あらすじ
20世紀後半以降、人間社会に次々に出現するようになった新たなウイルスを「エマージングウイルス」という。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)もその一つである。新型コロナウイルスにおいて起きたことは、他のエマージングウイルスにおいてすでに起きていた。感染者と共に大西洋を渡ったラッサウイルス。宿主であるコウモリからほかの動物を介してヒトに伝播したニパウイルス。院内感染がクラスターとなったエボラウイルス。憶測が差別につながったハンタウイルス。そして、SARS・MERSウイルスの出現は、コロナウイルスのグループからさらに新たなウイルスが出現する可能性があることを示唆していた。人類は、ウイルスの発見以来、ワクチンや治療薬、分離・判定技術、情報網などの対抗手段を急速に発展させてきた。しかしその一方で、人間社会の発展そのものが新たなウイルスの出現を促し、感染を加速させているという見方もできる。動物やヒトが密集し、短時間に長距離を移動できるようになったことにより、ウイルスと新たな宿主が出会う機会は急増し続けている。エマージングウイルスの10の事例を通じてウイルスと人間社会の関係を俯瞰し、今後も新たなウイルスが繰り返し社会に現れうることを警告する書。
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Posted by ブクログ
著者は1931年生まれで、長年ウイルス研究に携わっている。新型コロナ禍真っ只中の2020年に書かれた本だが、筆者の長年の経験と、人類がこれまで経験してきた多種のウイルスとの闘いの記録だ。
医療関係者達が命がけで対策を講じ、また数々の動物実験も含め多くの犠牲の上でウイルス対策がなされてきたことが医学的、科学的観点で語られている。
感染源として度々登場する動物の中に豚、コウモリ、ネズミが出てくる。コウモリやネズミを見ると人間が本能的に不快感を感じることがあるのは、「ウイルス感染源」としての恐怖を感じるからだろうか。また、豚を「不浄な生き物」として扱う宗教があるのは、大昔に「豚から流行病に感染した」経験則からそのように扱うようになったのか。
そしてウイルスを封じ込めても次々と新手が現れるのは人間の活動範囲が広がるタイミングであり、「これ以上人間だけ増えられては困る」という地球の意思なのではないかと思えてならない。