あらすじ
太平洋戦争勃発前夜、民間人・浜本は、マレーの英雄「虎」ハリマオを探し出すために、日本を後にした。その目的は何か……? 日独英のスパイが暗躍し、インドとマレーの独立運動が芽生え始めた激動の東南アジアを舞台に、人種を越えて生命を賭けて闘った男たちの運命は? アジアの独立に生命を賭けた男たちのロマンと波乱万丈の生涯を描く、雄渾の長編冒険小説、いま甦える!
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Posted by ブクログ
日本軍スパイとしての暗躍する男と、日本人でありながらマレー人として生き、マレー独立のために命を燃やす男の、ハードボイルドな冒険譚。
夢や目標に向かって直向きに生きる姿は純粋で、儚く散っていく姿は美しい。
実話がベースとなっており、日本軍スパイの浜本は神本利男、マレー人として生きる虎は谷豊がモデルである。
出来事ベースで物語が展開し、読み進めやすかった。
浜本は立場としては軍の人間であり、マレー独立という名目の元東南アジア統治を目指す軍に従い"仕事"をこなす一方、多くの要人と接する中で日本軍の野望は叶わないであろうことを知る。また、自らの夢を「チベットの素朴な人々とともに一生を暮らすこと」と語り、内地に残る想い人と子供をもつことを思い描きつつも、スパイである自分はろくな死に方はしないだろうと覚悟している。このことから、浜本は計り知れない虚無感に襲われつつも、ただ目の前の使命のために自らを鼓舞し続ける孤独な男である。
マレーの虎(ハリマオ)こと羽仁豊もまた、虚無感に襲われている孤独な男の1人である。虎は自らをマレー人だと称するが周囲からは日本人と扱われる場面が多くある。それはまるで、自分はマレー人なのだと言い聞かせているようにも見える。マレー人と同じ生活をし、マレー人を理解しマレー人から理解されたとしても、人はやはり見た目や生まれで最初に人を判断する。これがどれほど虚しいことか、虎はその虚しさを何度も乗り越えているのだと想像ができる。
解説を読むとよくわかるが、弱い立場・極限の状況でしか得られない関係、それを味わった者にしか分からない価値観がある。
人は弱い。だからこそ助け合わねばならない。それを知らない人は孤独である。相手を理解し尊重し、どんな時も義理と人情を忘れないこと、それがいつか自分の助けとなる。
そんなことを、教えられた一冊である。