あらすじ
なにから逃げるの? どこに行くの? わたしをひとりにしないでねっ。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の後日談を含む全7編を収録。青春・SF・家族ドラマ……。読了後、世界は動き始める。想像力の可能性を信じる、桜庭一樹10年間の軌跡。かわいいかわいい由美子ちゃんセンセ。こどもみたいな、ばかな大人。みんなの愛玩動物。そんな由美子ちゃんの一言で、わたしと彼女は、退屈な放課後から逃げ出した。(「じごくゆきっ」)。とある田舎町に暮らす、二人の中学生――虚弱な矢井田賢一と、巨漢の田中紗沙羅。紗沙羅の電話口からは、いつも何かを咀嚼する大きくて鈍い音が聞こえてくる。醜さを求める女子の奥底に眠る秘密とは。(「脂肪遊戯」)。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
「砂糖菓子〜」の時もそうだったけど、改めて子どもは生まれ落ちた先が地獄でも逃げることなんて簡単に出来ないんだなと。耐えてサバイブ出来た人間だけが大人になれるんだ。砂糖菓子の時は理不尽という棒で頭をガツンと殴られたような衝撃だったけど、これは真綿で首を絞められてる感じ。私は本のこちら側で祈るしかできない。みんな生きてね。生き残ろうね。
Posted by ブクログ
桜庭一樹先生らしい,夢の中にいるような,矛盾だらけで,だから納得できるような気がする短編集.
「暴君」 カミュの「カリギュラ・誤解」は学生時代に読んだはずなのだけれど,全然憶えていないや(「暴君とは」「物事が見えなくなった魂」ねー,んーと,まったく記憶に引っかからない.再読してみるか.再読して:「罪こそ我が家」は「誤解」からか.良くこんなフレーズ引っ張ってきたなー).少女の肉体はまるでオバケヤシキか,うん,桜庭節だね.
「ビザ-ル」 同郷の更田さんに押し切られて二股交際を始めたカノさん.更田さんは,やくざの抗争の流れ弾で障害を負ってしまい,土砂崩れで壊滅的被害を受けた故郷の町の過去の夢に捕らわれてしまう.交際を始めたときには競馬かなにかで勝ったような薄笑いをうかべた更田さん.そのときドロボウみたいに笑ったカノさん.見捨てることを決めたとき,ガラスに映った泣いているつもりの顔は,またドロボウみたいに笑って見える.ちょっとゾクッときた.
「A」 アイドルの神様のお話.生ける屍はさすがにムリだけど,アバターを使ったアイドルは今後普通になっていくのだろうな(2Dならもういるし).
「ロボトミー」 この短編集の中で一番良かった.娘のユーノに異常に執着するユーノママにつきまとわれて半年でユーノと離婚したタカノ.再会したユーノは記憶障害を患っていて,それは離婚の直接の原因となったタカノの暴力のせいだとユーノママになじられる.何年か悶々としていたら,ユーノママからユーノの面倒をみるように指示する呪いの遺書が届く・・・.多幸感に包まれ同じ時を繰り返すユーノ,仕返しをしたりもするタカノ.最後の,「あっ、おかえりぃ。タカノ」・・・「・・・うん。ただいま、ユーノ」は,どう表現したらいいのだろう,ホントーにいい.
「じごくゆきっ」 女子高生の金城さん(16才)は,副担任の由美子ちゃん先生に夜汽車に乗ってどこかに逃げようと強引に誘われる(誘い文句はじごくゆきっ).雪の鳥取砂丘か,一度行ってみたいな.
「ゴッドレス」 父親の香に支配されて育ったニノは,香から香の恋人の勉と結婚しろと命令されて,困惑していたら,今度は勉をとるなと激しい暴行を受ける.勉が殺されて数年経ってから,勉を殺した(おそらく偽りの)記憶がよみがえる.「砂糖菓子」や「私の男」をなんとなく彷彿させられる作品.
「脂肪遊戯」 「暴君」の紗沙羅ちゃん再登場.紗沙羅ちゃんが脂肪の鎧をまとったのは,予想通り.賢一君が退屈と感じた,有り触れた美人になった紗沙羅ちゃん.もう少女たちの神様でいる必要もなく,金堂さんに憎まれることもなくなったのだろうか.いやそれは別の話か.