あらすじ
終わりなき災厄に見舞われたとき、人はそれにどう向き合うのか? 治療法のない疫病に突如襲われ、封鎖されたアルジェリアの都市オラン。そこに生きるひとびとの苦闘と連帯を描いた、ノーベル賞作家カミュの代表作『ペスト』の内容と文学的意義を、幅広い分野にわたる評論とフランス文学の翻訳で知られる中条省平氏が、当時の時代背景やカミュ自身の体験をまじえて詳述。カミュの高い先見性に触れながら、『ペスト』に描かれる普遍的で哲学的なテーマを、「コロナ後の世界」から検証・再考する「ブックス特別章」を収載!
【構成】
はじめに:海と太陽、不条理と犯行の文学
第1章:不条理の哲学
第2章:神なき世界で生きる
第3章:それぞれの闘い
第4章:われ反抗す、ゆえにわれら在り
ブックス特別章:コロナ後の世界と『ペスト』
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
カミュの「ペスト」を自分だけで読んでいたときには読み取れてなかった背景やメッセージが浮き彫りになる。100分de名著シリーズはほんとにいいですね、勉強になりました。
Posted by ブクログ
コロナ禍において、予見的な書であるカミュの「ペスト」が世界中でベストセラーのリストに入り、日本でも新潮文庫版の「ペスト」が累計で百万部を突破したというニュースが新聞などで報道された。
そこから何か、災厄を乗りきるヒントを求めたという事で、恐らく私もその当時の積読だったと思うが、これは読まねばと思いながら、愛すべき積読たちは、気分による割り込みもあり、結果今の読書である。そしてどうしたものか、そこでスタンバイしていたのはペストの小説ではなく解説本である本書だった。
しかし、故にカミュについて調べる手間も省け、ペストの外形が分かったのである。小説を楽しむ読書ではないが、最早コロナ禍でもないしと、一人言い訳しつつ、納得しつつ。
ー ルネサンスの人間主義は、キリスト教の神による支配とカトリック的な世界観に対する一種の反抗でした。ところがその後、近代的合理主義の世界が確立して人間が大きな顔をするようになり、人間の価値観こそがすべてだという考えが一般化してしまいました。それがカミュのいう、現代における「人間中心主義」なのです。
ー 哲学者の内田氏は「ためらいの倫理学」というカミュを論じた鋭い文章のなかで、人間が、国家や社会という立場から異論の余地のない正義を引きあいに出して死刑に賛成したり、全体的な真理や未来の幸福をめざして革命のための殺人や戦争やテロをおこなったりすることに「ためらい」
を感じる倫理的感性こそ、カミュの精神の本質的な特徴だと見ています。そして、自分が善であることを疑わず、自分の外側に悪の存在を想定して、その悪と闘うことが自分の存在を正当化すると考えるような思考のパターンが「ペスト」なのだ、ときわめて示唆的な読解を提示しています。
内田樹の話だ。私もこの「ためらい」の本質性、恐らくは善悪二元論に異を唱える、我が身にも潜む悪、敵にも潜む善に対しての微かな共鳴に、人間の本質があると考え、非常に共感した。カミュの考える実存や不条理に興味が湧く。さすがはカミュ、ではなく、内田樹であった。