あらすじ
東日本に大津波が押し寄せたあの日、濁流は福島第1原子力発電所をも飲み込んだ。全電源を喪失し制御不能となった原発。万策尽きた吉田昌郎所長は、一人一人の顔を眺めながら共に死ぬ人間を選んだ――。遺書を書き、家族に電話をかけ、嗚咽する人。現場に背を向けた人……。極限で彼らは何を思い、どう行動したか。絶望と死地を前にして揺れ動く人間を詳細に描いた、迫真のドキュメント。(解説・池上彰)
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東日本大震災による福島第一原発事故の詳細な記録である。465ページあるが、ヒューマンドラマ風に描かれており、読み進めやすかった。思わず涙してしまうこともあった。
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門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」よりもこちらの方が読みやすかった。あちらに書かれていない内容もあった。併読するとより事故に対応していた人たちについての理解が深まるような気がする。現場の状況が把握理解できていない本社や官邸。ぎりぎりの状況で現場は対応していた。安全神話など無いということも改めて実感した。航空業界のように細かいヒューマンエラーや事故から多くのことを学び、少しでも安全の確立を上げて欲しいものです。わずかな隠蔽やごまかしは許せません。最悪の事態を想定するのも重要だと感じた。
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まずもって、フェアな本。
この話題について、イデオロギーや結論ありきでなく理解しなおしたい人にとっての必読書。
海外の良質なノンフィクションを読みなれている人の中には、時系列でやみくもに進む描写に「なにがなんだか」感を覚える人もいるだろう。
ほら、外国人ライターって「現場の混乱を離れて、まずはリアクターというものを理解しておこう」みたいな筋の立て方が上手じゃないですか。本書はそういう感じじゃない。
だが、いやだからこそ、ああこの混乱がまさに現場で起きていたことなんだ、振り返ればわかる全体像なんてものは当時は誰も持っていなかったんだということがストレートに伝わってくる。
「いいわね、必ず生きて帰ってらっしゃい」。若手職員が避難所の母親に電話したときの言葉が胸に迫りくる。
あのとき、同じ会社の中で逃げ回った人と立ち向かった人がいた。それは日ごろからの人格の差ともいえるし、たまたまそこにいた「めぐり合わせ」ともいえる。
誰もが「もしそこに自分がいたら」を内省せずにはいられない本。
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まずあとがきの池上さんの全ての世代の人間がその時どうしていたかを話し合える話題となることになるほどと感心してしまう。
原発で何があったのかは実はよく知らない。
何か大変なことがあったけど、ギリギリでなんとかなったんでしょ。
たくさんの現場の方々が犠牲になったんでしょ。
所長さんもこの事件が原因で亡くなったんでしょ。
などなどが自分の認識であったのでいい機会だからちゃんと知ろうと思い読み始めた。
結果、読み物として本当に面白い。
何よりも感じるのが著者がとてもフラットな立場で物語を進めてくれるので一定の人々や団体に対しても偏りがないこと。これはとても好感が持てた。(若干政府に対しては皮肉も入るが…)
そうすると実際に起こったことがとてもフラットに分かりやすく見えてくる。
実際にありえない様なことが現実で起こりそれに逃げずに立ち向かっていった関係者の方々やご家族の方々にはとても敬意を感じる。
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日本史に負の名を残すだろう、東日本が死の国になるかも知れない未曾有の危機に対応した東電福島原発の証言ドキュメンタリー。
自衛隊、警察、消防の活躍した記事や作品は読む機会はあったが、地元で育ち、懸命に守ろうとした東電原発の社員達の苦闘というのは、初めて読んだ。
死を覚悟し、責任感を奮い立たせ職務を全うする人、恐怖で職務を放棄する人など、偏りがない証言を記載され、一気読みであった。
吉田所長の遺言や、施設内で罹災した同僚の捜索には、涙なしには読めない。
打つ手がない逆境に向かう人たちのノンフィクションは、読む人を選ばないはずだと確信する。
現場と中枢の壁、現場を乱す当時の首相の姿は、危機のリーダーシップや危機管理のあり方を問う作品でもある。
あとがきの池上彰というのも、本当にお買い得でもある。
この作品が本屋から無くなったら、日本人は同じような誤りを繰り返し、瞬間的ブラック企業被害社員であった、東電の現場社員達のような犠牲者を出してしまうだろう。
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福島第一原発の事故については多くの本が出版されていますが、本書は現場に居合わせた現場作業員の方の証言をメインに集めて事態の推移を描いた本です。
東日本全域が人の住めなくなる状況となるような最悪の事態を避けられたのは事故発生からの数日間に現場の方々の文字通り自らの命を顧みない作業のおかげであったことを改めて知ることができます。
しかしその現場がいかに過酷であったのかが読み取れるのは、本書に登場する多くの作業員の方が現場で感じた命の危険や恐怖を正直に語っておられる証言です。以下に抜粋します。
「怖かったです。でも原子炉建屋に入るってことは半端じゃない被ばくをするってことです。死ぬかもしれない。やっぱり行きたくなかったですよ。家族のことが頭をよぎりました(原子炉建屋に入る作業員を募る際に挙手できなかった時の心境)」、「完全に戦意喪失でした。『死を覚悟した』なんて言うけど、俺は死ぬって覚悟もないまま実際に死にかけた。あと10秒早く車に乗っていたら車ごと潰されていた。目の前に『死』があった(3号機建屋の水素爆発の際、飛散したコンクリートの塊で作業車両が破壊された作業員)」
他にも生々しい証言が多数収められています。忘れてはならないのは2名の方が地震直後の点検作業中に津波によって原発内でお亡くなりになっている事です。
技術的な説明は極力抑えて、多くの人の証言から事態の推移を描いているので非常に読みやすく、何よりあの時に現場がどのような状況であったのか、その過酷さの一端が伝わってくるノンフィクションでした。
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共同通信社原発事故取材班 高橋秀樹『全電源喪失の記憶: 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』新潮文庫。
あの大事故から早くも7年が経過し、あの時の危機感を喪いつつあるが、廃炉の方法やゴールが見えない以上、事故は未だに継続中なのだ。そんな中、加筆改題の上、文庫化された迫真のドキュメンタリー。原発事故を描いたドキュメンタリーは何冊か読んだが、その中でも非常に解りやすい作品である。
詳細に描かれる事故の記録を読めば、吉田昌郎所長を始めとする原発職員、協力会社の社員、自衛隊や消防の面々が命を賭けて事故と闘ったのに対し、東電の本店と政府が愚かな行動でどれ程彼らの足を引っ張ったかが理解出来る。
巻末の池上彰の解説にも書かれていた、2013年に安倍晋三が東京オリンピックを誘致したいがために世界に向けて発言した「アンダーコントロール」の大嘘は記憶に新しい。東京に供給する電力を作るために福島に建設した原発でチェルノブイリに匹敵する程の大事故を起こし、未だ収束出来ない状況なのに、東京でオリンピックというお祭りをやろうとする感覚が解らない。
Posted by ブクログ
ほぼ一次資料といってよい証言記録。現場で対応に当たった人々のことが描かれている。
現場の人々は、覚悟の有無にかかわらず事態への対応に臨んでいて、英雄的と言うしかない。
だからこそ、戦略の誤りは戦術・作戦ではカバーできないということが痛感させられる。