【感想・ネタバレ】社会的ジレンマ 「環境破壊」から「いじめ」までのレビュー

あらすじ

「自分一人ぐらいは」という心理が集団全体にとっての不利益を引き起こす社会的ジレンマ問題。違法駐車、いじめ、環境破壊等々、現代社会で起こっている多くの問題はこの「社会的ジレンマ」と見ることができる。著者は数々の調査・実験・シミュレーションから、人間は常に自分の利益を大きくすることだけを考えて「利己的」な行動をとるわけではなく、多くの場合、「みんながするなら自分も」という原理で行動することを明らかにした。そしてこの「みんなが」原理こそが人間が社会環境に適応するために進化させてきた「本当のかしこさ」ではないかと指摘する。『信頼の構造』『安心社会から信頼社会へ』などの話題作を発表し、心と社会との関係について、認知科学・心理学・社会学・経済学など多方面からユニークな研究を展開する著者。本書も、これからの社会や教育のあり方を考える上で、お説教的な精神論の限界を乗り越える重要なヒントを与えてくれる。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

(p.17)社会的ジレンマの定義
• こうすれば良いと「わかっている」協力行動をとると、その行動をとった本人個人にとっては好ましくない結果が生まれてしまうような状態
• 一人一人の人間にとっては、協力行動をとるよりも非協力行動をとる方が、個人的には有利な結果を得ることができる

(p.37)小さな伝統的な共同体では、社会的ジレンマはある程度解消されていた
• 小規模な集落では、住民がお互いに役割を分担し、協力関係を築いている
• 一人だけ非協力的行動をとった場合、いざという時に協力を得られず生きていけない
• 「とりあえず協力しておいた方が得」という環境で生活している

→現代社会の常識で考えると異常に思える田舎の同調圧力は、実は社会的なジレンマを解消するための役割を持っていたという気づきがあった。

(p.59)「継続的に発生する囚人のジレンマ」と利己主義の話
• 「囚人のジレンマ」とは、2人の囚人が互いに協力的な行動をとることが望ましいが、個人の利益やリスクを考慮した結果、非協力的な行動をとってしまうという状況
• 「賢い利己主義者」は物事を長期的に考え、相互に協力的な関係を築き長期的な利益を追求する
• 実験の結果、囚人のジレンマの状況が何度も繰り返す場合「常に協力的な行動をとる」参加者は安定して利益を受け続けた
• 最も高い成果を上げたのは、基本的には協力的だが、相手が非協力的な場合に自分も非協力的な行動を選択する「応報戦略」をとった参加者

→実際の世の中はさまざまな事象が複雑に絡み合っており、囚人のジレンマが継続している状態と言えるのではないだろうか。その中で、一度きりの囚人のジレンマだと考えて、非協力的な態度を取り続ける「愚かな利己主義者」は、長期的には信用を失ってしまう。
世の中どこで何が繋がっているかわからないから、目先の利益に走ることなく基本的には協力的な行動を選択するという方針で生きた方が賢い生き方なのかな、と感じた。

0
2024年08月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

様々な本を読んで思った事があります。それは、これからの学問は社会心理学と哲学(哲学史を含む)の時代だ、という事です。著者の本を読む度に、この『社会的ジレンマ』の課題解決に苦心する環境を打破できる処方箋があればな~と思います。フリーライダーの問題が解決できれば更に進歩した社会になる、しかしその根本的な解決法や処方箋は著者も持っていません。
テレビCMで、『江戸時代の日本人の生活にはリサイクルが根付いていました。未来を頼んだよ!』というフレーズのものがあります。それはつまり、換言すれば『江戸時代の日本人は物を大切にしていた。それが日本人の民族性だ。しかし現代人は物を大切にしないで、ちょっと使えなくなったら捨てて新しい物を買うようになった。実に嘆かわしい事だ』と暗に言っているように聞こえますが、それは決して問題の本質を突いたものではなく、『当時(江戸時代)は資源が限られていたためにリサイクルせざるを得なかった。そして現代は資源の枯渇に困る事が無いからリサイクルをしない。もとも日本人は物を大切に使うという民族性ではない』が本質です。畢境、各人なり国民なりが置かれた社会環境によって制約を受けているので、行動心理学的な、結果(行動)のみを見て心理的にアプローチするには限界があります。その点で言えば、社会心理学は行動心理学より包括した学問と言えます。

社会的ジレンマの一つ、いじめ問題の解決アプローチを書いていますが、巷にあるようなお説教的方法ではなく、『いじめを傍観者する人数によって解決できる』との論は一読の価値有りですし、社会(環境)づくりの肝要性を感じます。
ただ、先述したように、これといった社会的ジレンマの処方箋や特効薬を著者も持っていない、というのが残念です。一生懸命やった人間が馬鹿を見る、ダイエットに成功する、環境破壊問題、あらゆるところで社会的ジレンマは世界を覆っています。

最後に…本書で時々、性に関しての記述があったのは面白かったです。著者は執筆の際に性的欲求不満があったのでしょうか(笑)
知的好奇心をくすぐられる一冊、僕の評価はA-です。

0
2011年09月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

[ 内容 ]
違法駐車、いじめ、環境破壊等々、「自分一人ぐらいは」という心理が集団全体にとっての不利益を引き起こす社会的ジレンマ問題。
数々の実験から、人間は常に「利己的」で「かしこい」行動をとるわけではなく、多くの場合、「みんながするなら」という原理で動くことが分かってきた。
この「みんなが」原理こそ、人間が社会環境に適応するために進化させた「本当のかしこさ」ではないかと著者は考える。
これからの社会や教育を考える上で重要なヒントを与えてくれるユニークな論考。

[ 目次 ]
第1章 イソップのねずみと環境破壊
第2章 社会的ジレンマの発生メカニズム
第3章 不信のジレンマと安心の保証
第4章 ジレンマを生きる
第5章 「かしこさ」の呪縛を超えて
第6章 社会的ジレンマの「解決」を求めて

[ POP ]


[ おすすめ度 ]

☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

[ 関連図書 ]


[ 参考となる書評 ]

0
2011年04月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この本によると、「社会的ジレンマ」の定義とは「こうすればよいと分かっている行動を取ると、その行動を取った本人にとっては、その行動を取らなかった時よりも好ましくない結果が生まれてしまう状態。ただし、全員がこうすればよいと分かっている行動を取れば、最終的には全員にとって最もよい結果を引き出すことができる」ということ。
端的な例として、みんなが公共交通を使えば環境問題や交通渋滞は解消するが、自分ひとりだけ車通勤から電車通勤に切り替えてもたいして状況は改善しない。そのため、相変わらず車通勤を続けてしまう、というものが挙げられている。

この社会的ジレンマと、誰でも一度は聞いたことがあるはずの「囚人のジレンマ」を主軸に据え、人間が社会環境に適用し、社会を発展させてきた原理を丁寧に検討している。結構しっかりした本なので、頑張って読まないと主張の軸を理解できなくなるけど、説そのものは面白い。欲を言えば、本の大半が社会的ジレンマの分析に割いているので、もう少し実例を交えて、自分の身近なところにも適用できる話なんだ、という実感が持てるようにしてほしかった。

0
2012年06月02日

「社会・政治」ランキング