あらすじ
文豪たちは味覚も鋭い。そして案外、健啖家。近代日本を作り出した文豪それぞれの好みを反映した「食」の物語には、時代の精神も刻まれていた。食べることは血肉を作り、生きることに他ならない。そこには思想もあれば主張もある。鴎外は他人と間合いを測りながらつつく牛鍋を弱肉強食の闘争に例え、独歩は和洋折衷・官民融和の理想を重ねた。江戸っ子の漱石は蕎麦、西国出の芙美子はうどんと、好みには生まれも反映する。美食を追求する者もいれば、ただひたむきに食うもの、大志を立てて粗食をする者もいる。本当に「食べる」ことは奥が深い。『文豪と食』同様、いろいろな食べ物を取り揃えてみました。
目次
森鷗外「牛鍋」……牛鍋
国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」……ビフテキ
夏目漱石「吾輩は猫である」より……蕎麦
林芙美子「小さい花」……うどん
正岡子規「御所柿を食いし事」……柿
幸田露伴「菊―食物としての」……菊
永井荷風「風邪ごゝち」……葱鮪
谷崎潤一郎「美食倶楽部」……美酒美食
芥川龍之介「魚河岸」……洋食いろいろ
泉鏡花「湯どうふ」……湯豆腐
岡本かの子「鮨」……鮨
夢野久作「お茶の湯満腹記」……茶懐石
斎藤茂吉「食」……鰻
山本周五郎「尾花川」……饗応と大志
太宰治「チャンス」……雀焼
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
どれも名作すぎてびっくりします。こんな贅沢な本はないです。なんだか本当にこんなにいいものたくさんをこの本一つで味わえていいんですかという思いです。
まだ途中ですが国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」の岡本の語りと近藤の視線が切なくて好きです。
Posted by ブクログ
文豪15人の「食」にまつわるアンソロジー。
文豪といっても知っている文豪もいれば知らない文豪もいる。
そもそも文豪の基準ってあるのかなぁ?
名前は知っているけど作品を読んだことがない人は多いのではないだろうか。
アンソロジーの良いところははいろいろな作家の作品が読めること。
森鴎外 「牛鍋」
1800字くらいで4頁しかない短編なんだけど
最初読んだ時に「なんだこれは?」
箸のすばしこい男と箸がすばしこくなろうとしている少女がひたすら牛鍋をを突っつく話。
弱肉強食の世界。
そして「人は猿より進化している」と。
一度読んだだけではなかなか理解が難しいが分かると面白い。
谷崎潤一郎 美食倶楽部
この話が一番長編で一番異質だった。
最後の落ちは美味しいものを食べ飽きて人間でも食すのかと、ちょっとホラーな結末なのかと思わせるほど食に対する意識と欲望の奥深さ深淵を覗かされた。そんな感じだ。
林芙美子 「うどん」
林芙美子というとどうしても戦時中のペン部隊を思い浮かべてしまうのだけど、この作品を読むと舞台が因の島ということもあり、おっとりとしていて児童書っぽい感じで驚いた。ひな子の将来が気になる。
正岡子規 柿「御所柿食いし事」
奈良の宿で御所柿をたらふく食べた経験を描いた随筆のタイトル。この体験があの有名な句
「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」のきっかけになったようです。正岡子規の柿好きは有名で
まさに「好きこそ物の上手なれ」って感じかな。御所柿は幻の柿といわれているので一度食べてみたい。
太宰治 雀焼「チャンス」
これが一番面白かった。太宰治ってこんなに陽気な性格だった?
雀焼への執念、花より団子で美女3人より雀焼が食べたくてしょうがないというのが笑える。
恋愛観に関しても面白い。
「自分達の助平の責任をなにもご存知ない天の神様に転嫁するのだから神様だって唖然とせざると得まい」とか電車で若い女性によろめいた話とか面白いエピソードが盛り沢山。
太宰治のイメージがガラッと変わってしまった。
その他にも面白い話はあったけど文体や言い回しが今と違うので調べながらの読書だったので思ったより時間がかかった。
あと、私が無学なせいか難解で何を伝えたいのか分からない話もあった。やはりこういうのが文豪の作品から遠ざかってしまう原因なんだろう。
だけど夏川草介さんの作品に難しいと感じたらレベルアップのチャンス!と書いてあったのでめげずに読んでいきたい。
Posted by ブクログ
「小さい花」林芙美子
由は、ひな子の時折見せる大人の女性の振る舞いに、嫉妬しているのだろうか。自分が子供に思えて仕方なくなるのかな?
「チャンス」 太宰治
面白かった。
愛という言葉で性的なものを隠し込もうとしてるのは頷く。
恋はチャンスに依らぬもの。
いくら恋がはじましそうな「チャンス」があっても、本人がチャンスと思っていなければ、恋は始まらない。