起こすかをしっかり想像しながら考え、専門家だけに任せずに民主的議論で進めていく事が大切である。

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2022年03月31日

Posted by ブクログ

人が生まれたり、死んだりすることは、かつてコントロールできるものではなかった。

しかしながら、現代では、生まれることも、死ぬことも、技術の進歩によってできるようになる時代となった。だが、新たなる問題として、誰を生かすべきかという優先順位の問題がでてきた。

誰もが平等であり、生きることの優先順位があってはならない。これは正しいことだ。だが、命を救うためのICUや透析機などの機械は限られている。そうした環境下では、優先順位の問題は避けられないのだ。

確かに、この問題を考えるべきは、専門職である医者であり、私たちが考えるには、知らないことだらけだ。
そうして考えたところで、当たり障りのない意見や、筋違いな結論が出てしまうかもしれない。

そういった意味で、ではどのような考え方があるかの手がかりがこの本には収められている。

この本の良いところは、各章の表題が、非常に身近な問題である点にあると思う。例えば、第二章「あなたは、パンデミックの状況では患者に優先順位をつけてもやむをえないと思いますか?」などだ。

この章では、トリアージの問題が取り上げられている。

コロナ禍で、トリアージと言う言葉はかなり浸透してきてはいるがそれでもまだ知らない事は多い。

そこでトリアージとは何かと言う説明からはじまり、トリアージをすることで、患者の優先順位が決まるのはある程度仕方がない、とするのではなく、『一定の基準で命を選別しようとする事は…否定されるべき差別である』(P59)と述べる著者の言葉は、重い。

考えるためのヒントが散りばめられているため、ではどうするべきかの答えが書いていないのは、不十分と捉えられるかもしれないが、私のように、結論に飛びつくような人間にとっては、何が問題点かを洗い出し、そこから自分で考えましょう、とするこの本は、素晴らしいと感じた。

「よりよい解決案」は、状況で大きく変わることがある。問題点と選択肢を増やすという意味でこの本は、自分にとって良いものとなった。

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2021年07月14日

Posted by ブクログ

臓器移植や遺伝子操作等、ゾッとしたというのが正直なところ。
生物は長い年月の中で生きているのに、天文学的な技術の進歩(?)についていけるものなのだろうか?
自分のモヤモヤ感を大事にしながらも、色んな立場の多様なモノの見方があることを忘れずに、他人事にせずに考えたい。

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2022年12月06日

Posted by ブクログ

医療技術の発展によって、希望は増えたが叶えられない眼前の希望を前にした長きも増大させ、「仕方ない」がない社会になっている

この言葉は重い

循環器内科医として医療の最前線にいるけれども、命を諦めざるを得ない時は科学技術よりもその人や家族の考え方のほうが遥かに大事だ。しかし一方で人の生まれる時や死ぬ時には、科学技術の進化によって今まで人間が生物として培ってきた生き方を超越してしまう方に流れることは抗えなくなっている。

自分はどう考えればいいのだろうか。悩みは尽きない。

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2021年11月29日

Posted by ブクログ

どこからが生で、どこからが死か。なんとなく、オギャーと生まれた時が生、心臓が止まった時が死と考えていたが、国民性や宗教やさまざまな理由でさまざまな見解があることを学べたことは大きかった。ただ、データや事実など丁寧に著しているぶん、とっつきにくい文で、後半になるにつれて読むことが辛くなっていった。

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2021年06月16日

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