【感想・ネタバレ】ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話のレビュー

あらすじ

世界的な物語作家と聖路加の気鋭の漢方医が打ち合う、生命を巡る白熱のラリー!
『精霊の守り人』から医学の未来まで、知的好奇心を刺戟する圧倒的な面白さ。

最愛の母の肺がん判明をきっかけに出会った作家と医者。
二人の話は、身体のシステム、性(セックス)、科学・非科学、自然災害、宗教、音楽、絵画、AI、直感……、
漫画から古典、最新の論文にいたるまで縦横無尽に広がっていき、物語の創作の源泉もひもとかれていく。
かつてないほど刺激的な思考体験ができる究極の一冊。

なんのために生まれ、なんのために生き、なんのために死ぬのか。
人は、答えが出ないとわかっている問いを、果てしなく問い続けるような脳を与えられて、生まれてきたのでしょうか。――上橋菜穂子

なんのための生なのか、という問いは、いささか弱音のようにも聞こえるのですが、この弱音こそが、優れた物語の書き手である上橋さんの「創作の源泉」であるように私には見えてくるのです。-――津田篤太郎


コロナ禍にみまわれた2020年、文庫化にあたって、新章「未曽有の難局にどう向き合うか」(津田篤太郎)、「地球に宿る」(上橋菜穂子)を追加。

【著者略歴】
上橋菜穂子
1962年東京生まれ。立教大学文学部卒業。文学博士。川村学園女子大学特任教授。89年『精霊の木』で作家デビュー。
著書に『精霊の守り人』をはじめとする「守り人」シリーズ、『狐笛のかなた』『獣の奏者』『鹿の王』など。
野間児童文芸賞、路傍の石文学賞、本屋大賞、日本医療小説大賞など数多くの賞に輝き、
2014年には児童文学のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞作家賞を受賞する。

津田篤太郎
1976年京都生まれ。京都大学医学部卒業。医学博士。
聖路加国際病院リウマチ膠原病センター副医長、日本医科大学付属病院東洋医学科非常勤講師、北里大学東洋医学総合研究所客員研究員。
西洋医学と東洋医学の両方を取り入れた診療を実践している。
著書に『未来の漢方』(共著)、『病名がつかない「からだの不調」とどうつき合うか』『漢方水先案内』がある。

※この電子書籍は2017年10月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

お二人の言葉の選び方が美しく、とても気持ち良く読み進められました。時節の挨拶ひとつにしても、なんて鮮やかな表現なんだろうと感動の連続。
生と死という、一番身近でありながらどこか考えることを避けてしまうことについて、様々なお話を交えながら対話されています。興味深い話がたくさん出てきて、一気に読み進めてしまいました。

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2022年02月03日

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文庫化にあたり、2章追加されています。
これまでの章を踏まえて、この度のコロナに関するお二方の視点が書かれています。自分と同じ考えへの共感もあり、新たな捉え方の発見もあり、とても興味深いものでした。

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2021年04月01日

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上橋さんの書簡は星5。
津田氏の書簡は星無し。
(どこが嫌かは面倒だから省略。)
生きるということ、言葉の限界、一見関係なさそうなもの同士の相似。
上橋さんの、いろいろなことへの洞察により、混沌とした世界がクリアになり、いろいろ腑に落ち、落ち着く。
よき物語を紡ぐ人の文章は、書簡の形式をとっても変わらず魅力的。

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2021年02月04日

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新聞を読み、テレビを見、内容によって気持ちが動くことがある。ふと湧いた想いを捕まえることなく流してきた私にはその想いを言葉にすることはとても難しい。こうやって言葉にできる人たちがいることが嬉しい。

一つずつ頷きながら読み、辞書を引きながらゆっくりと読み返し、お二人と共にいる世界を感じた幸せな時でした。

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2020年09月17日

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ネタバレ

私も上橋さんとほぼ同時期に母を亡くしましたので、その部分では一年半も看病できた事が羨ましい。私の母は原因不明で入院し、直後、意識不明。一か月も面倒を見てあげる事ができませんでしたので。

それもまた生命力というものですし、色々と思う事が多い読書でした。

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2020年09月07日

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副題に「生と死をめぐる対話」とあるが、対談ではなく往復書簡という形式になっている。テーマは重いが、エッセイとして読むこともできる。
上橋氏が他界されたお母様を心から愛しておられることが文章、行間から伝わってきた。
無論悲しい話なのだが「これほど親を愛せるのか」という点では羨ましいとさえ思った。

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2022年06月25日

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お母様の晩年の過ごされ方とその支援をなさる上橋菜穂子さん、生物としてのヒトの生死にまつわる内容を語られる医師、おふたりの往復書簡。文章が美しく内容は興味深い。

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2021年08月12日

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守り人シリーズの作者の飾らない語り口と 医師として向き合う津田氏の誠実さが、伝わる往復書簡

もう一度 読み返して考えたい

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2020年12月27日

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蓑虫の雌の生態は、悲劇なのだろうか・・・。女性である上橋さんはふと考える。昆虫が4億年かけて選択したかたちが、あの生態なのだと考えたら?上橋さんにそう語りかける津田先生は優しい。
患者の看取りを重ねてきた津田先生と、向こう側とこちら側を考える上橋さん。なぜ人は死を恐れ、受け入れ難いのか。
答えのない会話を、往復書簡という形で応酬する。
それは対談よりも、もう少し考える時間がある。そして、相手の文章を何度も読み返して返事をかける。
それでも話が噛み合わなかったり、お互いの興味に流れたりして一貫性がないことも多かった。
それでも、ここには考える種が多く残っている。ラインをつけて、後からもう一度読んでみる。

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2020年12月10日

Posted by ブクログ

死生観のみならず、二人の往復書簡の話題は多岐に富む。年長者で作家である上橋氏は勿論、津田医師が実に泰然自若とした雰囲気を感じさせる。

掛かり付けの医師を持つならこういった方になって貰いたい。

これからの読書の秋の夜長に味わいつつ読むのにオススメ。

丸善京都本店にて購入。

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2020年10月09日

Posted by ブクログ

『守り人』シリーズや『鹿の王』の作者として知られる上橋菜穂子さんと、聖路加国際病院の医師である津田篤太郎さんとの往復書簡。上橋菜穂子ファンとしては、物語の背景となる作者の思想を知ることができる貴重な本です。

タイトルに「生と死を巡る対話」とあるように、人間の生と死や身体について、文学、医学はもちろん、生物学、文化人類学、社会学といった多様な視点から、二人が自由に語っています。織りなされる二人の対話の中から、ふと心に残る文章やフレーズが出てきて、自分の死生観が改めて問い直されるのを感じました。

特に、「人の心は生きたいと願う一方で、身体は時が来れば崩壊するよう促してくる。生まれた瞬間から、私たちは矛盾を生きるように定められている」という上橋さんの洞察は、とても正しく、とても恐ろしかったです。でも、その矛盾を強く心に抱いているからこそ、数々の素晴らしい物語を紡ぎ出すことができるのだとも感じました。

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2020年09月14日

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2015年1月、上橋菜穂子さんの母親の肺ガン罹病がわかります。その後の数ヶ月間は、娘はありとあらゆる手立てを尽くしてかけがえなのない生命を救おうとしますが、80代の身体とは思えないほど進行は速く、半年ほどして彼女は絶望の縁に立ちます。その時に出会った漢方医学の津田医師との、お互い看護と治療をしながら、母親の最期を看取りながらの往復書簡の内容です。

テーマは必然「生と死を巡る対話」となりますが、お互いの教養の広さと深さを知った上での対話は、人類学から生物学を踏まえた哲学的思考、或いは古典音楽からAIの話題まで縦横に語られます。

わたしも、父親の死を看取ることで、その時は少したいへんでしたがそれ以上に多くのことを学び、今でもハッと気がつくことがあって、あの時間を感謝しています(それと同等ぐらいの後悔と共に)。上橋菜穂子さんは、人類史規模、地球規模で学びます。わたしは、そこから少しでも学びたいと思います。

挿絵は全て上橋菜穂子さんが描いたという。鉛筆画ですが、玄人はだしです。「明日は、いずこの空の下」の表紙絵は父親が描いたものでしたが、この両親ありてこの娘あり、ですね。

以下覚書用のマイメモ。分かりやすく書くと膨大な量になるので、もう本当に自分だけにわかるように省略しています。

・何のために生まれ、何のために生き、何のために死ぬのか。(20p)

・性(セックス)は、絶滅回避システム。親と異なる遺伝子DNAを生み出す。
・人間は、性システムに一定の制限を設け、種レベルの多様性ではなく、個体レベルの多様性を達成。(33p)

・宗教を、私は信じません。神仏を思い、拝む気持ちはある。自分には見えない認識できないものはあるかもしれず、ないとは思えないから。「信じる」は、わからぬまま、静かに目を瞑って「想定の箱」の蓋を閉じ、安寧に至る行為。(51p)
←宗教者から反論はあるかもしれません。わたしはどちらかというと、上橋菜穂子さんの気持ちと同じ。ただし、「信じない方に賭ける」といった方が正確。

・「私は遺伝子を残すために生きているんですね、素晴らしい!」と思って納得出来る人はどのくらいいるのでしょう。
・人を産む能力が備わっていることを示す月経が、何故か世界各地で「穢れ」として扱われているのは何故か?(←cf.映画「パットマン5億人の女性を救った男」或いは我が郷土でも昭和始めまで月経小屋があった)ジェンダー論やフェニミズム的な見方だけでは説明できない。お産は、魂を永遠から有限の世界に引き出す、死への歩みを始めさせる行為、だと気がついていたから?死は、生まれてくる前にいた所(ほの暗い永久)に帰ってゆくこと。そう心から信じられたら、どれぐらい救われるだろう。(77p)

・「進化」は「最適解を選んだ」というわけではない。霊長類の経腟分娩は、頭部が大きくて危険を伴う。帝王切開が進んだたった100年で、頭の大きい胎児や骨盤の小さい女性が増えた。これは経腟分娩が進化の最適解ではなく無理を重ねた「苦渋の選択」であったことを裏書きする。
←この一つとっても、障害者を「排除」しようとする主張は、人類の多様性を担保した叡智に逆行する考え方だとわたしは思う。もちろん、このことだけが障害者存在の理由ではない。
・今や人類は「性」システムそのものを忌避する方向に動いている。(103p)
・「性」システムは、個々の人間に「成長」を、生物種には「進化」を与える力を持ち、一方で個体を滅ぼすほどの侵襲性がある。そこまでして「成長」「進化」に意味があるのか、という疑問もあり得る。

・何故生物は「性」システムを持つのか。それは、短い寿命と引き換えに素早く進化する細菌やウィルス、寄生虫に対抗するため。

・ウィルスの漢方最古文献は張仲景の「傷寒論」(紀元3)。「風」を軽症例、「寒」を重症例とする。ウィルスを何故「風」と表現したか。「易経」の「風」を説明する部分は、そのままウィルスの説明になっていたから。

・今年は1940年の「五輪挫折」からちょうど80年。歴史は80年周期で変動を繰り返すという説がある。1980年代のバブルまでが上がり坂、そのあとは衰退へ。だとすると、あと「数年のうち」に「どん底」を迎えることになる。(208p)2020年5月末日、津田記す。

・地球をひとつの身体としてみれば、私たち人類は、ウィルスと、とても良く似た存在。宿主に頼らなければ存在できないのに、なぜか宿主を害してしまうところなど。人類もまた、ウィルスに似て強かな生物。
・私たちは皆、ほの暗い永久から出でて、地球という宿主の中で、多くの他者と共に、辛苦と幸せを味わいながら生きている。(222p)令和2年6月、上橋記す。

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2020年09月12日

Posted by ブクログ

上橋さんと医師の津田さんの往復書簡。
生物のメカニズム、生と死の考えが綴られていて、なかなか面白かった。
"想定できる範囲を超えたものは他の生物には見えていても、当事者には見えない"とか、"人間には寿命があり、AIには無いが故に、それぞれに出来る事の違い"とか
宇宙とか永遠とか、スケールが大きい話が続いてたからこそ、たとえそれが種の生存にはさして意味がないとしても、一瞬一瞬の感情を大事に生きていきたいなと思った。
それを表しているのが上橋さんの作品なんだな。

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2025年01月04日

Posted by ブクログ

作家)上橋菜穂子×漢方医)津田篤太郎による往復書簡。

人はなぜ生きるのか、進化のためならそのゴールはどこ?という根本的な問いに個の体験やアボリジニ社会の習慣まで交えてアプローチしたりと非常に面白かった。
特にミノガの一生の話がインパクト大!
種の保存のためにここまで個を殺せるのかと遺伝子の設計が恐ろしくなった。

本題とは関係ないが、時候の挨拶って形骸化されていてで無駄なものだと思っていたけど、お二方の文章は瑞々しくそれ自体に詩のような趣があって日本語の美しさを堪能しました。

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2024年06月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

164ページの「私は身体が喚起してくる感情をコントロールできないのだ」と言う言葉が深く印象に残りました。自然に、生物学的なレベルで生じる反応は本当に生々しくて扱いづらいけれど、それを含めて自分だと、コントロールしようとしすぎずに受け入れていくことは大切だなあ、と感じ入りました。

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2023年03月17日

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