【感想・ネタバレ】刻のレビュー

あらすじ

二つの国と二つの言語。夭逝した芥川賞作家の内面の葛藤を描く長篇小説――若くして亡くなった、在日韓国人女性作家。日本で生まれ育ち、韓国人の血にわだかまりつつも、日本人化している自分へのいらだちとコンプレックス。母国に留学し直面した、その国の理想と現実への想い。芥川賞作家の女の「生理」の時間の過程を熱く語る長篇と、「私にとっての母国と日本」という1990年にソウルで、元原稿は直接韓国語で書かれた講演を収録。
◎アイデンティティを追求した李良枝の私小説は、「目に見えない」心のミステリーを解明しようとした鮮烈なテキストなのである。日本から、見知らぬ「母国」へやってきた「刻」の主人公は、だから、母語ではない母国語の文字の前で落ち着きを失う。その「私」の1日においては、だから、一刻一刻、親近感と距離感の間で心のゆらぎを覚えて、最終的には選ぶことができないのだろう。<リービ英雄「解説」より>

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

多分に私小説。ソウルで語学や踊りを習いながら暮らす日々の閉塞感……というか何とかしたいけど何ともならない気持ちが描かれる。全体に灰色がかったような世界。読んでいても苦しい。
この灰色がかったもどかしさは「在日」特有のものなのだろうか。母国と慣れ親しんだ暮らしがある国とが違い、さらにどちらの国の人間という意識もいまいちもてず「在日」というところに拠点をおこうとしながらも、その立場の弱さに煩悶するというような。
李恢成といい、この李良枝といい、少し下って鷺沢萠といい、根底にあるもどかしさは共通しているような気がする。彼・彼女らはなぜこうも煩悶するのだろうかと、その立場にない自分としては思う部分もある。
現代の在日作家で私が思い浮かぶのは深沢潮かな。『緑と赤』は少しもどかしさを描いている気がするけど、あれは私小説の路線とは違うだろうし、どこか「負(というのは語弊もあるだろうけど)の遺産」的に扱っていた「在日」というものが変わりつつもあるのだろうか。

0
2022年10月30日

「小説」ランキング