あらすじ
家庭や生活のいとおしさ。生活を愛し慈しみ、多くの人の心をつかんだ庄野文学の「家庭小説」の始まりであり、のちに名作『夕べの雲』に発展していく魅力の長篇小説――『ザボンの花』から庄野潤三独特の家庭小説が始まる。これは、著者にとって最初の長篇小説であり、麦畑の中の矢牧家は、彼がまさに創りつつある、新しい家庭であり、生活を愛し育んでいく本質と主張を、完成度の高い文学作品にしあげている。一生のうち、書くべき一番いい時に書かれ、やがて『静物』『夕べの雲』へ続く作品群の起点でもある。
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Posted by ブクログ
郊外に越してきた、父、母、三人の子どもたち。
彼らの平凡な暮らしが、彩り豊かに描かれる。
雲雀を追いかけて、えびがにで大騒ぎして、ゴムだんで遊んで、はちみつをつまみ食いして、アフリカに思いを馳せて、花火して…。
何気ない日常が、これほど愛おしいものとは。
騒がしく、楽しく、すこしとぼけて、愛らしくて、ほんの少し寂しさを感じて。
ずっと彼らの暮らしを見ていたくなる。
Posted by ブクログ
1955年に『日本経済新聞』に連載された長編家族小説。つまみ食い、子どもの留守番、ヤドカリ飼育など、日常的な話題でここまで展開する点に、庄野潤三らしさが表れている。同じく新聞連載で著名な『夕べの雲』と比べると、まだ試行錯誤といった部分も感じた。
Posted by ブクログ
昭和30年頃に、大阪から東京の田舎に引っ越してきた矢牧家5人の物語。巻末の解説には平凡な家族の生活の底に渦巻く「不安」や「危機」といった難しいことが記されている。しかしそれらは重要なことではないのではないだろか。昔よりも今の方が民主的で平等でいい世の中になっていると思う。でも抑圧され閉塞された当時の時代の中で、貧しいがゆえに豊かで伸び伸びした人々の心が、時代を超えて伝わってくる。それが大事だと思う。