あらすじ
住人たちが逃げ出し、二度と戻ってこなかったため廃墟になった村、パライソ・アルト。そこを訪れるのは、人生を諦め、命を絶とうと決めた人に限られる。逆立ちで現れた、うなじにコウモリのタトゥーがある少女。車に積んだ札束を燃やしたいと言う大物銀行家のような男。口を利かず、横笛の音色で受け答えする男。廃墟に住む「天使」は、彼らになぜパライソ・アルトにやってきたのか尋ね、生い立ちに耳を傾け、「向こう」への旅立ちを見送る。生と死、日常と非日常の狭間にたゆたう不思議な場所と、幻のような来訪者たち。詩人としても高く評価されているスペインの作家が贈る、美しく奇妙で、どこかあたたかな物語。
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Posted by ブクログ
荒廃した村に次々と現れる自殺希望者と、それを迎える怪しげな「天使」とのやり取り。
設定が全体的に謎のままどんどん話がオムニバス的に進んでいくけれど、どれもこれも読後感が絶妙。ずっと薄暗い道を進んでいくような、でも心細くならない感じが、大変好みでした。
以下、印象に残ったフレーズ。
「作家を偉大たらしめるのは、夢で見る銀の糸を、現実世界の針の穴にとおす腕前なんだ、先生はいつもそう言ってた。」
「人生とは炎のようなものだ。横笛の音色はそう語っていた。ある程度の年齢に達すると、炎には人生の思い出が重なり合ってくる。」
「死はどんなふうに踊るんですか? そう聞くと、生まれて初めて夜遊びに繰り出してきたティーンエージャーみたいにしてね、と答えた。」
「ふたりのコメントは聞き流し、パライソ・アルトを歩いてまわった。村のたたずまいが気に入ったようだった。病人みたいな微笑みを浮かべてるのね。カレンダーの最後の一枚みたいな感じ。」
Posted by ブクログ
「自殺」がテーマでありながら、読みすすめると装幀画の世界が広がっていく。何処かに「パライソ・アルト」のような場所があるのかも知れない。と錯覚してしまうほどの不思議な感覚が読後も続く。
Posted by ブクログ
"子どもは、大人が小説を解体するようにしてボール紙の馬をバラバラにしてしまう。夢が何でできているかを突き止めたいのだ。しかし店には、昔ながらのボール紙の馬は置かれておらず、モップに車輪がついたような馬しかなかった。"
"新約聖書っていうのは、つまり、人間のありようがコントロールの及ばない変化をたどることや、権力と醜悪さの関係を描いた書物であって、よくできた探偵小説と変わらないんだよ。"
そんな本だった。
Posted by ブクログ
村人が逃げだして見捨てられた廃墟の村は、いつしか自ら命を絶つと決めた者たちが次々て訪れる聖地となる。
村を訪れる者を出迎えてくれるのは、元自殺志願者の中年男ー 自称、「天使」だ。
天使は気の利いたことを言うわけでも、慰めてくれるわけでもない。たまたま居合わせただけといった風情だ。墓は作ってくれるらしい。
来訪者たちとの最期のひとときを、オムニバスのように男が回想してゆく。
奇妙で幻想的な雰囲気と、人をくった与太話然とした胡乱さがブレンドされて、読みながらゆるい午後の日曜日といったまったりとした空気に包まれる。
それが死ぬ前の一日にふさわしいのかと問われても、正直言ってわからない。
悲壮感を通り過ぎてしまった後の静けさを、来訪者たちの多くは漂わせる。なんだか、悲しみを余りにも長いこと抱えているうちに、色が抜けて漂白されてしまったかのようだ。
でもやっぱり、悲しみの影は付き纏っているし涙が枯れたわけでもない。
そんな風にドアを閉めて去ってゆく人々を、なんとはなしに見送る。
読み応えて心に残るというよりも、ぽっかりと穴が空いた気分だ。
穴の中で、廃墟の村パライソ・アルトの埃っぽい乾いた風が舞い続けている。