あらすじ
新鮮清澄、才気迸る源流の光景。初期の代表作7篇収録――進駐軍の接収ホテルで働く19歳の波子の眼をとおし、敗戦直後の日本人従業員と米国軍人らとの平穏な日常が淡々と描かれた、吉行淳之介の「驟雨」と芥川賞を競い、清澄で新鮮な作風と高く評価された出世作「遠来の客たち」をはじめ、「鸚哥とクリスマス」「海の御墓」「身欠きにしん」「蒼ざめた日曜日」「冬の油虫」、表題作「雪あかり」を収録。才気溢れ、知的で軽妙な文体の、初期の作品7篇を精選。
◎「ここに集められた作品はすべて、壁の手前の若書きの作品である。この頃以来半世紀間、私は書き続けて来た。平均して一年間に二千枚、それより多い年も少ない年もあるけれど、多分トータルで十万枚は書いたように思う。十万枚、絵でも書でも書けば、どんな凡人でも一つの世界は作るだろう。源流の光景を見て頂くのは、申しわけないが、光栄である。」<「著者から読者へ」より>
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Posted by ブクログ
「鸚哥とクリスマス」
善人でございといった顔をして
敗戦後の日本をのうのうと生き延びている人々
ラジカルで感じやすい若者たちに言わせれば
それはよほどの悪党か
鈍感な馬鹿ですと自己紹介してるようなものだった
そんなアプレゲールの時代に
そういう許婚を持ったことが耐えられない
しかも相手が本当の善人であるだけに、なかなかそれを言い出せず
婚約の解消も延ばし延ばしになっていた
そういうお嬢さんの話である
「遠来の客たち」
箱根のホテルで、米軍関係者を案内する仕事に携わっており
英語が上手いので重宝がられているお嬢さん
彼女は、性格の優しい軍医に好意を持っていたが
粗暴で理不尽なところもある隊長に、何も言えない彼の気弱さを見て
おおいに幻滅する
「海の御墓」
戦前、国際法の学者として日本の外務省に招聘されたが
日本の自由に肩入れしすぎたため
自国籍を剥奪されてしまった英国人の話
アメリカを毛嫌いし
そのために妹の寿命を縮めた後悔はあれど
晩年は理解者に囲まれる
ラストシーンは一見虚無的ながら
ヒューマニズムに裏打ちされた手触りがある
「雪あかり」
婚期を逃した女と男が
なんとなくつきあい続けているのだが
互いに結婚するつもりなんかまるでないという話
なんでそんなことになってしまっているのか
この作品では、母の古い価値観と、現代社会とのあいだで板挟みになり
疲弊して無気力へと陥った男の様子を窺わせている
「身欠きにしん」
自分はぜんぜん大したことのない人間だという
自虐的自己認識を得ていたおかげで
見た目はアレな上に面白味もなく
堅実な性格だけが取り柄の男と結婚してしまい
それでいつしか気づいたら
郷土の偉人を支える妻ということになってしまっていたのです
「蒼ざめた日曜日」
世にありふれたフェイク(偽物)をめぐる四つの物語
偽金づくり
社会にあわせて自分を偽る女
義眼の少年
落ち目の劇作家、など
人々は真実に憧れ、怯え、あざ笑い、また嫉妬する
「冬の油虫」
夫との精神的なすれ違いに妻は不満を持っている
しかし夫はそのことにまるで気づいていない
という話