あらすじ
坂道と石段と石垣が多い町、夏流に転校してきたミチル。六月という半端な時期の転校生なので、友達もできないまま夏休みを過ごす羽目になりそうだ。終業式の日、彼女は大きな鏡の中に、緑色をした不気味な「みどりおとこ」の影を見つける。思わず逃げ出したミチルだが、手元には、呼ばれた子どもは必ず行かなければならない、夏の城―夏流城での林間学校への招待状が残されていた。ミチルは五人の少女とともに、濃い緑色のツタで覆われた古城で共同生活を開始する。城には三つの不思議なルールがあった。鐘が一度鳴ったら、食堂に集合すること。三度鳴ったら、お地蔵様にお参りすること。水路に花が流れたら色と数を報告すること。少女はなぜ城に招かれたのか。長く奇妙な「夏」が始まる。(「七月に流れる花」)
夏流城(かなしろ)での林間学校に初めて参加する光彦(てるひこ)。毎年子どもたちが城に行かされる理由を知ってはいたが、「大人は真実を隠しているのではないか」という疑惑を拭えずにいた。ともに城を訪れたのは、二年ぶりに再会した幼馴染みの卓也(たくや)、大柄でおっとりと話す耕介(こうすけ)、唯一、かつて城を訪れたことがある勝ち気な幸正(ゆきまさ)だ。到着した彼らを迎えたのは、カウンターに並んだ、首から折られた四つのひまわりの花だった。少年たちの人数と同じ数――不穏な空気が漂うなか、三回鐘が鳴るのを聞きお地蔵様のもとへ向かった光彦は、茂みの奥に鎌を持って立つ誰かの影を目撃する。閉ざされた城で、互いに疑心暗鬼をつのらせる卑劣な事件が続き……? 彼らは夏の城から無事に帰還できるのか。短くせつない「夏」が終わる。(「八月は冷たい城」)
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Posted by ブクログ
世界のことわりを変えた最近の疫病がモチーフなのかな。
全身みどりのおとこに連れられて、夏のお城に向かう少女たち。
第二章は少年たちの視点。
不思議なできごとがおこり、この風習の意味、全身みどりのおとこの意味が
じわじわと明かされていく。
みどりおとこの中に、この世を去った家族たちの記憶が積み重なっているかもしれない。
それは救いともなんともいえない。
童話のようなノスタルジックな雰囲気の中に、ミステリ感もSF感もあるお話だった。
Posted by ブクログ
「7月」は主人公のミチルと同じ視点で話が進むので、全体的に薄暗い霧の中を、有無を言わさず引きずられていく感じで進む。後半、状況を理解すると、今までのことがひと夏の悲しい思い出になり、みんなの希望でありながら孤独な「夏の人」へ、畏怖にも近い念を感じるようになった。夏の人が、最後に蘇芳に言った、「佐藤先生は、、、」の言葉は、ひょっとしたら人によって違う言葉に聞こえるのかもしれないなと思った。
それに対して状況が分かった上で読み進める「8月」は事情が違う。ここでは起こるはずのないことが次々と起きる。母屋で見つかった首の折れた4本のひまわりは何を指すのだろう。光彦は「あいつ」の仕業と言った。「あいつ」は夏の人のことだと思うけど、一体、夏の人はひまわりで彼らに何を伝えようとしたのか。それとも私が見落としただけで幸正がやったことだったのかな。
最後の「親を亡くした悲しみはこの夏流に置いて行きなさい、真っ直ぐ前を向いて歩いて行きなさい」という言葉に希望が見えた。
そして、読みながら理瀬シリーズを思い出した。