【感想・ネタバレ】医療の外れでのレビュー

あらすじ

「病院の世話になるくらいなら死んだほうがまし」
そう言った彼に、わたしはどう答えたらよいのか?
若手看護師が描く、医療と社会の現実。

生活保護受給者、性風俗産業の従事者、セクシュアルマイノリティ、性暴力被害者などが、医療者からの心無い対応で傷ついたり、それがきっかけで医療を受ける機会を逸している現実がある。医療に携わる人間は、こうした社会や医療から排除されやすい人々と対峙するとき、どのようなケア的態度でのぞむべきなのか。看護師として働き、医療者と患者の間に生まれる齟齬を日々実感してきた著者が紡いだ、両者の分断を乗り越えるための物語。誰一人として医療から外さないために。

「白黒単純に塗り潰すのではなく、鮮明な解像度で描写する。
そうでしか伝えられない景色を、この本は示してくれた」
──帯文・荻上チキ

「社会から排除されやすい人々と医療従事者の間には、単なる快不快の問題でもなければ、一部の医療従事者にだけ差別心があるといった類の話でもない、もっと根深く、致命的なすれ違いがあるように思います。マイノリティや被差別的な属性の当事者が積み重ねてきた背景と、医療従事者が積み重ねてきた背景は、社会の中で生きているという意味では地続きのはずなのに、しかしどこかで分断されているような気がする。各々の生きる背景を繋げる言葉が必要だと感じ、書き始めたのが本書です」(「はじめに」より)

【目次】
1章 浩はどうして死んだのか──セクシュアルマイノリティの患者さん
2章 医療が果歩を無視できない理由──性風俗産業で働く患者さん
3章 殴られた私も、殴った山本さんも痛いのです──暴力を振るう患者さん
4章 千春の愛情は不器用で脆くて儚くて──自分の子どもを愛せない患者さん
5章 「看護師が母を殺した」と信じたい、高野さんの息子──医療不信の患者さん
6章 私は生活保護を受けようと思っていました──生活保護の患者さん
7章 飲みすぎてしまう葉子、食べられない私──依存症の患者さん
8章 性暴力被害を受けて、裁判を起こした──性暴力被害者の患者さん
9章 医療が差別に晒される時──医療現場で働く患者さん
終章 医療から誰も外さないために

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

看護師として働く中で、葛藤を抱えながら紡がれる言葉が胸に刺さる。

6章では、目の前の人の命に生産性で優劣をつけていた自分の浅はかさを前に立ち尽くし、引き受けたネガティブな感情を、『属性』に帰結させないようにしようと背筋を伸ばし続ける姿が印象的だった。
過去の自分の傲慢さを思い出し、心に留め置いておかなければならないと感じた。

9章では、「頑張っているから差別しないでほしい」という主張が、裏を返せば「頑張っていない人は差別されても仕方がない」という論理になり得る。
その視点にハッとさせられた。
自分の主観で他者をジャッジしていることに、無自覚だったのかもしれない。

働く上で、組織やチームに信頼関係があり、率直に話ができることや、感情を殺されずにケアされることは、とても大事だと感じた。

あらためて、患者と近い距離で働く看護師という存在に、深い敬意を抱いた。

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2025年12月06日

Posted by ブクログ

同じ医療関係者として、分かると思えるところと、反省しなくてはと思うところ、いろいろ思うところがあって、複雑だった。

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2024年07月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

きっと筆者の評価しない姿勢が、これだけの言葉を彼女に託したんだろうなぁと思った。

たぶんセクシャルマイノリティー、シングルマザー、水商売、生活保護、精神疾患など
関わることがなければ他人事のように感じてしまう自分の周囲にあるものを身近に捉えてそれを文章に認めたことに感謝を覚えた。

自分のことを語るにも勇気がいる。
とても芯がある人だと思った。

別の著書も読んでみたいと思った。


著作の中で医療従事者の自分も心に留めておこうと再認識した箇所

***
友人の医師は、生活保護受給者への医療従事者の目線に関して、「生活保護の受給者のごく一部に、どうしようもない性格で社会不適応であるがゆえに働くこともできず、病院に来てはクレーマーのような態度を繰り返す、こちらのモチベーションを根こそぎ奪っていく人がいて、少数だが複数いる上に同じような経過を辿っていく。医療従事者は超精鋭とでもいうべきそういった特殊な生活保護受給者の相手ばかりしているうちに、生活保護受給者全体に対する偏見が形成され、生活保護叩きに至る」と話します。その上で、「医師や看護師は彼ら彼女らを受け入れ治療することを強いられる。彼ら彼女らをつまはじきにしてきた社会からそれを要請される。生活保護の知識がなければ、生活保護受給者とはあまねく性格のゆがんだつまはじき者だというイメージが植え付けられかねない」と語っていました。

***

自分も病院でその偏見を耳にしていたし、その偏見を信じていた時があった。けど、生活保護について知るうちに「生活保護」で括ることに違和感を覚えるようになった。今の自分なら同じようなことを後輩に言う気がする。

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2023年10月18日

Posted by ブクログ

医療従事者が治療の枠の中から人々を見続けていることによって無意識の差別的意識をもつことを、各章で散々思い知らされる。しかし、医療従事者が差別される立場に置かれた感染パニックを経て、条件付きの差別の禁止をうたうことも誤りだったと筆者が自覚する。
看護師のフィールドは、苦しみと傷つけ合いの連続だけど、それでも迷いながら、誤魔化さずにやっていけたら……、と結ぶ(ように思う)。

明晰な文体、豊かな感性、凄い。木村さんの視点からみえる、繊細な気づきと緻密な整備を覗かせてもらうことができて、良かった。赤裸々な人生告白も読み物としては興味深い。

ただ、誰も傷つけたくないという配慮がやや過剰な感じを受ける。主張の内容を批判されることは悪いことではないし、全く誰も傷付つけないのは不可能だろう。
「自身の配慮のなさ」「自身の愚かさ」に気がついて愕然とする場面が多々あるが、そんなに瞬時に抵抗なく自身がいかにダメかについて気がつけるものなのか。
後から恥ずかしくなる経験、ようやく何が問題だったのか理解できることなどはたくさんある。その時々で適切に感じ取り完璧に対応することは不可能なのだから、もう少し、楽に構えてみたら?と著者のメンタルが心配にもなった。

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2022年02月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

私は文章を書くのが苦手で、うまく伝えられないのですが、読んでよかったと思う本です。
なんなら、よく書いてくださいましたというような感じで、今看護師さんも大変ななかで、この木村にしか書けないであろうという内容でした。今、書いてくださったことが、多くの人に届いたり、理解したり、知ってもらえたらいいなと思いました。
また、まさかの著者の木村さんは私と同い年で、のうのうと生活している私にとって、私も広い世界を見ていかなければならないような気になりました。

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2021年07月15日

Posted by ブクログ

もっとも差別から遠くあってほしい医療現場だけれど。「けれど」の行間にあるさまざまなマイノリティの声、医療現場の葛藤、そのどちらも見つめながら丁寧に思考していく文章に惹かれます。こういう人でありたいなと思わせる著者の魅力も。

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2021年06月14日

Posted by ブクログ

“どんな状況でも存在する不変の愛情は美しいけれど、親子だろうが家族だろうが「愛情があって当然」なんて、きっと思わないほうがいい。環境次第で愛情は失われ、愛情の残骸は暴力になります。”(p.96)


“「危険で過酷な状況で頑張っているから差別しないで」は、反転すれば「頑張っていない人は差別されても仕方ない」という主張と同義になります。それは、自分からみて頑張っているように見えるかそうでないかで他者の価値をジャッジする行為であり、客観的に見て生産性の低い他者であれば差別しても良い、尊厳を奪っても良い、という認識に繋がります。”(p.203)

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2021年06月06日

Posted by ブクログ

ナースは最強の職業だと思っていた自分が恥ずかしくなった。
知らないっていうのはホントにダメダメだ。
いろいろなことを気づかせてくれるすばらしい本だ。

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2021年06月01日

Posted by ブクログ

『医療の外れで 看護師の私が考えたマイノリティと差別のこと』木村映里

こんなにすーっと心に入ってくる文章、久しぶりに読んだ。物事をここまで自省的に、かつ鮮明に描けるのはすごいことだな。絶望するほど重いテーマなのに、前向きな願いに満ちている。


noteやtwitterで色々と発信されている、現役看護師木村映里さんの初書籍。

社会から排除されやすい人々と、医療との距離について。
「セクシュアルマイノリティ」「性風俗」「院内暴力」「子どもを愛せない」「医療不信」「依存症」「性暴力」「医療従事者」の9つのテーマで、貧困や差別に対して医療従事者がどう向き合うべきか論じられている。
筆者本人が当事者であったり、当事者とかなり近い位置での観察者である様々なケース。
単なるナラティブとして現状を嘆くだけではなく、フラットで曇りない分析がなされている。そのうえで、医療従事者だけでなく、私達全員がどうあるべきか、まっすぐに問いかけてくる。

6章、生活保護のお話が一番心に残った。
「なんとなく努力しない人たちのような気がする」記号として、分かりやすい侮蔑の対象となっている人達。自分にもたらされる快・不快をその人の属性に帰結させてはならない。生活保護に限らず、人間に付随する属性や記号の扱いはいつだって難しい。


木村映里さんの人柄が文章の端々からあふれでているように感じる。『「もうだめかもしれない」と思う度に日常の岸に引き戻してくれた大切な人達』が、誰にとっても存在するものであってほしい。愛に溢れた願い。

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2021年02月03日

Posted by ブクログ

これだけ真摯に、これだけ複雑なのに単純化されやすい問題に向き合った著者の温かさと勇敢さに圧倒された

とにかく、自分が思わぬところで無自覚に暴力性を発揮していることは、どれだけ意識しても意識しすぎることはないことだと強く感じた。
特に、医療職に就く以上、その暴力性には特に自覚的でなければならない。その暴力性が導く医療不信が、その命までもを脅かすことになるから。
とにかく命に真摯に向き合う姿勢こそが、あらゆる差別を乗り越える上で肝要だというありきたりな真実の重大性に改めて思いを馳せる。

全ての医療関係者が読むべきだ

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2020年11月06日

Posted by ブクログ

第三者的に医療者のナラティブな話というよりも、医療者が自ら介入してマイノリティや差別を考える話。

著者独自の気持ちや考えがハッキリしており、なるほどと思えたことが多い。

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2024年04月04日

Posted by ブクログ

4章とそのあとがき、ご友人の母子のことと著者ご自身のお母様との関係のことが綴られているところが一番印象的でした。ご自身とお母様との歴史や現在のこと、とてもリアリティがありました。こういう話題のとき、以前は娘側の視点に感情移入することが多かったのですが、今回はなんだかお母様にとても親近感を覚え、わたしもそんな年齢なのかなぁと感じました。

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2022年12月16日

Posted by ブクログ

自分以外のいろんな人の事情を理解することは難しい
でも、そういう人がいるってことを知ってる、聞いたことがあるだけで、少し選ぶ言葉とか行動が変わったりすると思う
医療の話だけど医療以上の内容を書いている本だった

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2022年08月23日

Posted by ブクログ

医療従事者の立場でみる、無意識に陥っている差別のこと。日常によくよく目を凝らすと全然この人たちいるよねという他者にせず、もっともっと当たり前に今日、明日、自分に何が起きるかわからないのが日常だからこそ、きちんと考えていかなきゃいけない私たちのこと。

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2021年07月10日

Posted by ブクログ

看護師として、一人の生活者として、誰かの友人として、数々の体験をされている、そしてこんな風になって欲しい、こうしていきたい、と希望を持った展開を考えている。文句や苦言や諦観ではなくて、未来への希望があると感じた。この本にもたくさんの部分に付箋を貼って、フレーズにも入力した。私も少しでも応えていけたらと思う。

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2021年02月20日

Posted by ブクログ

これから看護師になろうとしている人に読んで欲しいです。病棟でこんなことが起きるのか…とビックリしながら読んだし、色々なところでの「差別」の問題が取り上げられていて、かなり読みごたえのある本でした。

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2021年02月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

壮絶なバックグラウンドのある著者の、すごく説得力のある数々のエピソード。医療の真実のレポートだった。
コロナに関する、医療従事者への差別の章が一番印象的でした。「医療従事者はこんなに頑張っているのだから差別してはいけない」は根本的に間違い。頑張っている、生産性がある、だから差別しない、というと、そうじゃないと判断された人たち(生活保護受給者、セクシャルマイノリティなど)への差別を後押しすることになってしまう。
「差別はいけないから、差別しない」それでいい。

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2020年12月18日

Posted by ブクログ

筆者自身が体験したことを綴っている。
看護師であり、歪んだ家族関係から、認められたい気持ちが拒食症を発症。やがては仕事で鬱という経過がある。
読んでいるとなぜそんなにと感じでしまう自分は、少しでもこれらで苦しんでいる当事者の言葉を読み、どういう状況で思考で、そのようは経過を歩むことになったのかを知ろうとしているんだと気づいた。
でもやはり、どこかで、遠い世界のような感覚もある。

この本の中で、身近に感じた文章がある。『あまりの多忙さと、看護師の上下関係の厳しさに呆然としました。疾患の治療を最大の目的とした病棟で最優先すべきは、適切な処置と循環動態の観察、そして患者さんのその瞬間ごとの身体の安全の確保で、患者さんの背景や家族の背景といった、目に見えず、データにも表れない事象について考える時間も、気持ちのゆとりもありませんでした。「間違えたら、見逃したら死ぬ」人を同時に何人も看るプレッシャーに加え、患者さんの髭や爪を気にするだけで......
徐々に目の前の人が自分と同じように心を持つ人間だと思えなくなっていきました』という文章を読んだ時、涙が自然に溢れてきてしまいました。

自分にもそんな瞬間があったなぁと振り返ることができました。

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2021年07月11日

Posted by ブクログ

看護師である筆者が実際に体験した事とその体験に対して考えた事。筆者自身が様々なマイノリティ(LGBT、貧困、依存、などなど)と接し、筆者自身がそれらとの境界を生き、医療職としての自分と当事者としての自分の葛藤が書かれている。非常に生々しい体験がいくつも綴られているのだが、分析的で冷静な文章のおかげで読み進めることができる。

私自身は業界のほんの片隅で、このようなことを内側の人間として経験することはないだろう。しかし患者として医療と接する可能性は常にある。筆者が感じたようなこと、医療者がどのようなことを考えて業務に取り組んでいるのか、ということは参考になる。

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2021年04月12日

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