あらすじ
■世界の注目を集めた中国プラットフォーマーのビジネスモデルには限界が見えてきた。アリババもテンセントも、これまでの手法では先がない。ネット展開はすでに飽和。中国のプラットフォーマーたちはリアルとの融合に戦略転換し始めた。
■消費者の安全性、信頼性への要求が高まり、競争の焦点が消費者接点から、商品やサービスそのものへとシフトしつつある。その中で、主要なプレーヤーのBAT(百度、アリババ、テンセント)に加え、TMD(バイトダンス、美団点評、滴々出行)が新たな主役として登場してきている。
■この変化は、リアルに強い日本企業にとっても有利になる時代がやってくることを意味する。第二幕に入った中国デジタル革命の実態を、「コロナ後」の展望も含め、中国ITビジネス・経営に精通する専門家が詳細に解説する。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
BATだけでなくバイトダンス、美団などTMDのビジネスモデル含めて中国のテクノロジー企業が今後行き着く方向までを考察した良著。日本企業にとって示唆に富む内容が多い。
Posted by ブクログ
NTTデータの中国現地法人でトップを務めた経験のある筆者による、中国デジタル革命の解説本。
プラットフォーマーのビジネスモデル分析から長い駐在経験を活かした政策・文化面の分析などはかなり深くまで行われていたが、肝心の日本に向けた提言が普通かつ教科書的で特に印象に残らなかったのがもったいなかった。
一方で「産業インターネット」「伝統的産業の再構築」「ネットとリアルの融合」といった中国の最新トレンドは網羅的に理解することができ、日本にも訪れるであろう今後の潮流を落とし込めた。☆3.5くらいの感じ。
【感想】
・DXをDXという包括的な言葉で片付けてしまう傾向にあるが、これは危険。「次に何が起こるから自社の業界はどうDXするべきか」までをしっかり考えたいと感じた。
・伝統的企業との共存という話も多く出てきたが、大企業はPFの技術で自社の産業をどうUDしてもらいたいか?という点を考えるとよいのでは。PFにつぶされないために自前でどう立ち向かうか?みたいなことばかり考えている印象がある。
・toBのエンパワーメントという流れ。技術力の高い企業が、企業のUXに合わせてSaaSを提供する流れがもう一般的になりつつある。ただしtoBのニーズはtoCほど一般化できないので、ここに提携の可能性があるのかもしれない。
【メモ】
・プラットフォームビジネスにおいては「困りごと解決」の流れがひと段落し、「企業・政府の効率化、低コスト化」がメイントピックになってきたため、特にリアルビジネスのマネジメントという、大企業に強みのある点が求められている。
・上記は言い換えると、「消費者の集客」から「企業のエンパワーメント」という第2ステージに移ったことを意味する。このBサイドへの価値提供のためには、ネットとリアルの融合やAIによる効率化(伝統的産業の再構築)がカギになる。
・toB向けのビジネスは、Bごとの個別性の影響で広く展開することが難しいため、ネットワーク効果が働きにくい
・中国企業の組織マネジメントの特徴は、少数のエリートが開発を行い、一般労働者がルールに従ってOpsを回すというもの。しかし、サービス品質への要求が高まる中でどこまでこの形で回せるかは疑問。
・プラットフォームとバリューチェーンの定義は一緒くたにしない方がいい。GAFAやBATはこの両輪を回すことで独自のエコシステムを形成している。
・アントフィナンシャルのイノベーションの中核は、①金融機能の側から顧客に近づき、顧客の行動に合わせて必要な時と場所で金融サービスを提供すること ②ロングテール顧客層への金融サービス提供(金融包摂)の2点。ジャック・マーは、このポジションをTechFin企業と称し、テクノロジーによって金融を再構築することを目指している。
・アリババのDataTech企業への転換、エコシステムの形成プロセス
①アリペイをGWとした、顧客との接点確保
②顧客の生活(食べる、移動など)にアリペイと連動したサービスを拡充
③データによる信用体系整備→取引コストを下げる&顧客理解に基づいたサービスの「繋ぎこみ」
④外部パートナーの力を活かした便利なサービスの開発→顧客のロックイン
・決済PFがミニプログラム提供に走るのは、インターネットユーザーの伸びが頭打ちになって以降「利用時間の奪い合い」がアプリ同士で発生しているため。だからPFもオープン化している。同時にデータ収集も狙っている。
・コミュニティECは、コストを抑えて新規トランザクションを獲得する工夫。しかしこれは中国では知人の意見を聞いて物を買うのが一般的だからであり、日本にそのまま横展開できるかどうかは微妙。
・アントの経営理念は"To turn trust into wealth"。レイチェル・ボッツマンは、三度目の信頼革命の入り口に立っていると説明する。最初は「ローカルな信頼」、次が「制度への信頼」、今回が「分散された信頼」
・日本でDXが進まないのは、部門の独立性が高く統合する動きに繋がりづらいと共に、「既存の事業モデルや組織を温存したままデジタルを導入しようとすること」が問題である。
・産業インターネットについて
○美団店評は、外食産業のラストワンマイルの効率化から「産業チェーン全体の効率化」を推し進め始めた。
○テンセントは、製造企業のエンパワーメントに注力している。そのためのクラウドプラットフォーム構想である。