あらすじ
噓つきは教師か? 生徒か?
SNSに投じられた学校代表の「読書感想文」盗作疑惑。
渦巻く疑心が人の心の暗鬼を呼び覚まし、一人の教師を奈落の闇に突き落とす。
エンタメ小説の鬼才が教育現場の圧倒的リアルに迫った学園震撼サスペンス!
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
物語全体を通してまるで『山月記』の読書感想文を読んでいるようだった。作中には『羅生門』など他作品も引用されているが、やはり人とまともに関わらず自尊心を飼いふとらせている点が物語の肝になっていると思う。昔授業で山月記を習ったときはなんとも思わなかったが、大人になった今だとこの自尊心を飼いふとらせるという表現が自分に深く突き刺さった。
この主人公にどこまで感情移入できるかで評価が変わりそうな気がする。展開だけを見れば、中学校教師の過労、政治家の癒着、婚約者の失望、同僚・生徒の裏切りなど、主人公がひたすら傷付けられている。それを一歩離れたところから見てざまあみろと嘲るか、一緒になって自分の心を痛ませるか。自分は後者だったからこそのカタルシスを得られた。
とりあえず今一度『山月記』を読み直してみようと思う。
Posted by ブクログ
読書備忘録622号。
★★★★。
201X年代後半から作者は特定の社会的テーマで事実に近い小説を世に出し始めましたが、この作品はSNSと学校がテーマ。実際にあったことをモチーフにしていない分、フィクション色が強い感じでした。
舞台はとある中学校。読書感想文に力を入れており、全日本少年少女読書感想文コンクールに応募することを目的にカリキュラムに組み込んでいる。
そこで起きた盗作疑惑。SNSで瞬く間に保護者も含めて拡散された。
感想文は、既に学校の代表となり更に市の代表選考も突破していた。書いたのは市の教育長の娘、薮内三枝子。指導したのは学校の文芸部顧問で国語教師、汐野悠紀夫。
盗作疑惑は学校への持ち込みが禁止されている生徒のスマホからLINEで発信されていた。持ち主は発信された時間サッカーグラウンドにいて、スマホは持っていなかった。悪意をもったイタズラなのか・・・?
盗作疑惑は単なるイタズラとして火消しに奔走する汐野。汐野は県会議員の娘と交際しており、この県会議員と教育長は繋がっており、汐野は教師から市の教育委員会に抜擢され、そのあと政治家への道が約束されており、ここでケチが付くわけにはいかなかった・・・。自分の政界進出を絶対に成し遂げるために。
しかし、SNSを使った盗作疑惑情報の発信はエスカレートしていく。
そして疑惑は、学校統廃合の賛成派反対派の陰謀という構図、教育長と県議の癒着など地方政治腐敗の暴露に発展していく・・・。
しかしそもそも、盗作疑惑を投げかけたのは誰なのか?真相は思わぬ方向に一気に舵を切りクライマックスへ!
めっちゃ怖いですね。正に暗鬼です。笑
この作品には、一度発信されたら拡散を止めようがないSNSの恐ろしさと、セキュリティや個人情報に無頓着にスマホを使う中学生の危うさ、加えて、実際に新聞を賑わせている教育現場における過重労働、お約束の地方政治の腐敗と利権問題を絡めに絡めてエンターテイメント小説に仕上げています。
誰でもわかりますが、作品名は志賀直哉の暗夜行路をもじっていますが、主人公が暗夜を彷徨い何かを見つけていくという物語ではなく、暗夜に暗鬼が彷徨う疑心暗鬼の世界が人間の社会であるこということを言いたいのだと思います。
嗚呼、面白かったぁ。笑
Posted by ブクログ
市立駒鳥中学校は、一学年に一、ニクラスの小規模校で、目立ついじめも暴力事件もない平凡な中学校。
作家の夢に挫折し国語教師となった汐野が、文芸部の顧問として指導し、最優秀作として全日本コンクールに出品した読書感想文が、過去の優秀作の盗作だという告発のLINEが流れる。
感想文を書いた生徒が教育委員会の教育長の娘だったこともあり、悪質なイタズラとして片付けようとした学校側の思惑をよそに、またあらたなLINEが投稿され、やがて保護者たちを巻き込んで問題は大きくなっていき…
月村了衛さんが中学校を舞台にサスペンス?と意外だった。
読んでみれば、中身は中学生の話ではなく、夢破れて傷ついた自尊心と密かな野心を腹の中に育て、なお疑心暗鬼に陥って苦しみのたうち回る男の姿。
うーん、ハッピーエンドでもない。爽快感もない。
でも、やっぱりヒリヒリした緊迫感で、一気に読まされてしまった。
月村作品の多くに登場する、寡黙ながら強い信念に貫かれた主人公…というイメージとは全く違う、汐野。
ちょっと嫌な男だけれどごく普通の男が、とことん悪い巡り合わせで悪意を一身に浴びて苦しみ、悲痛な叫びだけが残るラスト。
なんともやるせないような、もうすぐ人が獣に変じるのを見てしまいそうな。
国語の授業シーンとして『山月記』が使われ、李徴の言葉が汐野を苛むように繰り返し挿入される。
というか、そのために中学校を舞台にしたんじゃなかろうか。
ところで、書道部顧問の塙が探偵役になって、哀れな汐野をギリギリでソコソコ助けたりするのかと思ったら、大ハズレでした〜。
ははは、低俗な予測でスミマセン。
Posted by ブクログ
誹謗メールに始まる学園ミステリー。
最近の著者の作品は現代ノワールのハードボイルドサスペンス調だったので、社会問題は絡めているもののエンタメ系の学園ミステリーでした。
真相はがっかりな感じでしたが、ラストの主人公の精神が破綻していくのが怖かった。